美しいオートメーションを描けるDPの優れたMIDI機能 〜内田智之が使うDigital Performer【第2回】

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 どうも内田智之です! 今回はDigital Performer(以下DP)のMIDIにスポットを当て、僕が普段DPで打ち込みをする上で欠かせない機能やちょっとしたテクニックなどを紹介します。ありとあらゆる分野でMIDIが活躍するこの現代、MIDIを制すものはすべてを制す!ということで、みなさんの打ち込みのヒントになれば幸いです。

DPにはMIDI機能が充実
高度な要求にも応えてくれる

 2021年、なんと今年はMIDIが誕生して40年になるんですね! 音楽制作では主に音源を自動演奏させるためにMIDIを使っているわけですが、僕が初めて自動演奏というものに触れたのは幼稚園児だった1980年のことでした。楽器店で鍵盤が自動で動くアップライト・ピアノに遭遇。とても不思議に思ったのと同時に、そんなことができるんだと興味津々で眺めていました。また、2004年に松島オルゴール博物館(現ザ・ミュージアムMATSUSHIMA)で生楽器を自動演奏させる大掛かりなシステムを見る機会があり、音の迫力もさることながら、パンチ・カードによるシーケンスなど、自動演奏の歴史の深さとそれにかける先人の情熱にただ驚くばかりでした。

 

 電子楽器の開発により、音や演奏を構成する要素がデジタル化され、そこにMIDIが登場したことで、メーカーを問わず演奏情報のやりとりが可能になるとともに、1980年代の目覚ましい半導体技術の進歩により機材の低価格化も進みました。MIDI対応の楽器とシーケンサーを組み合わせることで、誰でも自動演奏を楽しむことが可能になったのです。

 

 それから2000年代半ばくらいまででしょうか、大量のハードウェアとケーブルでMIDIのシステムを組んでいた時代を経て、今ではあらゆるものがソフトウェア化されたことで、MIDIについてあまり深く考えなくても打ち込みができるようになりました。かつては各機材のMIDIインプリメンテーションを穴が開くほど眺めて、何ができるできないと一喜一憂していたのが懐かしいですね。40年たった今でも基本的な部分は変わらずに現役で使われているMIDI。いかに画期的で優秀な規格であったかということがお分かりいただけると思います。

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1996年ごろの筆者スタジオ。多数のハードウェアMIDI音源を駆使して制作を行っていた

 MIDIの打ち込みというと、人間が演奏しなくても簡単な操作で演奏データを作れるという手軽さから、生楽器の代用としては高いクオリティを求められないケースもあるのですが、ご存じのようにMIDIで定義される演奏情報は多岐にわたり、それらを駆使してち密に作り込まれたMIDIデータは驚くほど表現力豊かな演奏をしてくれます。そんなMIDIデータに出会ったときは、中身を隅々まで研究してそのテクニックを吸収してきました。僕自身はインスト曲を制作することも多いので、演奏に魂を込めることを心掛けて日々打ち込みをしています。

 

 さてDPについてですが、さすがは1984年からMIDIを扱ってきた老舗中の老舗MOTU。僕の知る限りMIDIでできないことが見当たりません。作曲のスケッチから、SysExデータを駆使してMIDIで完パケ納品するものまで、どんな高度な要求にも応えられる機能が備わっていて、それらを分かりやすく簡単に使いこなすことができます。また外部のMIDI機器やDAWとのやりとりに必要なSMFの書き出し/読み込みの互換性、安定性といった信頼性の高さもDPの特徴です。

 

簡単な数値入力だけで
オートメーションの詳細な描画が可能

 それでは具体的にDPで表現力を高めるテクニックを見ていきましょう。メロディ・トラックでは、CC #11で音量、CC #1とピッチ・ベンドで音高を1つのノートごとに細かく設定することがあります。もちろん音源側である程度作り込むのですが、音の立ち上がりや跳躍部分などはこのように個別に設定することで旋律が歌い出し、グッと説得力が増すのです。DPでコントロール・チェンジを入力する方法は幾つかあれど、僕のお勧めは断然“コンティニュアスデータを生成”“コンティニュアスデータを変更”“リアサインコンティニュアスデータ”の通称コンティニュアス3姉妹です。

 

 例えばコントロール・チェンジのオートメーションを描くときは、入力したい範囲を指定した後“コンティニュアスデータを生成”を呼び出し、任意のCC番号と値を入力します。入力データの密度やカーブなども細かく指定でき、音を確認しながらベストなデータを作ることが可能です。メロディ楽器はもちろんのこと、ベースやストリングスなどにも効果抜群。今は音源のキー・スイッチで奏法を切り替えたりと、わざわざMIDIデータで細かいことをしなくても表現力豊かな演奏を入力できる時代ですが、これらのテクニックを覚えておくと、キー・スイッチでも追い込めない部分で威力を発揮するでしょう。さらに“コンティニュアスデータを変更”で入力済みのデータをさらに加工したり“リアサインコンティニュアスデータ”ではCC番号そのものを変更可能で、まさに鬼に金棒です。

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コンティニュアス・データの入力をしたい範囲を選択し、画面上部メニュー“リージョン”から“コンティニュアスデータを生成”をクリック。操作したいパラメーターやCCナンバーを指定し、数値を入力することで簡単にオートメーション・カーブを描ける

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“コンティニュアスデータを生成”で作成したオートメーション。指定範囲内のポイントの密度やカーブも細かく指定することができる。数値のランダマイズも可能だ

 僕はこのコンティニュアス3姉妹が好き過ぎて、フレーズによってはデータをガンガン書き込みます。ハードウェア音源の時代よりもソフトウェア音源のデータの追従性が飛躍的に良くなり、さらにDP内部の超絶優れたMIDI分解能も相まって、全くモタついたりズレたりせず思い通りに発音してくれるところがとにかく素晴らしいです。音量やピッチ以外にもフィルターやパン、エフェクトなども一緒にコントロールすれば、もう表現の可能性は無限大。入力したデータが美しく整うのも気に入っているポイントです。

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コンティニュアスデータを設定する機能を駆使して作成したオートメーション。MIDIによる演奏であっても、ピッチ・ベンドや音量などを細かく設定することで、生演奏に近いクオリティにすることができる

 最後に、細かくデータを追い込むのとは真逆のテクニックも紹介しましょう。シンセ・パッドや、それと同じ役割をさせるためにエレピやオルガンなどで白玉コードを入力することがありますよね。例えばサビの8小節、リアルタイム・レコーディングだと実時間+αかかりますが、ステップ・レコーディングであれば2~3秒で終わります。コード・チェンジが多かったりシンコペーションがあったとしても、各音符がテンキーに対応しているため素早く対応可能。16分音符がテンキーの6、全音符なら2といった具合です。何ごとも繊細かつ大胆に、細かいところと抜くところ、メリハリを持って挑むのが内田流といったところでしょうか。

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白玉コードの打ち込みは、ステップ録音でスピーディに行える。DPの“ステップレコード”では各音符がテン・キーに対応しているので、マウスを使わずに素早く切り替えが可能だ

 今回は実用性の高いものを紹介しました。DPのMIDI機能はとにかく強力で使いやすいので、打ち込みを極めたいと思っている方にぜひ使っていただきたいです。それではまた次回お会いしましょう!

 

内田智之

【Profile】小学3年生の自由研究にカセットMTRで作った自作曲を提出し、学校が湧く。東京音楽大学で作曲の基礎をたたき込まれ、幾つかのコンテストで入賞。『beatmania』が好き過ぎてコナミへ入社し、Mr.T名義で数多くの名曲を残す。ソニー・ミュージックパブリッシングの専属作家としてHey! Say! JUMP、乃木坂46などへ楽曲を提供。2020年からは本格的にYouTubeで動画配信を開始する。趣味は料理と電子工作、そしてレトロ・ゲーム。

【Recent Work】

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BEMANI曲をバンドで演奏してみた
※「airflow -dreaming of the sky-」の作編曲プロデュースを担当
V.A.(KONAMI)

 

製品情報

h-resolution.com

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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