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ザ・ヴァーノン・スプリング『ア・プレイン・オーヴァー・ウッズ』、Uma『The Moth and the Dove』 〜エンジニアNagie's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。Nagie氏の今月のセレクトは、ザ・ヴァーノン・スプリング『ア・プレイン・オーヴァー・ウッズ』、Uma『The Moth and the Dove』です。

各曲で同じピアノの音がしないところが
エンジニア的にも素晴らしいプロダクション

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ザ・ヴァーノン・スプリング『ア・プレイン・オーヴァー・ウッズ』(インパートメント/p*dis)

 最初から言ってしまおう。素晴らしい、世紀の傑作だ。ザ・ヴァーノン・スプリングは、弱冠17歳でエイミー・ワインハウスのツアーにピアニストとして参加するなど、すごい経歴を持つ。これが最初のソロ・デビュー・アルバムだそうだ。2019年に父が逝去した最中から2020年のコロナ禍までの間に制作された作品。

 ソロ・ピアノ作品なのだが少しずつ色付けがある。グラニュラー・エフェクトのような処理が施されていたり、シンセのアンビエント音が絡んだり、自然音が鳴っていたりする。ピアノの音は、フェルト・ピアノ的なもの、あるいは部屋っぽい音、各曲で同じピアノの音がしないところがエンジニア的にも素晴らしいプロダクションだと思う。しかし、一番すごいのは演奏だ。不思議な音をしていても一音一音からあふれ出す感情に心揺さぶられ、涙が出てくる。

 

前半はほとんどベース、クラップ、歌のみ
制作に勇気がいる絞りに絞った楽器数

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Uma『The Moth and the Dove』

 Umaはロンドンとバルセロナで活躍するシンガー・ソングライター。彼女の作品を聴くのはこれが初めてだ。特筆したいのは絞りに絞った楽器数で、前半はほとんどベース、クラップ、歌のみ。歌にはコーラスがかかり、ステレオで広がっている。声そのものも丁寧にノイズ処理されていて、曲のブレイクでの静寂さが効果的。こういう曲は作っていくうちに心配になるはずで、制作に勇気がいるものだ。音数を少なくするより、増やす方がはるかに簡単だからである。これを機に彼女の過去作品を掘ったら、全体的に音が少なかった。こういうのが得意なんだろう……うらやましい。

 

Nagie

【Profile】ANANT-GARDE EYES、aikamachi+nagie、CM、アニメ、劇伴、映像音楽中心に活動。Vocaloidライブラリー開発も行う