コラム型ラインアレイ・スピーカーBOSE L1 Proシリーズ。今回は、シリーズ最大のL1 Pro32と専用サブウーファーSub2を組み合わせてその実力を検証していく。レビューを担当するのは、多数のライブPAを手掛け、尚美学園大学の准教授として指導も行う山寺紀康氏。バンドでの使用において本機は一体どのような力を発揮するのか?
32基のドライバーを搭載したL1 Pro32と37Hzまでの低域を再生可能なSub2
L1 Pro32はミキサー内蔵のスタンド、2段階の中高域用アレイから構成。中高域用アレイには、32基の2インチ・アーティキュレーテッド・ネオジム・ドライバーを搭載し、180°の水平カバレージを誇る。専用サブウーファーのSub2(写真右)は、10×18インチのレース・トラック型ドライバーを採用し、37Hzまでの低域を再生する。
L1 Pro32とSub2はSubMatchケーブル1本で接続可能
3chミキサー内蔵パワー・スタンド
3chミキサーを内蔵するL1 Pro32のパワー・スタンド。XLR/TRSフォーン・コンボのマイク/ライン入力×2、Bluetoothワイアレス接続またはAUX入力端子(ステレオ・ミニ/ステレオ・フォーン)×1が搭載されている。
ToneMatchポート(写真右、緑枠)
ToneMatchケーブルを使用してL1 Pro32をT4S/T8S ToneMatch Mixerに接続するためのポート
小型ミキサーでシステムを拡張可能
別売りの小型ミキサーBOSE T4S/T8S ToneMatch MixerとL1 Proはケーブル1本で接続できる。入力数を拡張できるほか、ミキサーへの電源供給とシステムへのデジタル・オーディオの通信が可能。
T4S ToneMatch Mixer(写真左)、T8S ToneMatch Mixer(同右)
可搬性に優れたアクセサリー
別売りアクセサリーとしてL1 Pro32 Array & Power Stand BagとSub2 Roller Bagがラインナップされる。
専用アプリL1 MixでBluetooth LE接続による遠隔操作を実現
L1 Proシリーズ各機種に対応のiOS/Android対応アプリL1 Mixを使うことで、各パラメーターを遠隔でコントロールすることができる。L1 Mixは無償でダウンロードでき、L1 ProとはBluetooth LEで接続可能。ToneMatch/System EQ設定も変更でき、ToneMatchは、アプリ内でマイク/インストゥルメントのそれぞれをより詳細に設定可能となっている。
1人で運搬や設営が容易にできるサイズ感
両機はSubMatchケーブルを使って接続
音質に定評のあるBOSEから、コラム・タイプのL1 Proが発表された。現在は各社が同様のスピーカーを発売しているが、その最初期となるL1の発売から20年近くを経て、最強のラインナップが登場。ユニット数の異なるL1 Pro8/L1 Pro16/L1 Pro32と、L1 Pro32用のサブウーファーSub1/Sub2だ。今回は最も大きいL1 Pro32とSub2をレポートする。
L1 Pro32は、32個の2インチ・アーティキュレーテッド・ネオジム・ドライバーを搭載した直線型のラインアレイで、180°の水平カバレージを持つ。パワー・スタンド部とアレイ部が別の収納で、それぞれ持ち手の付いたソフト・ケース付き。重量は合わせて13kgと旅行カバンくらいの重さなので1人で持ち運びも設置も可能だ。
サブウーファーのSub2は23.4kg。楕円形ユニットのレース・トラック型ドライバーを使用し、37Hzからの十分な低域をサポートする。横幅がスリムなので1人での運搬も簡単だ。
L1 Pro32とSub2は、SubMatchという独自のコネクター・ケーブル1本で接続可能で、ツイストで簡単にロックできる。L1 Pro32からは電源供給とオーディオ接続の両方を1本でできて便利だ。単体でのボリューム・コントロールもできる。
専用アプリL1 Mixでは、Bluetooth LE接続による遠隔操作が可能。ビジュアルが本体そのものなので、操作の煩雑さは全く無かった。2系統のXLR/TRSフォーン・コンボ入力には、楽器やマイクを直接つなぐことができ、ToneMatchを適用すればMIC/INSTに適した音色に調整可能だ。
APPLE iPadを使用し、専用アプリL1 Mix経由で調整を行う筆者
ドラムをたたきながら聴こえるレベルの音量
境目が分からない程どこでも同じサウンドを提供
