太いドラムの音というのは永遠の課題です。終わることの無い試練であり、私たちの夢。あこがれのビート・メイカーに少しでも近付きたくてネットで調べ、本を読み、人に聞いて、“いやこれも違うな”“もっと低音が出ているな”など、よくもまぁ同じテーマでこれほどまでに悩み続けられるものです。もちろん僕も進行形で模索し続けていますが、きっと満足することは無いでしょう。誤解を恐れない言い方をすると、ヒップホップ的に“太さ”はある種の正義だと思います。太いドラムはG.O.A.T。この太さイズムは未来に継承していきたいです。さぁ、そんなこんなで僕の担当最終回はヒップホップの根幹である“太いドラムの作り方”についてです!
役割の違う2つのサンプルを重ねてFruity Soft Clipperで太さを追加
太い音とは、一体何を指すのでしょうか。ご存じの通り、音量が大きければ良いというものではありません。“太い”というのはものすごく抽象的な表現ですよね。まずはその正体をつかむため、FL Studio付属プラグインのFruity Parametric EQ 2を立ち上げ、太いドラムを視覚的に確認してみましょう。以前も紹介しましたが、FL Studio 20.8でFruity Parametric EQ 2はスペクトラム・アナライザーの機能が向上し、非常に便利になりました。今回は、例としてドレイクのプロデュース・ワークでよく知られているOZのドラム・キットからキックの音を一つ抜粋し、見て(聴いて)いきたいと思います。
キックのピーク部分を確認すると、どうやら一番強く出ているのが50Hz前後、そして150〜650Hzの辺りまでまんべんなく出力されているようです。超低域までいかないギリギリの低域〜抜けの良い中域、というイメージですね。
しかし注視してみると、これらは完ぺきに同じタイミングで鳴っている音ではないことが分かります。Fruity Parametric EQ 2のアナライザーでは発音されている音が赤の濃淡でリアルタイム表示されるため、このタイミングのズレにすぐ気付けるはず。つまりキックに関しては、①アタックで鳴る150〜650Hz→②直後に鳴る50Hz前後、という2つの音が組み合わさっているわけです。これは周波数は異なるものの、キックだけでなくスネアに関しても同様になっています。
この理論を元に極太ドラムを作っていきましょう。まずはキックとスネア、それぞれの音を“2種類ずつ”用意します。強めのアタック用と、存在感を出すリリース用といったイメージです。“音色は好きだけどちょっと鳴りが弱いな〜!”みたいなワンショットをアタック用に用意するのがお勧めですよ。
それではキックの音作りからです。アタック用のキックと、比較的低域が出ているリリース用のキックのサンプルをChannel Samplerに読み込み、それぞれが同じタイミングで鳴るようにMIDIノートを配置してください(ベロシティは100%でOK)。この際、どちらにもNormalizeを行っておきます。リリース用のキックはVolume EnvelopeのATTを1%、HOLDを100%に設定。アタック用のキックはSMP STARTとLENGTHを調整し、とにかく強い初撃を作ります。
それぞれのキックは別のMixer Trackに割り当て、どちらにもFruity Parametric EQ 2をインサート。アタック用は100Hz以下をカット、リリース用は100Hz以上をカットします。この時点で鳴らしてもそこそこ良い音が鳴るはずですが、さらに音をまとめ上げるためにバス用のMixer Trackへ2つのキックをルーティングしましょう。このバス・トラックに配置するプラグインは4つ。Fruity Parametric EQ 2、Fruity Soft Clipper、Fruity Multiband Compressor、そしてアナライザーとして使うFruity Parametric EQ 2です。
まずは最初のFruity Parametric EQ 2で音を整えましょう。弱いと感じる部分のブーストや突出した部分のカットなど、外科的な調整を行います。このとき既にクリップしている可能性が大ですが、無視してしまって大丈夫です!
次のFruity Soft Clipperでは、POST(ポスト・ゲイン)のみ触ります。ここは好みですが、90%前後に設定するのが良い感じです。100%にしても問題ありません。なぜなら次に挿したFruity Multiband Compressorでリミッティングしてもらえるので!
Fruity Multiband Compressorはプリセット“Maximize 2”に設定し、左下のGAINを少しずつ持ち上げてみて下さい。すごい音が鳴っているはず。これでキックはほぼ完成です。
キックとスネアをバスでまとめ、さらにコンプレッションを加える
次はスネアですが、実は音作りの流れは前述のキックと大差ありません。違いが出るのはそれぞれのMixer TrackにインサートするFruity Parametric EQ 2の設定です。スネアに求められるのはアタック成分の2〜10kHz前後、リリース成分の200Hz前後です。作るスネアに合わせてハイパスおよびローパスの位置が変わってきますが、今回は400Hzを境にして調整を行いました。
バス用のMixer Trackに挿すプラグインや内容についてもキックと同様ですが、1つ目のFruity Parametric EQ 2でどの帯域をカット/ブーストするのかが音作りの鍵になってきます。さらに、これはキックにも言えることですが、素材が持つピッチ感をピアノロールやSampler Channelで合わせることも重要。特にスネアはここを合わせるのが少し難しいので、いろいろなドラム素材で試してみてほしいです。
キックとスネアがそろいましたが、ここで終わりではありません。まだ図太くできます。出来上がったキックとスネアのバス用Mixer Trackを、さらに別のMixer Trackへルーティングしましょう。差し込むプラグインは、再度登場のFruity Soft ClipperとFruity Limiterの2つです。Fruity Soft ClipperのPOSTを100%、Fruity Limiterはプリセット“Drum compression 2”に設定し、Mixer Trackのフェーダーを125%(最大)まで上げます。完全にメーターが真っ赤になった状態でArm disk recordingを点灯させ、書き出します。恐らく、波形が正方形みたいになったキックとパッツパツのスネアになると思いますが、これでMET流FL Studioで作る超太いドラムの完成です。
今回は太いドラムの作り方について解説しました。最後の最後は超ヒップホップな感じ(?)で締めることができて感無量です。全4回、お付き合いいただきありがとうございました!
MET as MTHA2
【Profile】東京を拠点として活動する音楽プロデューサー/ビート・メイカー/DJ。サンプリングを基調とした独特のグルーブが思わぬ方向から好評を得る。プロデュースを担当したヒップホップ・コレクティブSound's Deliの1stアルバム『MADE IN TOKYO BANG』が2021年8月にリリースされ話題となった。そのほか、MASS-HOLEやDABOなどのアーティストにも楽曲提供を行っている。
【Recent work】
『MADE IN TOKYO BANG』
Sound's Deli
(Manhattan Recordings)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