Berlin Calling〜第77回 Ostgut Tonの15周年記念ライブを公共テレビ局ARTEが放送

ベルリンの重鎮アーティストや若手注目株が3夜に渡り出演

 今やベルリンで最も有名なクラブとして定着しているBerghain。Berghainが運営している、同クラブの前身だったOstgutにちなんで名付けられたレコード・レーベルがOstgut Tonだ。2020年にその15周年を盛大なアニバーサリー・ツアーで祝うはずだったが、パンデミックによってその一切が中止されてしまった。今年の夏にコロナによる規制が緩和されてからも、まだ屋外のガーデン・エリアのみの営業なので、年内に周年パーティを開催することは叶わなそうである。

 

 その一方、コロナ禍でそれまで映像では見ることのなかった世界各地の場所やアーティストを、ネット配信で鑑賞できるようになったことは歓迎すべき変化だろう。Berghainは写真や映像の撮影が厳禁されていることで知られるが、なんと仏独共同の公共テレビ局ARTEが、今回レーベル15周年イベントとして館内で収録された映像を放送した。3夜連続でオンラインでも配信された音楽パフォーマンスは、1夜目がライブ、2夜目と3夜目がDJで、合計17時間以上に及ぶ。

 

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全プログラムのラインナップが書かれたポスター。アーカイブ映像は、ARTEの公式サイトか公式YouTubeチャンネルから視聴可能

 

 撮影されたのはクラブとして営業しているスペースではなく、時々インスタレーションなどに使われる以外、通常は閉鎖されているHalleと呼ばれる空間。大晦日やクラブの周年イベントなど年に数回だけ、チルアウト・ルームとしてクラブの利用者に解放される。変電所跡地なので、文字通りインダストリアルなコンクリート造り。大型劇場くらいの広さがあるので、なんともぜいたくな使い方である。

 

 今回は単なるレーベル所属アーティストのショーケースではなく、クラブにゆかりのあるアーティストやベルリンの若手注目株も含まれており、すべてが2〜3人ずつのコラボレーションになっている。全パフォーマンスはARTEのWebサイトと公式YouTubeチャンネルから観ることができるが、特にサンレコ読者にお薦めしたいのは6組のかなりエクスペリメンタルな電子音楽のライブが繰り広げられる1夜目。クオリティの高いマルチアングルのカメラから、音楽機材やアーティストの手元が見え、ユニークなこの空間の魅力も映し出されている。

 

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初日では唯一の女性デュオとして出演したジェシカ・エコマネ(写真左)とゾーイ・マクファーソン(同右)。一つの楽器をさまざまなデバイスを使い2人で即興演奏するライブを披露。©Kanaan Brothers

 

 オーレン・アンバーチやコンラッド・シュプレンガーといった前衛的なアーティストから、ルーク・スレーターやスピーディーJといったテクノ界の大御所も出演。個人的にはベルリンの重鎮、トビアスとマックス・ローダーバウアーの2人が場所の雰囲気と完ぺきに調和した、さすが圧巻のいぶし銀セットでベスト・アクトだったと思う。ぜひこの珍しい機会に、特別なライブを擬似体験してみてほしい。

 

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ベルリンのエレクトロニック・ミュージック界の超ベテラン、マックス・ローダーバウアー(写真左)とトビアス(同右)。建物全体を楽器として鳴らすような音像はさすがの一言! ©Kanaan Brothers

 

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている