君のFL Studioは最新か? 制作に役立つ注目の新機能|解説:MET as MTHA2

君のFL Studioは最新か? 制作に役立つ注目の新機能|解説:MET as MTHA2

 突然ですが皆さん、FL Studioって本当にありがたいDAWだと思いませんか? “Lifetime Free Updates”と公式で謳っていますからね。僕はこの心意気が、FL Studioのプロップスにつながっていると思ってやみません。そんなFL Studioのユーザーは僕の周りにもいるのですが、なぜか多くの人が最新版へのアップデートをしていませんでした。本当にもったいない! そんなわけで今回はFL Studio 20.8の新機能を紹介し、皆さんにアップデートを推奨していきたいと思います。

Frequency Splitterで帯域ごとに異なるエフェクトを適用

 最初に紹介するのは、FL Studio 20.8.4で新たに追加されたエフェクトのFrequency Shifter。IMAGE-LINEの言葉を借りると“不協和音的、金属的、FM的な音に変換できる”のが特徴だそうです。一見、僕が作るようなヒップホップの音には無縁そうなエフェクトですが、実はかなり面白い使い方ができます。何の音に適用するかというと、シンバルです。中でも、ROLAND TR-808に代表されるような“チーン”系のシンバルに使えます。この手のシンバルを1拍目に配置してキックやキック・ベースと一緒に鳴らすとき、それぞれのピッチを合わせて一番気持ち良い鳴らし方をしたいですよね。このシンバルのピッチを合わせる作業でFrequency Shifterが大活躍します。

f:id:rittor_snrec:20211224133532j:plain

新エフェクトのFrequency Shifter。音高を上下できるピッチ・シフトとは違い、すべての周波数を同じ量だけシフトするため、不協和的/金属的なサウンドが作り出せる。サイド・チェイン入力によって変調させるリング・モジュレーション・モードも備える

 まず、使いたいシンバルを配置し、Frequency Shifterを適用しましょう。エフェクトを開くとシフト・レンジを20kHz/200Hzから選択でき、プロジェクトのテンポにマッチさせるTempoも選べるようになっています。ここで20kHzに設定し、Frequencyノブを回しましょう。チャンネル自体に備わっているChannel pitchやPitch shiftで音高を変更するよりも簡単かつ自然に調整できます。アタック感が失われる感じも無く、ピッチ・シフトしたときのようにサンプルの長さが変わることもありません。実用的なのでぜひお試しください!

 

 Frequency Splitterも20.8で追加された新エフェクトです。この子はヒップホップの音作りで大活躍します! どんなエフェクトなのか簡潔に説明すると、音を帯域別で分けて(高域/中域/低域など)、それぞれに別のエフェクトをかけたりできる……という代物です。特に上ネタで使うと非常に面白いですね。

f:id:rittor_snrec:20211224133604j:plain

Frequency Splitterは、入力音を最大3バンドへ分割するエフェクト。この画面ではミキサーのch5(赤枠)にインサートされている。Frequency Splitterの右下にあるSENDSで、分割した帯域を別々のミキサー・チャンネルへ送ることが可能。ここでは低域側から2〜4と設定され、ミキサーのch5から右隣へ順番に帯域別の信号が送られている

 まず、サンプルなど任意の上ネタのトラックにFrequency Splitterを挿します。エフェクトを開く前に、分割した音を割り当てるミキサー・トラックにルーティングしましょう。割り当てたいミキサー・トラックの下にある▲マークを右クリック→Sidechain to this trackをすればOKです。例えば低域/中域/高域と3ch分を用意して割り当てておきます。

 

 Frequency Splitterに戻り、右下のTarget mixer trackで先ほどルーティングした3つのミキサー・トラックを割り当ててください。帯域別に分かれた音がそれぞれのミキサー・トラックに入力されていると思います。あとはもう好きなエフェクトをそれぞれにかけましょう。個人的にはGross Beatをはじめとしたグリッチ系エフェクトと相性が良いと思っています。低域だけテンポ・シンクを1/2のスピードにするとか、高域だけ派手にいじってもええよな……という変な勇気が湧いてきます。お薦めです。

