ボーカル/ギター/ドラムのレコーディングで活用できるAAX DSPプラグインを紹介

ボーカル/ギター/ドラムのレコーディングで活用できるAAX DSPプラグインを紹介

Hybrid Engineにより、さらに活用の幅が広がったAAX DSPプラグイン。ここでは、ニア・ゼロ・レイテンシーでの動作を生かした、ボーカル、ギター、ドラム・レコーディングでの活用法を、サウンド・エンジニアのグレゴリ・ジェルメン氏に解説いただく。

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グレゴリ・ジェルメン氏。レコーディング・エンジニアになるべくパリから来日し、専門学校卒業後スタジオグリーンバードを経てDigz Inc, Groupに。2021年に独立し、Sonic Synergies Engineeringを設立

 Release 

『花は純、君に幸あれ』
KISORA
MTRX Entertainment

ボーカル|自然なかかり具合を目指してコンプをキャリブレーション

 歌の録音では、ボーカルが聴くモニターの音作りが大切です。通常はモニター・サウンド用にバス・トラックを用意し、そこへコンプやEQをインサートして音作りを行います。

 

 よく使っているのはPLUGIN ALLIANCE Vertigo VSC-2。癖が無く透明感のあるコンプです。僕はVSC-2のかかり具合のキャリブレーションを事前にしています。レシオ2:1、アタックは遅め、リリースは速めに設定した状態で1kHzの信号を入力し、1dBコンプレッションされる設定にして、アウトプット・ゲインは同じく1dB持ち上がるように調整するんです。こうすることでボーカルの歌い方に合った、自然なコンプレッションが得られます。

 

 いろいろなスタジオに行くため、場所によってはVSC-2が用意されていないことも。その場合は定番のBOMB FACTORY BF-76を使ったりします。ただ、VSC-2と違ってコンプのかかり具合が読みにくく、音が大胆に変わる場合もあるので注意が必要です。

 

 リミッター&サチュレーターのSONNOX Oxford Inflatorもよく使いますね。深めのコンプレッションでもポンピングが起きることは無く、しかし音は派手になるため、歌がオケに負けないようになります。そのためオケもより派手めにすることができ、最終的なイメージに近い音を録音時から作れるんです。

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ボーカル録音時によく使用するAAX DSPプラグイン。画面中央上部にあるのがPLUGIN ALLIANCE Vertigo VSC-2だ。画面左側にあるSignal Generatorで1kHzの信号を出力し、設定のキャリブレーションをしている。VSC-2の右下はSONNOX Oxford Inflatorで、その左側はAVID EQ III

ギター|音作りを円滑に進めるためのエフェクト・プリセットを構築

 今ではギター・アンプを鳴らさずにライン入力でギターを録ることも多々あり、その場合はプラグインでサウンドを作っていくことになります。AAXネイティブのプラグインを使うことも多いですが、AAX DSPプラグインだとAVID Eleven MK IISOFTUBE Vintage Amp RoomAVID Tech21 SansAmp PSA-1などでアンプの音作りをしています。

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ギター・アンプ・シミュレートに使っているプラグイン。画面左上から時計回りにAVID Eleven MKII、Tech21 SansAmp PSA-1

 エフェクトによる音作りでは、AVIDのストンプ・ボックス・タイプのAAX DSPプラグインを活用しています。多くのエフェクトのバリエーションが用意されているのは魅力的です。レコーディング中にアーティストから“もっと面白いギター・サウンドはないですか?”と相談されることもあるので、それらのストンプ・ボックス・エフェクトをカテゴリーごとに幾つか組み合わせ、トラック・プリセットとして保存しています。例えば“モジュレーション系のサウンドが欲しい”と言われたら、Vibe PhaserRoto SpeakerOrange PhaserFlangerC1 Chorusを用意したプリセットを呼び出し、アーティストが求める音を作っていきます。

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モジュレーションのストンプ・ボックス・エフェクトで構成されたプリセット。画面左上から時計回りにAVID Vibe Phaser、Orange Phaser、C1 Chorus、Flanger、Roto Speaker

 ハードウェアをつなぎ替えたりするのではなく、その場で気軽にエフェクトを入れ替えながらアーティストと一緒に音を作っていけるのがプラグインの良いところ。またAAX DSPプラグインでレイテンシーを気にせずに済むのは、ギタリストにとっても演奏する上で大切なことです。

