わずか数クリックでドラムのカブリを奇麗に除去〜SONNOX Oxford Drum Gate

わずか数クリックでドラムのカブリを奇麗に除去〜SONNOX Oxford Drum Gate

 Reviewed by 
大野順平
【Profile】スタジオサウンドダリ所属のレコーディング・エンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、baroqueや榊いずみ、浜端ヨウヘイ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

キック/スネア/タムを指定するだけで、大まかなゲート処理が完了

 ミックスにおける生ドラムの処理において、多くの人が頭を悩ませる難題の一つが“カブリ”。スネアを明るくしたいのにハイハットのカブリ分まで持ち上がりうるさくなり過ぎてしまう、フロア・タムにカブったクラッシュ・シンバルも同様に耳障りに、キックをハードにコンプレッションしたいけどタムの共鳴が持ち上がり過ぎてしまう……など、オンマイクの処理が思うようにいかない経験をされた方は多いと思います。SONNOX Oxford Drum Gateは、そんな場面で大活躍するインテリジェント・ゲート・プラグインです。

 

 まずはキックのトラックにインサート。同社のクラシックなプラグインとは少し趣の違う、モダンでシンプルなインターフェースです。DETECTION、DECAY、LEVELLERと3つのタブが上端に並び、各セクションで様々なコントロールができます。中でもDETECTIONセクションの右側Match Transientsに配置されたKick、Snare、Tomのアイコンが目を引きます。

 

 ひとまずKickを選択し、何も考えずに再生してみたところ、ほかに何も操作子を触っていないのに、キック以外のカブリが見事に消えてしまいました。このMatch Transientsは、独自のトランジェント検出によって、トラックをキック、スネア、タムに分類し、その中から選択したキット以外をスレッショルド・レベルにかかわらずゲート・アウトしてくれる機能。通常のゲートでは欲しい部分以外でもゲートが開いてしまったり、強さでディケイが大きく変わってしまったりと大変苦労します。ところがこのMatched Transientsのおかげで、例えばタムやスネアの回り込みがスレッショルド・レベルを超えてもゲートが開かないので、余裕を持ってスレッショルド値を設定できます。これはむちゃくちゃに便利です。

ディケイの帯域指定で自然な余韻をキープ、カブった状態のサウンドを学習することも可能

 さて、奇麗に分離できているものの、このままではややディケイが短過ぎだと感じたので、DECAYタブをクリック(画面①)。すると、通常のゲート・プラグインでは見かけないEQカーブのようなものが。これで任意の帯域のみディケイを長くすることが可能なのです。ひとまずはデフォルトのカーブのまま全帯域のディケイを長めに設定。理想的なキック・トラックが出来上がりました。

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画面① DECAYタブでは、任意の帯域(この画面では20〜180Hz付近)のディケイのみ長く設定することが可能。入力信号のダイナミクスに合わせて、ディケイ長を自動調整する“Shorten Decay”というパラメーターも用意

 ここで思ったのが、スネアやタムへの金モノのカブリ対策にこのカーブが絶大な威力を発揮するのでは?ということ。というわけで、早速スネアにインサート。スネアのゲート処理はキックに比べはるかに難易度が高いです。というのも、オープン・リム・ショットの強打から柔らかいゴースト・ノートまで、奏法の違いによるダイナミック・レンジが非常に大きく、弱拍のスネアを奇麗に残したまま金モノのカブリを除去していくのはとても骨が折れます。

 

 ところが、Matched TransientsとディケイのEQカーブの恩恵で、かつて無いほど簡単かつ正確にハイハットをゲート・アウトできました。まずはMatched TransientsのSna
reボタンをクリック。これだけで奇麗にスネアが抽出されます。次にディケイ・タブでサステインをコントロール。中低域のディケイを長めに設定し、かつ全体的にもデフォルト値よりやや長めにしてみると、とても良いあんばいに。もちろんクローズド・リム・ショットもバッチリ検出してくれました。

 

 また、Matched Transientsが誤検出して開いてしまったタムのカブリがわずかにあったのですが、Remove Matchedという機能で解決。操作は実に簡単で、このスイッチを押して該当のショットの部分を再生するだけ。プラグインが学習し、その部分は開かなくなります。逆に隣のLearn Unmatchedという機能で、開かなかったヒットを開くようにすることも可能です。

 

 最後のLEVELLERタブは、ダイナミック・レンジを整えるセクション(画面②)。Splitフェーダーでラウドなショットとソフトなショットを分割し、波形右の上下に並んだターゲット・フェーダーで大小それぞれのターゲット・レベルを設定。Levellingで大小それぞれどれくらいターゲット・レベルに寄せるかを設定します。この機能を使えば、例えばゴースト・ノートだけを上げたいといった、本来とても手間のかかる処理が簡単にできます。

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画面② LEVELLERは文字通り音量を自動調整するタブ。強/弱をSprit(画面中央の水平の点線)で分割し、それぞれのターゲット・レベルをセッティングする。なお画面右にはMIDI Out設定があり、トリガー用のMIDIノートを出力することもできる

 一口にゲート・プラグインとは言えないほど多機能ですが、実に感覚的かつ簡単にゲート処理ができるOxford Drum Gate。生ドラムを扱うエンジニア/クリエイターにとっては、正に“一家に一台”なマストバイ・プラグインです。我が家にもお迎えすることにします。

 

SONNOX Oxford Drum Gate【特殊処理】

27,500円

 Requirements 
■Mac:OS X 10.8(Mountain Lion)〜macOS 11(Big Sur)、64ビット
■Windows:Windows 7〜10、64ビット
■AAX Native/AU/VST2&3

 

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www.snrec.jp