プラグインで制御可能なアウトボードで切り開く 美しきWESAUDIOの世界

ポーランドで設立されたWESAUDIOのプラグインで制御可能なアウトボードを紹介する

 2010年にポーランドで設立されたWESAUDIO。1176デザインのBeta76といった伝統的なアウトボードを作り出す“クラシック・デザイン”と、コンピューター(Mac/Windows)と接続してプラグイン(AAX/AU/VST)でコントロールおよびリコールを可能にしたフル・アナログ・アウトボード=NGシリーズを展開する“モダン・デザイン”の2部門を主軸に製品開発を行っている。両部門とも高い機能性を備えた美しいサウンドのアナログ機器を作るという志を持ち、シェアを増やし続けているプロ・オーディオ・メーカーだ。サウンドと機能、そしてデザインに優れたWESAUDIOの世界をのぞいてみよう。

Photo:川村容一(メイン)

 

Interview:ミハエル・ヴェグリッキ氏が語るWESAUDIOのこだわり

WESAUDIOのこだわりをスタッフのミハエル・ヴェグリッキ氏が語る

 WESAUDIOのこだわりを知るべく、ミハエル・ヴェグリッキ氏(写真右)にメールでインタビューを実施。創設者であるラドシュラフ・ヴェソロフスキ氏(同左)との出会いや、製品開発における2人の立ち位置などについても話してもらった。プラグインで制御可能なNGシリーズだけではなく、WESAUDIOの歴史を知る上で重要な、クラシック・デザインのアウトボードについての内容も必見だ。

プラグインでアウトボードを制御する仕組みは
IT業界で培ったスキルで実現した

ーWESAUDIOはどのように設立されたのですか?

ミハエル・ヴェグリッキ(以下ヴェグリッキ 創設者はラデック(ラドシュラフ・ヴェソロフスキ)です。レコーディング・スタジオのオーナーやオーディオ・エンジニアとしてのキャリアを歩んできた人物で、彼の音楽に対する情熱と技術力の結晶が2010年に設立したWESAUDIOなんです。なのでラデックのシグネイチャー・サウンドこそが、WESAUDIOだとも言えます。私がWESAUDIOに加わったのは、設立の3年後。それまではSIEMENSやNOKIAといった会社に在籍し、クラウド・ネットワーキングや4GネットワークなどにかかわるIT 部門でエキスパートとして働いていました。しかし私の音楽に対する忠誠心は常にあって、音楽業界で自分の居場所を見付けたいと思っていたのです。そこで15年間培ったスキルを音楽への愛と融合させるべく、ラデックとともにWESAUDIOの新章をスタート。アナログのアウトボードをコンピューターで制御するハイブリッド・デバイス=NG(NextGeneration)シリーズを開発したのです。NGシリーズのコンセプトとソフトウェア全体の開発は私が担当しています。ラデックと私はハード・ロック/ヘビー・メタルをルーツに持つギタリストとして昔からの知り合いで、バンドでアルバムのレコーディングをしていたときに出会ったんです。そのころから2人でデジタル・リコールのコンセプトについて話し合っていたんですよ。

創設者のラドシュラフ・ヴェソロフスキ氏が作業している様子。左には新発売のngBusCompが多数ラッキングされている

創設者のラドシュラフ・ヴェソロフスキ氏が作業している様子。左には新発売のngBusCompが多数ラッキングされている

ー素敵な関係性ですね。WESAUDIOは自国ポーランドでの製造にこだわっていると聞きました。

ヴェグリッキ 私たちは、適切な生産プロセスを開発するのに長い年月を費やしました。その間に学んだのは、依存関係をできるだけ少なくすることが品質や信頼性に大きなメリットをもたらし、製品のメインテナンスにも大きく貢献するということ。金属加工とプリント基板は外部の会社に発注していますが、それ以外はすべてポーランドの工場で行っています。つまりトランスや真空管を含めたすべての小さな部品は、当社の研究室で組み立てているのです。

エンジニアに楽しんで使ってほしいと思い
一つの機器で音色を選べるようにしている

ーWESAUDIOで最初に開発された製品を教えてください。

ヴェグリッキ コンプレッサーBeta76の前身モデルです。

 アナログ・コンプレッサーのBeta76(170,000円)。UREI 1176の基本的な機能を継承しつつ、サイド・チェイン・フィルター(60/90/150Hz)も実装。音色の異なるVINTAGEとMODERNの2つから入力回路を選択することもできる

 アナログ・コンプレッサーのBeta76(170,000円)。UREI 1176の基本的な機能を継承しつつ、サイド・チェイン・フィルター(60/90/150Hz)も実装。音色の異なるVINTAGEとMODERNの2つから入力回路を選択することもできる

ーBeta76はVintageとModernの2モードを搭載しているのが特徴です。どういった意図があるのですか?

