現在のポータブルPAスピーカーで、大きな人気を獲得しているのが、小径ユニットのラインアレイとサブウーファーを組み合わせたコラム型だ。指向性制御と遠達性を兼ね備え、シンプルなデザインも相まって、各社がしのぎを削っている。その元祖と呼べるのが、BOSEが2003年に発表したL1シリーズ。従来のスタンド・マウント2ウェイ・スピーカーとは全く異なる形状で業界に大きな波紋を投げかけたが、その先進性は現在のコラム型ラインアレイ・スピーカーの隆盛が証明していると言えるだろう。そんなオリジネーターであるBOSEがこのたび、L1シリーズを刷新。“ポータブル・ラインアレイというPAカテゴリーを1つ上のレベルへ引き上げる”とするこの新しいL1 Proシリーズについて、詳しく見ていく。
L1 Pro8
148,000円/1台
L1 Pro16
200,000円/1台
L1 Pro32+Sub1
L1 Pro32+Sub2
330,000円/1組(L1 Pro32+Sub1)
380,000円/1組(L1 Pro32+Sub2)
REPORT History
L1シリーズの哲学
アンプとモニターを兼ねたシステムとして誕生
初代L1の発表は2003年。まだ大型PAスピーカーにラインアレイでの指向性制御という発想が定着し始めたばかりのころだ。当時のBOSEでは、50〜300人規模の小会場PAについて、多くの課題があると認識していた。ポイントソース・スピーカーではカバー・エリアにムラがあること、PA/モニター/楽器用アンプの3種のスピーカー・システムが多方向に音響エネルギーを放射することで不要な反射音が生まれること。演奏者と発音源であるスピーカーとの視覚的位置の不一致、演奏者がモニターするステージ上の音と聴衆に届く音との違い。そしてPAシステムのセッティングに時間がかかること。特に演奏者自身がPAシステムを持ち込むことが多い欧米では、これらの課題がバンドを悩ませていた。
そこで生まれたのが小型ユニットを垂直方向に並べることで垂直カバレッジを抑えて天井での反射を抑制するとともに、均一な水平カバレッジを獲得したL1だった。小型スピーカーユニットとサブウーファーという組み合わせはコンシューマー・オーディオで培ったBOSEのお家芸でもある。
さらに、L1のコンセプトが画期的だったのは、演奏者一人一人が1台のL1を背後に置くことで、楽器用アンプとモニター・スピーカー、そしてPAシステムを兼ねるという発想だ。ボーカリストを含む各プレイヤーは自分のマイクや楽器を個々のL1の内蔵ミキサーに入力し、適切な音量に調整すれば、それで自然とバランスの取れた音でバンド・サウンドを奏でることができる。フィードバックに強いラインアレイ構造によってこうした使用法が実現できたと言えるだろう。先述のようにバンド自身がアンプやPAシステムまで持ち込むことの多い欧米では、機材の減量にも寄与してくれた。
優れた特性であらゆるPA現場に浸透
日本ではこうした欧米の事情とは異なるものの、コラム型ですっきりとしたデザインが好評。スピーカーの存在を感じさせず、見切れが少ないことに加え、クリアで遠達性の高いサウンドで、スピーチからバンドPAまでさまざまな現場で、スタンド・スピーカーの代替として人気を得てきた。
そんなL1の活躍を追従するように、2010年代に入ると各社からさまざまなコラム型スピーカーがリリースされてきた。BOSEはその間、F1やS1 ProといったポータブルPA製品で、L1シリーズとともに“ 生演奏の感動を再現する”というテーゼを追求してきたが、2020年、満を持してL1をアップデートしたL1 Proが発表されたのだ。
Features L1 Proの革新
Point!
