Gettyが使うFL Studio 20 〜第1回:ダンス・ミュージックに欠かせないホワイト・ノイズを使ったテクニック

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 初めまして、DJ/作曲家のGettyです。僕は主にUKハードコアというジャンルのダンス・ミュージックを制作しています。FL Studio(以下FL)は自由度が高く、人によってさまざまな使い方ができる面白いDAWです。標準搭載のプラグインは優秀なものが多く、直感的な操作で使用することができます。特にダンス・ミュージックを作りたいユーザーに対しては、初心者からプロまで幅広くお薦めできるDAWです。この連載では、自分なりのFLの使い方や、気に入っている点、便利な豆知識などを紹介できればと思っています。今回は、FL標準搭載プラグインである3X OSCを使ったテクニックを解説します。

3X OSCでホワイト・ノイズを再生
細かく打ち込んでグルーブを生む

 FL Studioのすべてのグレードに標準搭載されている3X OSCは、名前の通りオシレーターが3つだけ備わったシンプルなシンセ。それ故に、サイン波のサブベースや、短波形のピコピコ8ビット系サウンドなど、シンプルなサウンドが欲しいときにサッと立ち上げて使うことができるので、とても手軽で便利です。この3X OSCを使ったホワイト・ノイズの作り方について紹介しましょう。

 

 ダンス・ミュージックを聴いていると、ビルドアップ、メイン・リフの始まり、ベース・ドロップの開幕など、曲の盛り上がる場所で“シュワシュワ”“ピシューーーゥ!”といった音がうっすらと鳴っていることに気が付くと思います。まるでライブ中に勢いよくスモークが噴射されたときのようなこの音こそ、ホワイト・ノイズを元にした音です。だんだんとピッチが上がっていくものをライザー、下がっていくものをダウン・リフターなどと呼んだりもします。僕の楽曲でも必ずと言っていいほどホワイト・ノイズを使用しています。例えばHARDCORE TANO*Cというレーベルから2019年にリリースした楽曲の「BLVST BEVT」では、ベース・ドロップに3X OSCで作ったホワイト・ノイズを使いました。

BLVST BEVT (VIP)

BLVST BEVT (VIP)

  • Getty
  • ダンス
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

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ホワイト・ノイズ生成に使用したFL付属プラグイン・シンセ=3X OSC。3つのオシレーターを装備しており、それぞれでサイン波/三角波/ノコギリ波/丸みのあるノコギリ波/矩形波/ノイズ/カスタム波形を選べる。今回はオシレーター1のみを使い、残りのオシレーターのボリュームは下げている。FL Studio 20 Signature(34,000円)、FL Studio 20 Pro ducer(26,000円)、FL Studio 20 Fruity(16,000円)の全グレードで使用可能。ほかにもクロス・グレード版や解説本バンドル版を用意しているので、詳しくは製品サイトをチェックしよう https://hookup.co.jp/products/image-line-software/

 では3X OSCを1つ立ち上げましょう。ホワイト・ノイズを使う場合は、オシレーター1でサイコロのアイコンを選択します。オシレーター2と3は今回は使用しないので、ボリュームを0に。次にピアノロール画面で打ち込んでいきましょう。1拍目に長めのノートを置き、2拍目以降は裏拍に細かく配置していきます。

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ホワイト・ノイズを打ち込んだピアノロール。1拍目は長めの音価にし、その後はグルーブを生むために細かく打ち込む。ほかのリズム系サウンドとぶつからないようにバランスを考慮

 このときに意識するのは、聴いていて気持ちが良いグルーブになるように配置することと、むやみに多く鳴らし過ぎないことです。ホワイト・ノイズは家やAPPLE iPhoneなどで聴いているとあまり目立つ音ではないですが、クラブなどで大音量で聴くとかなり耳に付きます。ハイハットなどのリズム隊の金物系の音とぶつかりがちなため、それらの音とのバランスに注意しながら鳴らすことがコツです。いろいろな音の組み方があると思うので、お手本となる楽曲を聴き込んだり、気持ちの良いタイミングを自分なりに試行錯誤してみるとよいかもしれません。

 

別のサウンドを邪魔しないために
EQで低域をバッサリとカットする

 今回使うプラグイン・エフェクトは4種類で、EQ/コンプ/リバーブ/サイド・チェイン・コンプです。これらの役割について順に説明していきます。

 

