BAREFOOT SOUNDのテクノロジーを投じた同軸パワード・モニター「OUTPUT Frontier」レビュー

BAREFOOT SOUNDのテクノロジーを投じた同軸パワード・モニター「OUTPUT Frontier」レビュー

 先進的なサウンドのクリエイトに向けたソフト・シンセを手掛けるOUTPUTから、パワード・モニターのFrontierが発売されました。トピックの一つは、BAREFOOT SOUNDが開発に深くかかわっていること。筆者は、とてもお世話になっているスタジオでBAREFOOT SOUNDのMicroMain26というパワード・モニターを愛用しています。小さなプロジェクト・スタジオでもラージで確認するような“揺らす低音”を聴けるのが魅力で、サブウーファーを持たないFrontierがその性能をどこまで受け継いでいるのか注目です。BAREFOOT SOUNDの技術力にこのルックスも相まって、期待値の高い製品ではないでしょうか?

中低域〜低域にフォーカスしたサウンド。50〜500Hzの相互関係が見えやすい

 Frontierは、トーマス・ベアフット氏によって設計/調整されたカスタム・メイドの同軸アルミニウム合金ドライバー(6.5インチ径ウーファー+1.25インチ・ツィーター)を搭載。クロスオーバー周波数は3kHzとなっており、前面のバスレフ・ポートが低域再生の正確性に一役買っているとのこと。周波数特性は45Hz〜25kHzで、内蔵アンプはクラスD。低域100W+高域100Wのバイアンプ仕様です。

 

 背面には、入力端子とステップ式のボリューム、省エネ対策のECO MODEスイッチ、電源インレットのみを備えるというシンプルな設計。EQを内蔵しないのも潔いですね。エンクロージャーはウォルナット材の台座付きで、無駄を省いたフロント・パネル。台座の上のラインからは中のLEDを確認でき、スピーカーの電源を入れると淡く光るのが良い雰囲気です。

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背面には、バランス接続のライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)やアンバランス接続のライン・イン(RCAピン)、ステップ式の出力レベル・ノブ、一定時間使わない場合にスタンバイ状態にできるECO MODEのスイッチなどを備える。EQなどを内蔵せず、シンプルな

 実際に音を聴いてみましょう。まずは、先述のスタジオで毎日聴いているアコースティック寄りのバンドから。想像していたよりも中低域にフォーカスしたサウンド。たっぷりと言うよりも“どっぷり”といった感じの深い音像再生です。ハイハットは少し控えめに聴こえ、アコギもやや奥に感じられます。お世辞にも、いわゆるフラットとは言えない第一印象。

 

 しかし中低域がたまって濁っているわけではなく、調整されたスタジオで聴く中低域や低域のバランス感に近くて、筆者がミックスにおいて大事だと思っている50〜500Hz辺りの相互関係が見えやすいです。それが小音量でも聴き取れるのが好印象ですね。ただ、高域は価格相応の解像度で、よりグレードの高い製品と比べたら引っ込んで聴こえるかもしれません。そのためか、他社の同軸スピーカーと比較すると同軸特有の左右対称で焦点の合う感じは薄いとも感じました。

小音量でもサイン波キックがリアルに。低域の余韻やコンプ感なども分かりやすい

 次にUSチャートの音楽やクラブ・ミュージックで確認したところ、おお!と驚くほどのROLAND TR-808キックの再現力。このサイズや自宅で鳴らす程度の音量でも、リアルに聴き取れることにびっくりです。粗野にボトムが強調されているのではなく、低音楽器の余韻や低域のマルチバンド・コンプ感など知りたいことが分かり、モニターとして優秀。“小音量でも空気感やリバーブ感が分かりやすい”といった小型モニターの評価はよく聞きますが、それとは逆の特性とでも言うのでしょうか。小音量でも量感や“音の底”が分かるモデルは、この価格帯ではほかに知りません。BAREFOOT SOUNDのモニターのようなサブウーファー感とは違いますが、小さな筐体に低域の再現力をうまく受け継いでいるなと感心します。

 

 しかし高域については、トラップなどのハイハットも控えめに聴こえます。その反面、音量を上げても耳に痛くなく、長時間リスニングしていて疲れることもないし、何より楽しく聴くことができました。音を大きくすることができれば、それに伴って高域もとらえやすくなり、リバーブなども扱いやすくなるため問題には感じません。音量に関しては、スタジオで使うことも見越してか十分に出せる仕様になっています。

 

 繰り返しになりますが、最初聴いたときは意表を突かれたというか出音に戸惑いを覚えたものの、いつものセッティングよりL/Rの間隔を広げると低域の出方や全体の定位感もしっくりときました。低域にピントが当たっている分、付属の簡易的なインシュレーター・マットを敷いたり、スピーカーの置き場所や設置の仕方を変えることで聴こえ方が変化しますので、それぞれ調整するとよいでしょう。

 

 低域に重きを置いたモダンな音作りをする際には、ベスト・マッチだと思われるFrontier。ビッグ・バンドのふくよかさやウッド・ベースの箱鳴り感も気持ち良く再生され、音数の少ないアコースティックな音楽やジャズにも向いていると感じます。クロスオーバー周波数の3kHzより少し上から5kHz辺りまでが優しく再生されるので、ギターやピアノの距離感をつかむのには慣れが必要かなとも思いますが、そういった点でもYAMAHA NS-10M Studioなどと併用すれば、凹凸を補い合ってくれるかもしれません。

 

 Frontierは、コンセプトがはっきりしていますね。その個性は、正直に言って好みの分かれるところだと思います。レビュワーとして厳しいことも書きましたが、筆者はとても気に入りました。自宅作業用にちょうど良いな……何より音が気持ち良い!と思い、デモ機を返したくなくなったほどです。この価格で、小音量でも低域の音作りがやりやすいFrontierがクリエイターにどのように評価されるか、筆者も興味があるところです。“低域の確認はヘッドフォンでやっています”という方々に、一度聴いてもらいたいモニター・スピーカーですね。

 

星野誠
【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの楽曲を多数手掛けたことで知られ、近年もsumika、FLYING KIDS、竹内アンナなど一線のアーティストに携わる。

 

OUTPUT Frontier

オープン・プライス

(市場予想価格:179,850円前後/ペア)

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SPECIFICATIONS
▪構成:アルミニウム合金カスタム同軸ドライバー(6.5インチ・ウーファー+1インチ・ツィーター) ▪形式:バスレフ型 ▪周波数特性:45Hz~25kHz ▪内蔵アンプ:クラスD、100W(低域)+100W(高域)、バイアンプ ▪入力インピーダンス:20kΩ ▪入力感度:87dB @1m @−15dBv ▪消費電力:265W(最大) ▪外形寸法:230(W)×332(H)×200(D)mm ▪重量:7kg/1台 ▪付属品:電源ケーブル×2、PETアイソレーション・パッド ×2

製品情報

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www.snrec.jp