ループ・メイカーを目指せ! 上モノ作りに必須のFLテクニック 〜Pulp Kが使うFL Studio 20【第1回】

ループ・メイカーを目指せ! 上モノ作りに必須のFLテクニック 〜Pulp Kが使うFL Studio 20【第1回】

 初めまして、プロデューサー/ループ・メイカーのPulp Kです。僕は主にヒップホップやトラップの楽曲をFL Studioで制作しています。ループ・メイカーとは、ビートの上モノを専門に作る人のこと。現在、アメリカのシーンを中心にループ・メイカーの存在が広がっており、日本においても少しずつその名前が浸透してきていると感じています。そこで今回は、ループ・メイカーとして上モノを作る際に役立つ便利なテクニックを紹介していきます。皆さんの制作のヒントになれば幸いです。

strumizerとrandomizerで打ち込みのリアルさを向上

 まずはメロディ・パターンを作る際に便利なテクニックからです。これから紹介する2つのMIDI機能は、打ち込んだMIDIパターンに対して、より“リアルさ”を出すために使います。僕はMIDIキーボードを使わずにマウスのクリックでピアノロールにメロディを打ち込んでいくスタイルなのですが、同じような方はこれから紹介する機能を使いこなしていくことが大切だと思います。

 

 1つ目は、strumizerという機能です。WindowsはAlt+S、Macはoption+Sがショートカット・キーとなっています。打ち込んだMIDIノートに対して、音を少しずつズラして弾いたようなストラムの効果を与えることが可能です。ギターやピアノでのコードの演奏を想像してもらうと分かりやすいでしょう。この作業をすることで、“実際に鍵盤で弾いたようなランダムさ”を出すことができます。strumizerの画面では、ストラムの強さやズレの方向(高音側から/低音側から)、ベロシティの強弱、MIDIノートの長さなども調整することができて便利。特に、ピアノやキーボード系のサウンドを使いたいときにはお勧めです。

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strumizerでは、MIDIノートの発音をズラしたストラム効果を得られる。ギターやピアノなど、手弾きでは必然的に起きるこの発音のズレを再現することで、打ち込みのサウンドにリアルさを足すことが可能だ

 2つ目はrandomizer。ショートカット・キーは、WindowsがAlt+R、Macはoption+Rです。randomizerの画面ではMIDIノートにかかわるさまざまなパラメーターをランダマイズでき、ベロシティのほか、パン、リリース、フィルターのカットオフとレゾナンス、ピッチをランダムにすることができます。ここでも“実際に鍵盤で弾いたようなランダムさ”を出すことができるわけですね。楽器を演奏して録音するのではなく打ち込みで作曲をする上で、“リアルさ”を出すためにベロシティなどをコントロールすることは非常に大事な作業だと個人的には考えています。

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randomizerでは、パン/ベロシティ/リリース/フィルター・カットオフ/レゾナンス/ピッチをランダマイズ可能。グレー・アウトしている上部では、指定したキーやスケールに合わせてMIDIノートをランダマイズできる

arpeggiatorとslideで単調なメロディに一工夫

 次は、単調なメロディにアクセントを加えることができるテクニックを紹介します。これらの作業は、“音の厚み”にかかわるため非常に大切です。

 

 まずはarpeggiator。ショートカット・キーは、WindowsがAlt+A、Macがoption+Aです。その名の通り、すべての音が同時に鳴るコード・パターンを、コード構成音がバラバラに演奏される分散和音=アルペジオにすることができます。メインのメロディ・パターンに重ねてアルペジオのパターンを使うことで、ムーブメントとバウンスを加えることが可能です。こういったアクセント的な音を入れるか入れないかで、サウンドの厚みがかなり変わります。

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選択した和音からアルペジオ・パターンを作り出すarpeggiator。アルペジオのアップ/ダウンなどのパターンや音域、ベロシティなどの強弱も調整可能だ。アルペジオのプリセットも用意されている

 また、slideもアクセントを加えるためには有用です。Windows/Mac共に、ピアノロール画面でキーボードのSを押すと機能がオン/オフされます。オンにした状態で打ち込んだMIDIノートはスライド・ノートとなり、前のノートからピッチが滑らかに変化するようになります。スライド・ノートは、主にリード・シンセなどに使うことが多いです。リード・シンセをただ単調に鳴らすのではなくスライド・ノートを散りばめることで、ピッチの変化にアクセントが加わるため、メロディにグルーブが生まれるようになります。

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MIDIノートのプロパティからslideをオンにした様子。赤枠部分をオンにすることで、そのMIDIノートはスライド・ノートとなり、前のMIDIノートからスライド・ノートのピッチへとなめらかに変化する。変化速度はスライド・ノートの長さによって変わる

Fruity Chorusで厚みを追加、上モノのサウンドを際立たせる

 メロディのトラックに対して使えるエフェクト・テクニックも紹介しましょう。メロディ・パターンを作るのと同じくらい大切な作業です。

 

 今まで作ったほとんどの上ネタで、僕はFL Studio付属のFruity Reeverb 2を使用しています。操作が直感的で非常に分かりやすいリバーブです。特にサウンドにステレオ感を出したいときは、プラグイン画面右下のStereo separationノブを活用しています。リバーブのかかり具合はDRYとWETフェーダーを使って調節しましょう。

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リバーブ・エフェクトのFruity Reeverb 2。筆者はStereo separationノブでステレオ感を演出することが多い(赤枠)

 モジュレーション系のFruity ChorusとFruity Flangusは、サウンドを際立たせたいときに使用します。これらもFL Studio付属エフェクトですね。特にFruity Chorusは音の変化がはっきりと分かるため、厚みを出したいときに使うことが多いです。ギターやフルートなどの生音を使用した際には必ずFruity Chorusを使用して、サウンドをよりはっきりと際立たせるようにします。

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コーラス・エフェクトのFruity Chorus。音の厚みを出すために使用しており、ギターやフルートなどの生楽器に対してかけることが多い

 メロディ・トラックのイコライジングは、FL Studio付属EQのFruity Parametric EQ 2ですべて行っています。まずはドラムを入れた際にROLAND TR-808系キックがクラッシュしないように低域をカット。目安としては200〜250Hzまでカットすることが多いです。また、状況に応じて足りていないと思う周波数をブーストしたり、あまり好きではない周波数帯域をカットしたりもします。これらに関しては自分の感覚と相談して進めていきましょう。

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Fruity Parametric EQ 2。キックとベースのすみ分けなど、ミックスでは欠かせないEQだ

 Fruity Convolverは、ベースのサウンドをより際立たせたいときに使います。こちらはFL Studio付属のコンボリューション・リバーブです。上ネタでベースを使用した際には必ずこのFruity Convolver、もしくはNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rigを使いますね。Fruity Convolverでは、“IMP Cabinet Model A”というプリセットを採用することが多いです。また、ベース・サウンドはFruity Parametric EQ 2で高域の周波数をカットすることで、低域のサウンドをより際立たせることができます。

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コンボリューション・リバーブのFruity Convolver。リバーブなどの空間エフェクトとしてだけでなく、ギター・キャビネットのIRデータも含まれており、筆者はベースにキャビネットのプリセットをよく使う

 今回は上ネタを作る際に役立つ便利なテクニックを紹介しました。次回はこれらの上ネタを実際のループとして完成させるためのテクニックについてをお話したいと思います。

 

Pulp K

【Profile】1997年生まれ、千葉県を拠点にするビート・メイカー/ループ・メイカー。主にヒップホップやトラップを制作しており、これまでにTAEYOやJP THE WAVYなどのアーティストの楽曲を手掛ける。LAを拠点とするマネージメント・レーベルと契約するほか、ティンバランドが主宰する招待制プラットフォーム“Beat Club”のVIPメンバーになるなど、日本だけでなくアメリカのシーンにも活動の幅を広げている。
Instagram:@_pulp_k

【Recent work】

『WAVY TAPE 2』
JP THE WAVY
(bpm tokyo/bpm plus asia)

 

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