 3X OSCのホワイト・ノイズは、そのまま鳴らすと中〜高域の広い音域で鳴ってしまうので別トラックの音を邪魔しがちです。そのため、EQでバッサリと低域をカットします。「BLVST BEVT」はキーがFマイナーの楽曲なので、Fの音が鳴る周波数=1.4kHzあたりでカットしています。こうすることで曲中でもノイズがナチュラルに聴こえるのです。この曲はEQにFABFILTERのPro-Q3を使用していますが、FL付属のFruity Parametric EQ 2でも同じことができます。

 

 次にコンプレッサーをかけて音を少し太く聴こえるようにしましょう。IK MULTIMEDIA T-Racks 3のClassic T-Racks Compressorは使いやすく、パキッとした表情の音になるため、僕は普段から愛用しています。ステレオ感を増したいときは“STEREO ENHANCEMENT”というパラメーターを1.0〜3.0dBくらいにしてかけたり、Fruity Stereo Enhancerのようなエンハンサー系のプラグインを挿したりもしますね。

 

 次はリバーブです。Fruity Reeverb 2を広めのSizeでかけることで、音の余韻がフワッと残るようにします。Fruity Reeverb 2は元の音をナチュラルに残しながら優しくかかってくれる印象です。リバーブを深くかけすぎると音がぼんやりしてしまい、せっかく細かく打ち込んだものが無駄になってしまいますので、様子を見つつ大体WETを50%くらいにすることが多いです。

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FL付属のリバーブ、Fruity Reeverb 2。ナチュラルなリバーブを得られる。今回は赤枠のSIZEを広めに設定した。WETは50%ほどにすることが多い

 最後に、キックに合わせてサイド・チェイン・コンプをかけていきます。まず、新たにもう一つの3X OSCを立ち上げ、キックに合わせて短いノートを打ち込みましょう。これをトリガーとすることで、キックのアタック部分でサイド・チェイン・コンプがかかるようにします。Fruity Limiterをホワイト・ノイズのトラックへインサートし、モードはCOMPに。KNEEとRATIOを最大、TRESHは大体8時くらいの方向に設定しましょう。こうすることで、キックが鳴ったときにホワイト・ノイズの音量が少しだけ下がる設定になります。サイド・チェイン・コンプを浅めにかけることにより適度な抑揚が付き、よりグルーブ感のあるノイズにできるのです。

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サイド・チェイン・コンプに使うFruity Limiter。トリガー信号に反応して断続的にコンプレッションしている様子が画面に表示されている。モードはCOMPにし、KNEEとRATIOを最大にした。トリガー信号を受けるためには、トリガー信号のトラックからFruity Limiterをインサートしているトラックのミキサーへルーティングを行い、Fruity Limiterの“SIDECHAIN”でトリガー信号のトラックを選択しよう

 Fruity Limiterをトリガー用トラックから動作させる設定も必要です。ミキサー画面でトリガー用のトラックを選択した状態で、ホワイト・ノイズのトラックの一番下にある▲マークを右クリック。表示されたメニューから“Sidechain to this track only”を選択します。これで、トリガー用の3X OSCはサイド・チェイン信号としてホワイト・ノイズのトラックに入力され、かつマスター・トラックへのルーティングは外れます。そしてFruity Limiterの“SIDECHAIN”という項目で“1”を選べばOKです。Fruity Limiterを使ったサイド・チェイン・コンプは慣れるまでミキサーのルーティングが複雑に感じるかもしれませんが、さまざまな場面で使える上に慣れるとかなり便利なので、積極的に使ってみましょう。

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トリガー用のトラック(黄色)を選択した状態で、ホワイト・ノイズのトラック(画面右側の青色)の▲マークを右クリックするとミニ・メニューが表示される。“Sidechain to this track only”を選択すればルーティングは完了だ

 今回は3X OSCでのホワイト・ノイズの使い方を紹介しました。次回はFLで作るUKハードコアのビート&ベースの組み立て方を解説します。

 

Getty

【Profile】東京都内を中心に活動するDJ/プロデューサー。個人レーベルDROP FREVKERを主宰する。高速ダンス・ミュージックUKハードコアをメインに制作し、ベース・ドロップを主体とした激しいサウンドを得意とする。2018年よりHARDCORE TANO*Cへ加入。MARVELOUS! WACCA、KONAMI BEMANIシリーズなどのアーケード音楽ゲームへ楽曲が多数収録されている。『アイドルマスター ミリオンライブ!』の公式リミックスも担当した。

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Flvsh ØUT

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