All playlist tracksでプレイリスト・トラックごとに書き出し

 FL Studio 20では、プレイリスト・トラックを個別にエクスポートする機能が実装されました! 本当にありがとうございます。この機能を待っていたという方は多いと思うんですよ。ミキサー・トラックごとの書き出しは実装されていたものの、できそうでできなかったプレイリストのトラックごとの書き出し。いつか実装されるだろうと踏んでいましたが、ついにですね。

 

 やり方は非常に簡単。画面上部メニューのFileからExportを選択すると、All playlist tracksが追加されています。書き出しスタート位置はFrom track startとFrom song startがありますが、特に理由が無ければFrom song startで大丈夫です。From track startはトラックごとのスタート地点から書き出しが始まり、From song startはすべてのトラックがソングのスタート地点から書き出されます。

f:id:rittor_snrec:20211224133723j:plain

FL Studio 20では、プレイリストのトラックごとに書き出すAll playlist tracksが追加された。これとは別に、ミキサー・チャンネルごとに書き出す機能もあるので、用途によって使い分けよう。書き出すスタート位置はソング・スタートか、各トラックのスタートを選べる。タイム・セレクションで指定することも可能だ

 一つのパターンに複数の楽器が入っていることもあると思いますが、ピッカー・パネルでパターンを右クリックしてSplit by channelをすれば、パターンのサウンドをチャンネルごとにバラすことができます。例えばドラムを同一のパターン内で作成していても、パーツごとにバラしてプレイリストへ並べられるわけです。この際、パターンが既にプレイリスト上に置かれていると、バラしたすべてのパターンが重なって表示されます。プレイリストからパターンを消してスプリットしましょう。ちなみにSplit by channelはアンドゥができません。たまに痛い目を見ます。

f:id:rittor_snrec:20211224133750j:plain

パターンが複数のチャンネルで構成されている場合、Split by channelをすることでチャンネルごとに新たなパターンとして分割することができる

 これらSplit by channelとExport all playlist tracksと併用すれば簡単にパラ書き出しができます!。まだFL Studioをアップデートしていない皆様、Export all playlist tracksで1trずつミュートして書き出す日々と決別してください。

f:id:rittor_snrec:20211224133819j:plain

複数のチャンネルのフレーズで構成されたドラムのパターンをSplit by channelで分割した様子。サウンドごとにパターンを分けてプレイリストに配置し、All playlist tracksでエクスポートすることでパラでの書き出しが行える

再生中の打ち込みに欠かせないMIDIノートのプレビュー機能

 打ち込みのしやすさでおなじみのFL Studioのピアノロールですが、再生中に打ち込んだMIDIノートを発音するか否か選べるようになりました。ピアノロールを開いて左上の▼マークをクリックするとPreview notes during playbackが選べるようになっています。ドラムの打ち込み時はオフでもいいと思いますが、シンセなどの打ち込みを行う際にはぜひオンでやってみてほしいです。多くの人がスペース・キーを連打して再生&停止しながら打ち込む中、澄まし顔でノートの打ち込みに集中できますよ。特に自分のような音楽理論分からないマン(実際に音を鳴らしてみないとキーが合っているのか分からない方)は重宝するのではないでしょうか。

f:id:rittor_snrec:20211224133905j:plain

再生中にMIDIノートを打ち込むと、そのサウンドをプレビューできるようになった。機能のオン/オフはピアノロール画面の左上のメニューのPreview notes during playbackから可能だ。全体の響きを確認しながらMIDIノートを配置したいときに便利

 今回はFL Studio 20.8の新機能を、非常に個人的な知見に基づいて紹介しました。次回は、“ガチで使えそうなPatcherプリセットを厳選してみた”です。

 

MET as MTHA2

【Profile】東京を拠点として活動する音楽プロデューサー/ビート・メイカー/DJ。サンプリングを基調とした独特のグルーブが思わぬ方向から好評を得る。プロデュースを担当したヒップホップ・コレクティブSound's Deliの1stアルバム『MADE IN TOKYO BANG』が2021年8月にリリースされ話題となった。そのほか、MASS-HOLEやDABOなどのアーティストにも楽曲提供を行っている。

【Recent work】

『MADE IN TOKYO BANG』
Sound's Deli
(Manhattan Recordings)

 

IMAGE-LINE FL Studio

f:id:rittor_snrec:20211101184802j:plain

LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ

製品情報

hookup.co.jp