ドラム|完成系を想定しつつ録音時からパラレル・コンプを活用

 ドラムのモニター音作りでよく使うのが、ジョー・チッカレリも録りの段階から行っているというパラレル・コンプレッションです。キックなど個別のトラックにもコンプやEQを入れていますが、原音とエフェクト音を混ぜたパラレル・コンプを加えることで、ミックスでの完成系を録音時から提示できるんです。ドラムのバスを作り、そこへAAX DSPプラグインのコンプをインサートして元のドラムと混ぜます。ここでもレイテンシーの無さが生きてきますね。

 

 僕がいつも用意するコンプを紹介しましょう。まずはボーカルにも使っているVertigo VSC-2。先述したように透明なサウンドが特徴です。次はPLUGIN ALLIANCE Brainworx BX Townhouse Buss Compressor。古いSSLのバス・コンプをモデルにしたプラグインです。SSLらしいパンチが加わります。

 

 UREI 1176系のPLUGIN ALLIANCE Purple Audio MC77も使っています。こちらは派手めな印象で、そういったサウンドを狙うときには8:1や12:1、もしくは全押しでのコンプレッションを施します。ちなみに、4:1と12:1を同時に押すなど、異なるレシオの組み合わせが可能です。1176系プラグインでは“それぞれのレシオと全押しのみ使える”という製品もありますが、MC77はレシオの組み合わせによる独自のサウンドが生み出せます。ひずみによって音を接着するようなイメージです。

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ドラムのパラレル・コンプレッションに使うプラグイン。画面左上から時計回りにPLUGIN ALLIANCE Vertigo VSC-2、Brainworx BX Townhouse Buss Compressor、Purple Audio MC77。各コンプはパラレル・コンプ用のバスに用意し、試しながら適したものを選んでいくそうだ

 SOFTUBE FET Compressorも1176系のコンプです。レシオは1:1からALLまで可変式に選択でき、実機よりも幅広い設定ができます。微妙なさじ加減が行えるのが良いですね。サイド・チェイン機能のほか、ロー/ハイ・カット、入力音を先読みしてコンプレッションするルックアヘッド機能まで備わっています。ドライ/ウェットのノブもあるので簡単にパラレル・コンプレッションが可能です。まさに“スーパー1176”といったプラグインになっています。

 

 PLUGIN ALLIANCE Shadow Hills Mastering Compressorはコンプレッサー・タイプを2種類搭載しているのが特徴です。オプティカルとディスクリート(VCAタイプ)があり、それぞれを使うこともどちらか一つを使うことも可能。また、トランスの種類もNICKEL/IRON/STEELの3つから選べるので、音作りの選択肢が多いです。見た目から難しく感じてしまうと思いますが、うまく使えれば素晴らしいドラム・サウンドを作ることができます。

 

 PLUGIN ALLIANCE Mpressorはとても透明感に優れたコンプ。サイド・チェイン機能やEQが備わっているので、どんな帯域でコンプレッションするのかをコントロールしやすいですね。

 

 AVID Fairchild 660はドラムのプロセッシングでは定番です。ザ・ビートルズなど、ビンテージなドラム・サウンドを構築するのにも役立ちます。

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画面左上から時計回りにPLUGIN ALLIANCE Shadow Hills Mastering Compressor、Elysia Mpressor、AVID Fairchild 660、SOFTUBE FET Compressor

 PLUGIN ALLIANCE SPL Ironはボーカルに使うことも多いマスタリング・コンプです。仕組みは違いますが、Shadow Hills Mastering Compressorに似ています。アタック/リリース・タイムに影響する6種類の回路(SILICON/LED/GERMANIUMとそれぞれのミックス)を選択可能。音はとてもナチュラルで、しっかりコンプレッションしたとしても自然なサウンドにまとまります。真空管コンプに近いイメージです。ステレオ・ワイズや、選択帯域以下をモノラルにするMONO MAKERなど、プラグイン版独自のオプションもあります。

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PLUGIN ALLIANCE SPL Ironは、6種類の回路を選択することでアタック/リリース・タイムの特性が変わる。ハードウェアのIronにはない、オリジナルの機能が加えられているのも特徴だ

Pro Tools|Carbonの期間限定プロモーションが実施中!

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 2021年12月31日(金)までの期間、Pro Tools | Carbonを購入して新規登録すると、約30万円分に値するANTARES Auto-Tune HybridとPro Tools | Ultimate永続ライセンスが無償提供される。

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