プロデューサー/ループ・メイカーのPulp Kです。僕は主にヒップホップやトラップの楽曲をFL Studioで制作しています。ループ・メイカーとは、ビートの上モノを専門に作る人のこと。現在、アメリカのシーンを中心にループ・メイカーの存在が広がっており、日本においても少しずつその名前が浸透してきていると感じています。さて前回は、FL Studioで使える上モノを作る際に役立つ便利なテクニックを紹介しました。そこで今回は、これらの上ネタを実際のループとして完成させるためのテクニックについてお話ししたいと思います。
すべてをオーディオに変換してチョップ&リバースで変化を加える
まずは、完成した上ネタのループをさらに面白く、個性的なものにするためのテクニックを紹介します。その際、音をよりいじりやすくするため、上ネタをすべてオーディオ・データに変換してしまいましょう。MIDIトラックは、プレイリスト上のトラック名近くを右クリックして表示されるメニュー内の“Consolidate this track”でオーディオへとバウンスすることが可能です。
上ネタをオーディオに変換した後、その上ネタをさらに興味深いものにするため、チョップやリバース、エフェクトをかけるなどして、“音のレイヤーを増やすことができないか”を考えます。今回は、オーディオの一部をチョップして、さらにリバースさせました。この作業により音にバリエーションが増え、さらに厚みが加わります。
先ほどチョップ&リバースしたサウンドに、FL Studio付属エフェクトを使ってみましょう。Fruity FlangerとFruity Delay 2、Gross Beatを加え、より面白いサウンドへと変化させます。サウンドを変化させたい際には、Fruity FlangerやFruity Delay 2、Gross Beatのほかに、Fruity Flangus、Fruity Chorus、Fruity Love Philter、Fruity Fast Distなどを使用することが多いです。この作業に関しては、自分の感覚と相談して進めましょう。
次に、アクセントとなるようなサウンドをうまく配置して、上ネタにグルーブ&バウンスを足していきましょう。市販のドラム・キットやサンプル・パックに収録されているパーカッション・ループを使うのもありだとは思いますが、個人的にはそれぞれの上ネタに合ったパーカッションを自分で作るのが一番良いと考えています。
今回は、アクセントとして4種類のサウンドを配置しました。まず1番上の音はスネアです。ただし、これはあくまで上ネタ用。実際にドラムを乗せる際の邪魔になってはいけないので、ピッチを24半音(2オクターブ)落とし、さらにサンプリング・レートを44.1kHzから10kHzまで下げました。これによって高い周波数が削られるため、実際のドラムの邪魔にならない、アクセントとしてのスネアが完成します。ちなみに、このようなピッチやサンプリング・レート変更は、FL Studioのオーディオ・エディターEdisonから簡単に行えます。
2〜4番目のサウンドは、市販のドラム・キットに収録されているFXサウンドをそのままレイヤーしました。これらのサウンドに関しても、先ほど述べたエフェクト・プラグインなどを使うことでさらに興味深いものにすることができます。また、FL Studio付属のドラム・サンプルからでも、エフェクト・プラグインなどを活用したりサンプリング・レートやピッチを変化させることで、アクセントとなる面白いサウンドを作ることが可能です。FL Studioの画面左端にあるブラウザーから、“Pack”をのぞいてみましょう。
ループに動きを与えるためにオートメーションを活用
次に、オートメーションを利用して“エフェクトがかかる場所”と“エフェクトがかからない場所”を作ることで、さらに上ネタ全体に動きを出していきましょう。また、エフェクトに対するオートメーションだけでなく、ボリュームやそのほかいろいろなものに対してオートメーションが簡単に描けるのもFL Studioの魅力の一つです。
今回は2つめのレイヤーに対してFruity Love Philterのオートメーション、3つめのレイヤーに対してFruity Delay 2のオートメーションを描きました。それによってコントラストが生まれ、ループ全体に動きを与えることができています。
また、ピッチ・ベンドのオートメーションも、サウンドへ動きを与えるのに有効です。Channel Samplerの右上にあるPITCHボタンを右クリックし、“Create automation clip”を選択するとオートメーションが描けるようになります。前回お話ししたように、僕はMIDIキーボードを使わずに制作をしているため、ギターやリード・シンセなどのサウンドを使うときには、マウスによるピッチ・ベンドのオートメーションの作成をよく活用しています。
ループは2ミックスとして書き出し、ステムも含めて1本のファイルにする
最後にアレンジメントについて。多くの場合、ループ・メイカーが作るループはただの8小節のループではなく、曲としての構成を見越したアレンジです。今回の例で使ったループのアレンジメントは下の画像のようになりました。基本的には、展開を付けることでビート・メイカーがループを聴いただけで曲に対してのイメージが湧くような構成作りを心掛けています。音の抜き差しを行うことで、ループの中で“同じ音がずっと鳴っている状態”を作らないようにすることがコツです。
また、ループは2ミックスとして書き出してビート・メイカーらへ共有することになりますが、ループの最後にステムを付けることで、ドラムを打ち込む人がそのループの構成を変えることができるように工夫をしています。ループの2ミックスに続いて、各ステムが順番に鳴るように書き出し、まとめて1本のオーディオ・ファイルにしましょう。サウンドごとに間隔を空けている理由は、個々のサウンドが次のサウンドに干渉してしまうのを防ぐためです。間隔を空けるのではなくボリュームのオートメーションを使って干渉を防ぐ人もいます。
最後に、完成したサンプルをエクスポートし、ピッチ調整やEQ処理をして最終調整をします。これでサンプルの完成です。次回は作成したサンプルを使って実際にビートを作成する方法について解説したいと思います。
Pulp K
【Profile】1997年生まれ、千葉県を拠点にするビート・メイカー/ループ・メイカー。主にヒップホップやトラップを制作しており、これまでにTAEYOやJP THE WAVYなどのアーティストの楽曲を手掛ける。LAを拠点とするマネージメント・レーベルと契約するほか、ティンバランドが主宰する招待制プラットフォーム“Beat Club”のVIPメンバーになるなど、日本だけでなくアメリカのシーンにも活動の幅を広げている。
Instagram:@_pulp_k
【Recent work】
『WAVY TAPE 2』
JP THE WAVY
(bpm tokyo/bpm plus asia)
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