サンレコ愛読者の皆様、こんにちは。早いもので気付けば僕の担当も3回目です。今回はFL Studioのシークレット・プラグイン的な立ち位置になっている“Patcher”を掘り下げていきます。Patcherでは、複数のプラグインを使ったチェーンを内包して音作りができ、オリジナルのインターフェースをデザインすることも可能です。ただ、挿してみたはいいけれど何がなんだか分からない……という方も少なくないでしょう。今回、僕は豊富に用意されているPatcherのすべてのプリセットをあらためて試しました。そう、全部です。その中から厳選した“ガチで使えるプリセット”を幾つか紹介していきます。
ワンノブで複雑な効果を得られる簡単故に奥深いIKシリーズ
FL Studioの各ミキサー・チャンネルには、ステレオ幅を簡単に調整できるStereo separationノブが標準搭載されています。とても便利な機能ですが、加えてPatcherには一歩進んだステレオ幅変化系プリセットが備わっているので紹介しましょう。
まず取り上げるPatcherプリセットは“3 band stereo separation”。名前の通り、High/Mid/Lowのそれぞれのステレオ幅を調節できるプリセットです。上部3つのノブがステレオ幅の調節、下部2つのノブが周波数帯域の調整となっています。非常にシンプルで分かりやすい操作性です。3 band stereo separationの強化版に当たる“Envergure”というプリセットもあります。こちらは4帯域を調整でき、パンを振ることも可能です!
2つめは“Albinaur”。XYマップで音を好きな位置に置ける神プリセットです。百聞は一見にしかずなので、ぜひヘッドフォンを使って試してください。操作は左上のBinaural placementでポインターをグリグリ動かすだけ。右上や左下など極端な位置にポインターを持っていくと、非常に分かりやすく“音がそこにいる”という感じがします。どういう仕組みなんですかね。
Patcherのプリセットには1Kシリーズというものがあります。でかいノブが1つだけ用意されているシンプルなプリセット群です。1Kシリーズだけで26個もあり、その中でも個人的に重宝しているプリセットを3つ紹介します。
まず“1K Detuner”。これはデチューンしたサウンドをレイヤーすることができ、ベースのステレオ幅を良い感じに広げたいときによく使っています。モノラルのベース・サンプル、特にサイン波に近いものにかけることが多いですね。“そう、こういうのがいいんだよ”と思えるステレオ・エンハンスのプリセットです。
“1K Doubler”も非常に使い勝手が良く、お薦めできるプリセットです。ダブラーはさまざまな場面で活躍するエフェクトですが、このプリセットは特に万能。ボーカルに挿しても、シンセに挿しても違和感無く使えるでしょう。余計な味付けが無いのも魅力です。
同じ1Kシリーズからもう一つ、ハードなリミッティングとひずみを生む“1K HardClip”を紹介します。もう名前からしてヤバそうな匂いがしますが、期待を裏切らないハードさです。Fruity Soft Clipperとは全く違うリミッターになっていますね。だまされたと思ってドラム・ブレイクに挿してみてください!
触れるノブやボタンがたくさんあると、音作りの沼にハマって永遠に迷い続けますが、ノブを一つを持ち上げるだけというこの男気が素晴らしいです。
ライブ・パフォーマンスでも活躍するマルチエフェクト・プリセット
一つのプラグイン内で数々のエフェクトをかけられるマルチエフェクトのプリセットもPatcherには用意されています。僕はサンプルの上ネタにかけることが多いです。プリセット内には基本的なエフェクトがそろっているので、何も考えずとりあえず挿して試してみるのもいいでしょう。
“One knob multi effects”というプリセットには8つのエフェクトがセットされており、それぞれのかかり具合を調節するノブが一つずつ用意されています。ハイパスやローパス、ディレイ、リバーブはもちろん、フランジャーやフェイザーも内蔵。
これだけでもお腹いっぱいになりそうですが、グリッチやスタッター効果を得られるIMAGE-LINEのエフェクト、Gross Beatも内包されており、Patcher上で使えるようになっているんです。“Gross Beatなのにノブが一つ?”と思いますよね。どうやらノブの回し具合でGross Beat内のTime presetsの設定が変わるらしく、1 Beat RptからReverseまで順番に切り替わるようです。非常に興味深いですね。MIDIコントローラーにそれぞれのノブをアサインすれば、ライブ・パフォーマンスなどでも大活躍しそうです。
マルチエフェクト2つ目は“Muefco”。このプリセットには、なんと12のエフェクトが搭載されています。それぞれのエフェクトはノブではなく、XYマップ&オン/オフ・スイッチで操作するという便利な仕様。VoxやSTEREO、LOFIなど、FL Studioらしいエフェクトのラインナップで、文句無しの至れり尽くせりなマルチエフェクトです。これらマルチエフェクト系プリセットは、とりあえず何か変化をつけたいときのアイディア・スケッチや、音作りの時間短縮としても役立ちますよ。
そのほかの効果的なプリセットを紹介しましょう。非常に使い勝手が良いプリセットが“Mid Side EQ”です。ミッド/サイドに音を分け、それぞれにFruity Parametric EQ 2が使えます。これは分かりやすくて便利ですね。以前のアップデートでスペクトラム・アナライザーがさらに見やすくなったFruity Parametric EQ 2が大活躍してくれます。
“Youlean Simple EQ Bass”もかなり使えるプリセットです。Youlean Simple EQは対象の音に合わせてDrumsやGuitar、Vocalなどのプリセットが用意されており、全部で12種類あります。その中でもベース用プリセットが個人的にはヒットしました。音が少し細いと感じたときや、倍音に物足りなさを感じたときなど、ベースの音作りで非常に役立ちます。特にサブベースにはぜひ試してほしいです。FL Studio特有の太さが出せます。
今回はPatcherのプリセットを力説しました。次回は“超太いドラム作るぞ! クリップとの戦い編”です。
MET as MTHA2
【Profile】東京を拠点として活動する音楽プロデューサー/ビート・メイカー/DJ。サンプリングを基調とした独特のグルーブが思わぬ方向から好評を得る。プロデュースを担当したヒップホップ・コレクティブSound's Deliの1stアルバム『MADE IN TOKYO BANG』が2021年8月にリリースされ話題となった。そのほか、MASS-HOLEやDABOなどのアーティストにも楽曲提供を行っている。
【Recent work】
『MADE IN TOKYO BANG』
Sound's Deli
(Manhattan Recordings)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