3夜で20組以上のDJが出演、約1,700名がワクチンを接種
ついに9月の1週目の週末からコロナ規制が緩和され、屋内クラブの営業が許可されたベルリン。9月2週目現在、ドイツ全体でワクチン接種が2回完了している人口の割合は62%となっているが、ここ一カ月ほどは伸び悩んでいるのが現実だ。特に若者と住民登録をしていない層への接種をうながすためにさまざまな取り組みが行われている中、先日ベルリンらしい“イベント”が行われた。その名も『Impfnächte』(=ワクチン・ナイト)で、なんと夜間にワクチン・センターで多数のDJがプレイする中、予約不要で誰でもワクチンが受けられるというもの。
2020年3月からベルリン(および欧州諸国の大半)では、ずっと屋内クラブのイベントが禁止されてきたため、イベント出演料で生計を立てていたDJやクラブ従事者にとっては厳しい状況が続いていた。この期間中、実はその多くがワクチン・センターでの仕事に従事していたのだ。筆者の知り合いも複数働いていたため話を聞いてみたところ、ワクチン・センターのスタッフを集めるにあたり、業界に精通するブッキング・エージェントに人材集めの相談があったらしい。
会場であるArena Berlinは、そもそも大規模なクラブ・イベントやコンサートが行われる文化施設であり、昨年既にワクチン・センターに改装されていた。このワクチン・ナイトへ出演したのは、皆こことテーゲル空港跡地を改装したそれぞれのワクチン・センターでスタッフを務めてきたDJたちなのである。テーゲルに勤務しているDJの友人によれば、同時期に同じ不安を抱える顔見知りの同業者同士、センターで働きながら顔を合わせたり交流を深めることで精神的にも大きな支えになったという(安定した収入によって経済的な支えにもなったことは言うまでもない)。
筆者はテーゲルの方で接種を受けたが、フレンドリーな明るい雰囲気で、皆単調な仕事ながら楽しそうに従事していたのが印象的だった。クラブ従事者はもともと社交的で、大人数を誘導することにも慣れている。現地の報道によれば、ドイツ赤十字のワクチン担当者がセンターの仕事に最適であると気付き、このセクターからスタッフを集めることにしたという。約800名の文化セクターの従事者が複数のセンターで働いたそうだ。今後、市内の屋内クラブの入店にはワクチン接種か回復証明の提示が条件になる(検査の陰性証明はNG)。ワクチン接種の普及に努めたことで、クラブ従事者が本来の仕事に復帰できることになったのだから、行政の文化の支え方として見事な事例なのではないだろうか!
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている