注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞く本連載。今回はIZOTOPE Spire Studio(Gen 2)を紹介する。Neutron 3やOzone 9、RX 8など、AIを活用したソフトウェア/プラグインを開発しているIZOTOPEによるマルチトラック・レコーダーだ。第2世代となり、NeutronやRXのAIテクノロジーを多数搭載。簡単に高品位なレコーディングができるだけではなく、手軽に作品としてデモを完結できるモバイル・スタジオへと進化した。Spire Studioの魅力について、メディア・インテグレーションの竹本裕司氏と恒吉隆治氏に語ってもらう。
Photo:Takashi Yashima(メイン)
Spire Studio(Gen 2)
59,400円
●IZOTOPE初のハードウェアとして注目を集めた初代Spire Studioは、どのようなユーザーに活用されてきたのですか?
恒吉 アメリカではヒップホップ・シーンを中心に、日本でもギターの弾き語りなどの同じくミュージシャンを中心に今も愛用いただいています。
竹本 それはこのGen 2でも同じなのですが、今回AIによるワークフローが幾つか追加されたことで、例えばボーカリストやナレーターなど声のニーズには一段とユーザーの理想に応えられるようになりました。このAIによるワークフローは、“あなた専属の24時間働くエンジニアがSpire Studio(Gen 2)の中にいる”というイメージで、他社製マルチトラック・レコーダーと大きく差別化できる部分です。ユーザーや楽器ごとに最適な音を録ってくれるレコーダーになっています。
●NeutronやOzone、RXのテクノロジーが搭載されたことは大きなポイントです。Neutronテクノロジーではどのようなことが可能になったのでしょうか?
竹本 本体内蔵のサウンド・チェック機能というものがあり、録音する前にAIに音を聴かせることで、そのソースがボーカルなのか、またはどんな楽器なのかを分析し、自動的に最適なゲインやダイナミクス、EQ設定を行ってくれます。無償のiOSアプリSpire: Music Recorder & Studio(以下Spire App)から、録音ソースの種類やゲインを自分で再設定することができますが、ダイナミクスやEQの設定は完全な自動処理です。またアプリの有償オプションであるSpire ProではOzoneのMatch EQを応用し、歌声や音源に合ったマイクを使っているかのような効果を得られるPro Mic Clarity機能というのも備わっています。
●iOSアプリのSpire AppはSpire Studio本体の操作に必須なのですか?
竹本 いえ、よく誤解されますが必須ではありません。Spire Studio本体のみで録音は可能で、しかもNeutronのサウンド・チェック機能は本体のみで使用できます。
恒吉 バッテリー駆動なので屋外でも使えますし、本体ストレージ容量が初代と比べて2倍になっており、さらに長時間の録音ができるようになりました。幾つものセッションを収録した後は、Spire Appとつなげばアプリ側に読み込まれます。
竹本 ちなみに、本体が無くともSpire Appのみでスマホのマイクを使って録音することも可能です。ただ、DSPエフェクトなどSpire Studio本体が無いと使えない機能、クラウド処理やピッチ補正といった有償のSpire Proが無いと使えない機能があるので注意が必要ですね。
●RXテクノロジーはどのような処理を行うのですか?
竹本 これはSpire Proを使い、かつWi-Fiネットワークに接続しているときに使えるクラウド処理機能です。RXユーザーにはおなじみのバックグラウンド・ノイズをカットするSpectral De-noiseに加え、ボーカル・トラックの場合はマイクの吹かれを低減するDe-plosiveや、不要な残響をカットするDialogue De-reverbなどで処理されます。サウンド・チェック機能で判断されたソースがボーカルなのか楽器なのかによっても、使われる機能は変動しますが、やはり一番恩恵が大きいのはボーカルや音声でしょう。
恒吉 RXが環境面の課題をサポートしてくれるため、置き場を選ばない無指向マイクが、さらに気軽に使えるようになったと言えます。
●録る際にかけるエフェクトもさまざまなものが用意されているようですね。
竹本 これはSpire Studio内蔵DSPを使用するエフェクトです。空間系やアンプ・シミュレーターなど複数のエフェクトを選択できます。エフェクトの味付けは濃いめで、直感的に操作できるよう最小限のパラメーターしかないため、細かくエフェクトを設定したい方はクリーンで録っておき、書き出した後に調整した方がよいかもしれません。Spire Studioでデモを完結させたい人に向けた、かけ録りのエフェクトです。
●ミックスはNeutronのVisual Mixerと同じような画面で、感覚的に音を配置できそうです。
竹本 縦がゲイン、横がパンとして、音をつかむ感覚でミックスできます。IZOTOPEは音を視覚化するのが得意なブランドですし、初心者の方にも受け入れられやすいのではないでしょうか。
●ミックス画面にもボーカル・エフェクトがありますね。
竹本 Spire ProだとNectarの技術を使ったVocal Tuningで自然な声からロボット・ボイス、さらにはフォルマント・シフトなどの遊べるエフェクトが用意されています。その種類もアプリのバージョンアップで今後追加予定です。
●書き出しの段階では、Ozoneのテクノロジーで最終的な仕上げが施されるようですね。
竹本 はい、デモを仕上げるのはOzoneのMaster Assistantを元にしたEnhance機能です。具体的にはOzoneとNeutron双方のダイナミックEQを用いて、低域に至るまで全体の明りょう度と音圧をワンタッチで改善します。これはSpire StudioのDSPを使うため、本体が無いと使えません。
恒吉 書き出し先はSNSのほか、DropboxやGoogle Driveといったクラウド・サービスも選べるので、非圧縮パラで出して後からDAWで仕上げるということも容易です。
●音に妥協することなく曲作りを進めていけるようになっているのは、さすがIZOTOPEの技術力です。どんなシーンでどんなユーザーに使ってもらいたいですか?
竹本 わずらわしいことを考えずに演奏に集中したい、高品位なデモ曲を組み上げたいというミュージシャンにお薦めできます。またRXテクノロジーにより声の処理に強くなったことで、リモートで音声を録音をしなければいけない方にも使っていただきたいです。例えば歌録りをお願いしたいボーカリストが録音環境を持っていなかったとしても、Spire Studioさえ渡せば、環境音をカットした音で録れてしまうわけです。RXテクノロジーで不要な残響をカットし、Enhanceで低域のふくらみを抑え、録り音として成立するクオリティをキープできます。でも、そんなAIの裏仕事は気にしないで“もっと楽しく音楽を形に残したい”というミュージシャンの思いをその場で実現することこそSpire Studioの価値だと思います。
●今後の進化で期待したいことはありますか?
竹本 今はクラウド処理などアプリのみでできることと、Enhanceなど本体でできることが分かれているので、そこが統一されるとシンプルですね。また、例えばカメラが内蔵されて、映像コンテンツとしてすぐに投稿できるようになるなど、パソコンでの音楽制作とは別方面でミュージシャンが楽しめるプロダクトとして進化していってほしいです。今までの常識に囚われず、純粋に音楽を楽しめる製品になるといいですね。
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