ユニット数に合わせたラインアレイ構成
L1 Proの水平カバレージは180°で、広いエリアに対して均一なサウンドを提供できるのが特徴だ。一方で、垂直カバレージは各モデルのユニット数と用途を考慮した設定がされている。
17.6kgと最も軽量なL1 Pro8は、エクステンション・ユニットによってアレイの高さを変更することが可能だ。椅子席の会場やステージ上に設置する際にはエクステンションを外して設置。スタンディングではエクステンションで聴衆の耳の高さ付近までアレイを持ち上げる。そうした用途を考慮して、上下に20°ずつ振ったC型にユニットを配置。天井や床の反射を避けながら、極力広い範囲をカバーする。
L1 Pro16は、天井方向はカバーせず、下に30°向いた非対称の垂直カバレージ。こちらもエクステンションでステージ設置/床置き、スタンディング/着席に対応可能だ。
一方、シリーズ最上位のL1 Pro 32は直線型にユニットを配置し床面と平行にサウンドが届く構造。これはバーの下方にまでアレイがあるため、スタンディング/着席を問わず上下方向に広くカバーできるからだろう。
システム全体としては、L1 Pro8は最大音圧118dB SPL(ピーク)と前身であるL1 Compactよりも6dBアップ。45Hzまでの低域再生能力を有する。L1 Pro16は最大音圧124dB(ピーク)、低域は42Hzまでカバーしている。L1 Pro32+Sub1では最大音圧123dB(ピーク)、低域は40Hzまで。L1 Pro32+Sub2では最大音圧128dB(ピーク)、低域は37Hzまで再生可能。いずれも低域が重視される昨今の音楽シーンに対応するスペックを誇っている。
Point!
誰にでも扱える3chミキサー
L1 Pro各モデルのミキサーは共通の仕様で、ch1&2にはファンタム電源対応マイクプリを搭載。Hi-Z入力にも対応する。この2系統にはToneMatchを用意し、マイクや楽器に合わせたEQをボタン一つで設定可能だ。なお、本体にはボーカル、アコギの一般的なプリセットが備えられているが、後述する専用アプリからさまざまな設定が得られる。ch3はTRSフォーン/ステレオ・ミニ対応のアナログ入力端子に加え、Bluetoothオーディオの入力も可能に。開演前のBGMやトラックの再生に威力を発揮する。パネルには3つのロータリー・エンコーダーを備え、押し込むことでボリューム、トレブル/ベースの2バンドEQ、内蔵リバーブへのセンド量がコントロール可能。さらにBOSEのデジタル・ミキサーT4SやT8Sと直結できる専用端子やライン・アウトも備えている。
Point!
可搬性と低域再生を両立したサブウーファー
L1 Pro各モデルのサブウーファーは、新たに開発されたハイエクスカーション・レーストラック型ドライバーを採用している。これは運搬時、手に持ったときに本体が身体のそばに寄るため、通常の円形ユニット・サブウーファーに比べて持ちやすく、重量を感じにくいデザインだ。L1 Pro8やSub1のドライバーは7×13インチで、従来の12インチ・ドライバーに相当。L1 Pro8では45Hz、Sub1では40Hzまでの低域を担う。L1 Pro16とSub2のユニットは10×18インチのネオジム・ドライバーで、従来の15インチ・ドライバーに匹敵。L1 Pro16では42Hz、Sub2では37Hzまでの低域再生能力を備えている。可搬性の面では、どのモデルもコラムが2分割。専用バッグも、キャリー・ローラー付きのものが用意されるなど、アクセサリー類も充実している。
Point!
専用アプリによるワイアレス・コントロール
L1 Proシリーズは、Bluetoothオーディオの受信だけでなく、専用アプリ(iOS/Android対応)を使ったBluetooth(BLE)経由でのワイアレス・コントロールに対応する。L1 Proシリーズのミキサー自体がワイアレス操作を前提としており、本体のロータリー・エンコーダーのパラメーターが完全にリンクするため、設定を変えた瞬間に音量などが急変することがない。また、さまざまなマイクや楽器の種類に適合するToneMatchのプリセットも豊富に用意。シーンメモリも可能で自分の演奏形態に合わせてベストなサウンドを簡単に呼び出して届けることができる。
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