L'Rain『Fatigue』、スクリレックス『スーパーソニック(マイ・イグジスタンス)』 〜エンジニアNagie's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。Nagie氏の今月のセレクトは、L'Rain『Fatigue』、スクリレックス『スーパーソニック(マイ・イグジスタンス)』です。

曲とサウンドがすごくクリエイティブに感じる

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L'Rain『Fatigue』

 L’Rainはブルックリン出身のタヤ・チークによるソロ・プロジェクトで、本作はその2ndアルバム。彼女自身がソングライター/クリエイターとして歌い、それにフィールド・レコーディングやループ、歌の断片を組み合わせて曲を構成する。特徴を具体的に表すのが難しいのだが、モヤモヤしながらも決してカオスなわけでなくユニークで、曲とサウンドがすごくクリエイティブに感じた。特にM①「Fly, Die」の仕掛けは驚いたし、M②「Find It」に至っては、リバースしたシェイカーのようなキックがバリバリ真ん中で威張っていて面白く、普通のキックやスネアでなくてもイイっしょ!と思ってしまう。M⑦「Love Her」、M⑩「Two Face」がコンテンポラリーなR&Bでこちらも良い。ただ、ベッド・ルーム・スタジオ的なミックスは超一流からは程遠い。間違い無く評価されるだろう本作を、今後にどうつなげていくかが課題だろう。

 

低過ぎるベースと進化するウォブル・シンセ

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スクリレックス『スーパーソニック(マイ・イグジスタンス)』(ワーナーミュージック・ジャパン)

 お次は久々に紹介のスクリレックス。安心安定、超絶格好良いのは分かっていた。だが本作のベース! 低過ぎて最低音域では1波長が切れ切れでほぼLFO(!)だ。そのためミックスの周波数レンジが上から下まで広い広い、そして前後左右の空間も広がる広がる。声のチョップとはめ方も抜群。彼のトレード・マークであるXFER RECORDS Serum的なウォブル・シンセも、月並みなパターンで通すのではなくどんどん進化させてくる。この人のミックス・センスとクリエイティビティに、あらためてため息が出てしまう。

 

Nagie

【Profile】ANANT-GARDE EYES、aikamachi+nagie、CM、アニメ、劇伴、映像音楽中心に活動。Vocaloidライブラリー開発も行う