今回はレコーディング・スタジオのフロアをステージに見立てバンド・セットを組み、ドラムの後ろにL1 Pro32+Sub2を設置。PA卓を利用し、基本のスピーカー・チューニングから始めた。PAスピーカーの中には、本格的なPA向けのものやオーディオ的なものなどいろいろあるが、うるさくならずに聴こえるという一貫したBOSEサウンドであることが分かった。
バス・ドラムの低音感は演奏者にも気持ち良く感じられた。スピーカーからすべての音が聴こえることでたたき方やチューニングも変わると思うので、演奏者側にも慣れは必要だが、演奏者は想像ではなく実際の音を確認しながらエンジニアと共同作業できる。そして音量調整したボーカル・マイクと合わせると、客席側では十分な音量が感じられた。そしてドラム・ボーカルを試してみたが、なんとハウリングすることなく、ドラムをたたきながら聴こえるレベルの音量が客席に出せたのが驚きであった。ドラムの音もハウリングをさせずに、近くで聴いてもうるさくないセッティングができた。
今回はL1 Pro32が1台のみだったので、バンド全体をカバーするために、旧モデルのL1 Compactをベース・アンプとギター・アンプの横に設置。ベース側からギターを、ギター側にベースを出すことでアンプの音の補助とした。すると、客席とステージの境目が分からないくらいどの場所に居ても同じ音が聴こえるようにできた。当然コロガシは無い。ボーカル・モニターとして前からの補助が少し必要と感じたので、S1 ProをほぼEQ無しで使用することで補うことができた。
バンドでの実践的なセットアップ例
スタジオにバンド・セットを組み、ドラムの後ろにL1 Pro32+Sub2を設置
今回のテストでは、ベーシストやギタリストのモニター用にL1 Compactを設置。ボーカル・モニター用にはS1 Proを使用している
専用ミキサーの併用で省スペースでコントロール
1つの音をスペース全体で共有できる
ハウスのスピーカーは両サイドで少しでも前に置いてハウリングを防ぎ、中音に影響の出ないようにするという現在までのネガティブなPAの発想ではなく、モニターは演奏者に向けて前に置くという発想も無い。そこで出ている音が、その場所から、演奏者、観客、エンジニアという区別無く、音を大きくして聴こえやすくするというのがL1 Proの発想だ。この考え方は、30年以上前から自分が理想と考えていた環境であったが、なかなかハードルの高い部分があった。
演奏者は、自分の音が客席でどう聴こえるかをエンジニアに任せるしかなく、特に大きなステージでは、客席とステージの音を別のエンジニアが別の感性で作るので、ズレが出るのは仕方のないことでもある。しかしL1の発想は、演奏者とともに音を作るところにある。楽器側にも数多くの調整があり、演奏者が追求している部分をそのまま再現できれば理想的だ。
同社のT4S、T8Sなどの専用小型ミキサーを使用すれば、省スペースで演奏者によるコントロールができる。うまく調整できれば、エンジニアの居ない場所でもハイレベルなライブが可能だ。つまり楽器の音とともにPAの環境が整えられ、演奏者にお任せでよいのだ。もちろん、スペースに対して必要な音圧や、ハウリング・マージン、演奏者の同意も考慮する必要があり、現実にはいろいろなノウハウを組み合わせた形になると思う。しかし、L1 Pro32ほどのポテンシャルを持つものを使用すれば、かなり可能性が高くなる。“1つの音が1種類しかない”ということの気持ち良さをそのスペース全体で共有できることが、人間関係もスムーズにすることは言うまでもないことだ。
山寺紀康
【Profile】PAをメインに手掛けるサウンド・エンジニア。角松敏生、浜田省吾、久保田利伸、スピッツなどのライブでPAを担当してきた。尚美学園大学芸術情報学部情報表現学科で准教授を務める。
BOSE L1 Pro32+Sub2
418,000円/1組
SPECIFICATIONS(L1 Pro32)
■ユニット構成:2インチ径ネオジム・ドライバー×32基 ■指向特性:水平180°×垂直0° ■最大SPL:128dB(L1 Pro32+Sub2の場合) ■外径寸法:351(W)×2,120(H)×573(D)mm ■重量:13.0kg
SPECIFICATIONS(Sub2)
■ユニット構成:10×18インチ楕円形サブウーファー ■外径寸法:317(W)×694(H)×551(D)mm ■重量:23.4kg
REQUIREMENTS(専用アプリL1 Mix)
■iOS:12.0以降、iPhone/iPad/iPod Touchに対応 ■Android:6.0以降
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