Berlin Calling〜第79回 和やかなモジュラー・シンセ見本市SUPERBOOTH21が開催

参加者間の親密な交流も生まれた自然の中の見本市

 毎年5月ごろに開催されてきた、世界でも珍しいモジュラー・シンセの国際的な見本市であるSUPERBOOTH。新型コロナの影響で2度の開催延期を余儀無くされたが、やっと感染防止規制の緩和を受けて、9月15〜18日までの4日間開催された。電子楽器の展示イベントでありながら、その大部分を屋外で展開するという大胆な試みであったため天候が心配されたが、初日のにわか雨以外はお天気にも恵まれたようだ。

SUPERBOOTH21 Webサイト

 会場は例年と同じく、ベルリン郊外の子供向けレクリエーション施設、FEZ。市内中心部から少し離れており、プールなどを併設した屋内施設の周りが森という自然に囲まれた場所。この立地を生かし、今年はテントなどを設置して屋外に展示を持ち出したというわけだ。以前から、プールで泳ぎたい来場者のためにオリジナルのタオルを販売するなど、ひょうきんでアイディアいっぱいの主催者、アンドレアス・シュナイダーさんらしい発想だ。

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パンデミックから生まれた、電子楽器を森の中に展示するというアイディア!
Photo:©Angela Kroell

 毎年、商業的見本市とは思えない和やかな雰囲気が魅力のSUPERBOOTHだが、今年はさらに解放的で気持ちが良かったと大評判だった。実は毎年見学に行っていた筆者は、今年は重度の腰痛により訪れることができなかったのだが、参加した友人/知人は相当楽しかったようだ。プレス・ルームからの資料によれば、今年の出展者は126社で最大規模だった2019年と比較すると半分以下。しかしその分、出展者同士、アーティストと開発者、シンセに関心のある家族連れなどのより親密な交流が生まれたとのこと。これに手応えを感じた主催者側は、今後も今年のやり方を反映していくつもりだという。待望のフル・スケール開催の日程は既に発表されており、来年2022年の5月12〜14日の3日間となっている。

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初心者アンサンブル・プロジェクト『GAMMON』に参加する子供たち。半日の練習で演奏に臨む。SUPERBOOTHの最大の魅力は、スーパーオタクから全くの初心者や家族連れまで楽しめるところだ
Photo:©Angela Kroell

 当然今年は参加できなかった人も多かったため、会場からのライブ・ストリームも配信されていた。張り切って司会を務めるのはシュナイダーさん本人。4日間それぞれのダイジェストをまとめた映像やデモンストレーションがYouTubeで見られる。すっかり常連のMUTE Recordsのダニエル・ミラー氏、ポールやアトム・ティーエムが登壇。リモートでトム・オーバーハイム氏やジャン・ミシェル・ジャールまで登場した。またこれも毎年恒例だが、全くのモジュラー・シンセ初心者の子供によるアンサンブル・コンサートの様子もほほえましい。この機会に、楽器見本市の常識を覆すSUPERBOOTHの魅力を、ぜひ垣間見てみてほしい。

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ベルリンのモジュラー・シンセ専門店兼ディストリビューターSchneidersladenの社長でSUPERBOOTH主催者であり、キャラ立ちしているアンドレアス・シュナイダー氏
Photo:©Angela Kroell

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている