第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。Nagie氏の今月のセレクトは、コアレス『Agor』、Otto Von Schirach & Qebrus『Ottobrus』です。
冷たさのある理想的なシンセ・サウンド
コアレスはFKAツイッグスやムラ・マサなどを手掛ける注目度No.1プロデューサー。本作は彼の1stアルバムとなる。いや、参った。こんなシンセ音を作れたらいいなという漠然とした自分の理想が目の前で鳴っていて感動した。個人的にはアルカの登場以来の衝撃だ。M①「Yonder」から私の好きな冷たいIDMなシンセ、レゾネーターがかかったようなインパクト音にグリッチ系のパッドが絡む。過度にノイズ・ミュージックとならないのが彼の良いところだ。続く2曲のシーケンス音も冷たくてGOOD。その後の楽曲からが彼の真骨頂だろう。月並みなクラブ・ミュージックではなく、言葉が適切か分からないが北欧風でクラシカル、さらにノスタルジックかつエレクトリック。この秋のヘビロテに決定だ。
ポップさが加わり分かりやすくなったIDM作品
IDMつながりで紹介したいのが、私の最も好きなIDMアーティストで2018年に逝去したQebrusと、同じくIDMの奇才オットー・フォン・シーラッハのコラボ作品。Qebrusが大衆に受け入れられづらかったノイズ・ミュージック・オンリーな部分が、オットーが加わったことによりすごく分かりやすくポップになったと思う。冷たいグリッチなパーカッシブ・シンセ音やノイズが超高速で絡みまくる。スタッターや音の連続カット、放物線を描くように変わるリズム・パターンやブレイクはQebrusのトラックだろう。そして数少ない“ここだ”というポイントにオットーのサウンドが絡んできて曲を分かりやすくしている。“ヘビロテ2”である。
Nagie
【Profile】ANANT-GARDE EYES、aikamachi+nagie、CM、アニメ、劇伴、映像音楽中心に活動。Vocaloidライブラリー開発も行う