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Maxで作る自分専用パッチ - Patch47 〜ランダムさを楽しむサンプル・スライサー

https://www.snrec.jp/draft/entry/7Jl5bgwIdHP9ssYCrsl_EWgvI-w

プレゼンテーション・モード

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能だ。ここでは最先端のアーティストによるクールなパッチを紹介。ファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててほしい。

読み込んだサンプルを32パートへ分割

 今回紹介するのは、音声ファイルを[buffer~]に読み込み、32パートへ均等に分割して、ランダムなタイミングで再生するパッチです。[buffer~]に取り込んだファイルに対して、すべて同じ長さになるように32のループ・スタート/エンドのポイントを決めます。4分のファイルの場合、7.5秒のループが 32個作られることになるわけです。どのループをどのタイミングで再生するのかは、音声ファイルを[buffer~]に読み込み終えた際にランダムで決められ、[matrixctrl]にセットされます。さらに、1シーケンス終えるたびに1カ所だけランダムで変更され、常に再生されるパートがわずかに変化します。言葉で説明してもなかなかややこしいと思いますので、ぜひパッチをダウンロードして実際に使ってみてください。

 

 “RPS.maxpat”がメイン・パッチで、“poly_kat_32.maxpat”はポリフォニー処理用です。パッチを開いたら、左上にある“read sound file”のボタンをクリックして好きな音楽や音声のファイルを読み込んでみてください。ファイル読み込みのダイアログが開きます。MP3やWAV、AIFFなどであれば問題無く動作可能です。再生してみると、最初は乱雑に再生しているだけのように聴こえますが、徐々にグルーブを感じられるようになると思います。もちろん読み込む音声ファイルに向き不向きがありますが、一般的なポップスやロック、ダンス・ミュージックではうまく機能するでしょう。サウンドスケープなども面白いと思います。へんてこなグルーブ感を生み出してしまうこともありますが、じっと我慢してミニマルな変化を楽しむのも一興です。静かな音よりは比較的ダイナミックな音楽やサウンドを使う方が効果的かもしれません。

 

 Maxを始めたきっかけは、大学の先生にカール・ストーンがいたからでした。カールさんはサンプリング・キングと呼ばれるだけあって、授業内でも面白い音楽ファイルをMaxに読み込んで魅力的なグルーブを繰り出すスタイルには感動したものです。その後私が大学院へ進学し、私自身も大学の教員となったことで16年ほど自称弟子として師匠の技を盗むことに明け暮れる楽しい日々を送りました。今は私の職場が変わったこともあり、時々連絡を取る程度になってしまったのですが、夜な夜な隣の研究室から制作中の音が爆音で聴こえてくる環境はとてもぜいたくだったと思います。恐れ多いですが、“目指せカール・ストーン”といった心意気でこのパッチを作りました。

ランダムさで自身の想像を超えるのが面白い

 話をパッチに戻します。“step selector”のエリアは、読み込んだ音声ファイルのどのパートをどのタイミングで再生しているかを表示しています。[matrixctrl]を直接クリックしてパートとタイミングを変更することができますが、次のシーケンスに入った際にどれかのパートのタイミングがランダムで変更されます。もちろんプログラミング次第で自分の意図のままにシーケンスを組むことはできますが、あえてしていません。“start/stop”のトグル・スイッチではシーケンスの再生/停止を切り替えます。“tempo”はシーケンスの進行スピードです。“step”はステップ数が変更でき、“scramble”はパートとタイミングを一斉にシャッフルします。[clear]メッセージは[matrixctrl]のすべてのセルをオフにすることが可能です。

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パッチング・モード

 “step playback duration/speed”のエリアは各パートの再生時間と再生スピードをコントロールします。“fade in”は各パートのフェード・インの時間(ms)です。“duration”はシーケンスの“tempo”の値から自動的に計算されます。“fade out”はdurationに任意の値をかけ算することで決まります。例えばdurationが100msのとき、fade outの値を2にすると200msのフェード・アウトに。fade inが10msでdurationが100ms、fade outが2の設定の場合は、各パートは10msで最大音量になり、それを100ms持続して、200msでフェード・アウトします。[matrixctrl]は各ステップの再生スピードを決定しており、各行の左にある数値が再生スピードです。好きな値に変更できます。こちらも自由にセルをオン/オフできますが、やはりシーケンスごとに変化していきます。“scramble”ではパートとスピードを一斉にシャッフルし、グルーブ感を大きく変化させることが可能です。

 

 最後のエリア“control”はDSPのオン/オフとボリュームのコントロールです。スライダーで好みの音量に調整してください。

 

 このパッチは“random pickup sampler”と名付けました。サンプリングのテクニックを複合的に組み合わせた自作パッチを作品制作時に使用するのですが、今回はそのパッチからランダムでサンプリングする部分を抜き出したものです。コントロール・フリークな方には信じられない話かもしれませんが、この仕組みをライブでも使用しています。ランダムで音が選ばれるので、自分の思い通りにはならずコンピューターに翻弄されるのですが、作者の想像を越えてくるところが面白いです。AI全盛期のご時世ですが、ぜひこのパッチで翻弄されてみてください。

 

 

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井藤雄一

メディア・アート研究者/作家。中京大学にて博士(メディア科学)を取得。同大学で教員を勤めた後、現在は神奈川工科大学講師。映像や音を中心とするデジタル・メディアを意図的に誤用(本来とは異なる使用法にて扱うこと)して、ノイズやグリッチなどのエラーを表出させる手法に注目して研究と制作をしている。

 

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