ヴェグリッキ 私たちはエンジニアが楽しく使えるよう、一つの機器に対して幾つかのフレーバーを用意するようにしています。例えばBeta76は、ゲインを調節したりコンプレッサーを別のものに変えずとも、UREI 1176で言えば2つのリビジョンを再現可能としているのです。ほとんどの人がデフォルトのVINTAGEモードを選択するであろうことは十分承知しています。しかし、トランスが与えてくれるような中低域のプッシュは、常に必要なわけではありません。既に飽和している素材ではオーバー・サチュレーションが発生することもあるので、高速レスポンスのMODERNを好む声をよく耳にします。API 500互換モジュールのプリアンプDue-Preはこのアプローチをさらに一歩進めて、NEVE 1073とAPIのフレーバーを切り替えられるようにしました。こうした機能は多くの人のジレンマを解決してくれると信じています。

 

ークラシック・デザインのアウトボードでは、どのようなサウンドを目指しているのですか?

ヴェグリッキ 機能とサウンドともに、ビンテージとモダンの中間に位置していると思います。WESAUDIOではよく知られているビンテージ機の雰囲気を維持するために設計段階でかなり努力しているんです。しかし、回路部品の交換を恐れることはありません。伝統的なサウンドと現代的な機能を両立しているのは、そういったスタンスの表れです。

自社で組み立てを行っているWESAUDIOは、小さなパーツをプリント基盤に設置するピック&プレース・マシンを導入している

自社で組み立てを行っているWESAUDIOは、小さなパーツをプリント基盤に設置するピック&プレース・マシンを導入している

集中して音楽を楽しめる環境を作ることが
音楽を次のレベルに引き上げると信じている

ープラグインで制御可能なNG500シリーズは、どのような発想からプロジェクトがスタートしたのでしょうか?

ヴェグリッキ コンピューターの中で作業をするのと同じように、みんなが大好きなアナログ機器を使って作業できればいいなと思ったからです。プリセットをリコールできる機能性はワークフローに絶大なメリットをもたらしますし、コンプのスレッショルドを自動化することは大きな助けになる。オーディオ・エンジニアリングは技術とアートの中間にあるものが最高の形だと思っていて、集中して音楽を楽しめる環境を作ることが音楽を次のレベルに引き上げると信じています。

 

ーどういったプロセスを経てNGシリーズが開発されていったのですか?

ヴェグリッキ 開発に重要なのは私とラデックの知識が補完し合うこと。スキルが異なる私とラデックは、一緒になれば非常に複雑なシステムを作ることができます。機能やフロント・パネルのデザイン、トポロジー、コンセプトなど、プリデザインに多くの時間を割くようにしていますね。アナログ回路の設計はほとんどラデックが行っています。NG500はスペースの問題もあって組み立てが非常に複雑になったり、ユニット・コストが上がることが多かったため、特定の機能を適切に実装するための分析に多くの時間を費やしました。

 

ー限られたスペースに回路を収めるのはやはり難しいことなのですね。コンピューターからコントロールを行う専用プラグインはヴェグリッキさんが開発を行っていると冒頭におうかがいしました。

ヴェグリッキ アウトボードを実際に触っているようなレスポンスを重視することはもちろん、可能な限りノイズが発生しないように気を付けて開発しています。そうすればオートメーションでパラメーターを動かすことが実用的になるからです。

 

ーNGシリーズの多くがAPI 500互換ですが、新製品のngBusCompはラック・サイズですね。

ヴェグリッキ API 500互換では収まりきらない機能群を見てもらえれば、WESAUDIOの哲学を共有してもらえると思います。私たちの目的はコンプ・セクション、高域のサチュレーション・セクション(THD)、低域/中低域のサチュレーション・セクション(IRON出力ステージとIRON PAD)を搭載するユニットを作ることでした。これらのサチュレーション・セクションによって、柔軟性の高いプロセッシングを実現しているのです。ngBusCompでもう一つ重要なのは、フロント・パネル。エンコーダー、ノブ、ボタンはより高速で信頼性の高いプロセッサーとともに実装されています。発売されて間も無いモデルですが、既に多くの人から高い評価をいただいているんですよ。開発に長い年月をかけた自信作です。

 

USER REVIEW

 実際にWESAUDIOの機器を使っているユーザーの声を聞いてみよう。普段からAPI 500互換モジュールの_Dioneと_Hyperionを使っているレコーディング・エンジニアの渡辺修一氏に、その素晴らしさを語っていただいた。

Stereo Bus Compressor
_Dione

160,000円

コンプレッサー「_Dione」

Stereo EQ
_Hyperion

180,000円

イコライザー「_Hyperion」

自然な音色でまとめるバス・コンプの_Dione
マスタリングにも使えるEQ の_Hyperion

 昨今プラグインの性能も良くなり、DAW内でミックスを完結する人が多くなっています。音だけを考えるとアウトボードを使いたいけれどリコールできないのがネックで面倒だ、といった理由でアウトボードから遠ざかる方も多いように思います。本当はアウトボード、使いたくありませんか? WESAUDIOのNG500シリーズなら専用プラグインから本体のアナログ回路を制御したり、本体側からプラグインを操作することができるんです。セッション・ファイルを開けば、電源を落とす前のセッティングにリコールされます。もはや音以外ではアウトボードを使っている感覚はありません。また、アウトボードなのにオートメーションもかけられます。すべてのアウトボードがこうなればいいのにと思うくらい便利です。

 

 _DioneはSSLコンソールのバス・コンプを再現したモジュール。癖が少なく自然なサウンドで、音がギュッっとまとまるテイストはSSLと共通です。豊富なパラメーターが特徴で、特にサイド・チェイン・フィルターをよく使いますね。中でも低域の感度を弱めて4kHz以上の感度を強くするT1とT2は、ドラムのバスで使うと金モノがすごくよくまとまってくれます。

 

 ステレオの4バンドEQ、_Hyperionも愛用の一機。こちらもナチュラルな特性です。中でも5dBか15dBでゲイン・レンジの切り替えができるGAINボタンが便利。マスタリングやマスターなど、細かい調整には5dB、ガッツリ変えたいときは15dBモードにしています。レベルがピークを越えると、LEDが赤くなるのも分かりやすくて素晴らしいですね。

使い勝手はデジタルで音色はアナログ
オートメーションも描ける最高のアウトボード

 両者に搭載されている倍音を付加するTHD機能は、ここぞというときに使っています。THDはMEDとHIGHから選べるのですが、HIGHの値が_Dioneと_Hyperionで違うので使い分けています。

 

 実はNG500シリーズは、土星の衛星から名前が付けられています。土星には80個以上の衛星があると言われているので、新製品もまだまだ期待できそうです。使い勝手はプラグインで音はアウトボード、さらにオートメーションまで描ける最高のアウトボードです。

 

渡辺修一
【Profile】ワーナーミュージック・ジャパンやEMIミュージック・ジャパンのスタジオで技術を磨き、現在はフリーで活躍するレコーディング・エンジニア。GARNiDELiAや清竜人、Syrup16gらの作品に携わる

 

Next Generation
WESAUDIO's Gear

 NGシリーズは渡辺修一氏にレビューしていただいた2機種のほかにも、魅力的な製品が多数そろえられている。土星の第1衛星のネーミングを持つシリーズ元祖のMimasから最新機種のngBusCompまで、現在ラインナップを紹介していこう。

ngBusComp

362,000円

バスコンプ「ngBusCom」

 “ミックス・バス・グルー”の異名を持つ名機を現代的にチューンナップしたVCAバス・コンプ。デュアル・モノ/ステレオ/M/Sの3モードで動作し、チャンネル・リンク機能を備える。VCAとしてTHAT 2181を4基パラレルで内蔵。出力段にCARNHILL製トランスフォーマーを搭載しており、出力のゲイン・コントロールを電子バランスとトランス・バランスから選択できる。トランス・バランスにすると、トランスによる出力レベルとパッシブ・アッテネーターの制御が有効となる。一般的なコンプのパラメーターであるスレッショルド、レシオ、アタック・タイム、リリース・タイムをはじめ、パラレル・コンプレッションを可能とするDRY/WET、連続可変で倍音を付加できるTHD、サイド・チェイン・フィルターといった機能も完備する。サイド・チェイン・フィルターは60/90/150Hzに加えて、ハイパス・フィルターとハイブーストを合わせたティルト・フィルターも2種類用意。さらに外部サイド・チェイン・フィルター信号も使える。プラグインを使わずとも、ngBusComp本体に3種類までセッティングの保存が可能となっており、A/B/Cのボタンでリコール可能だ。NG500シリーズではフロント・パネルのUSB端子、あるいは専用電源フレーム_TitanのUSBおよびイーサーネット端子からコンピューターへ接続する仕様となっていたが、ngBusCompには本体にUSBとイーサーネット端子が搭載されている。

コントロール専用プラグイン。Mac/Windowsで使用でき、AAX/AU/VSTに対応している。オートメーションを描くことも可能だ

コントロール専用プラグイン。Mac/Windowsで使用でき、AAX/AU/VSTに対応している。オートメーションを描くことも可能だ

ngLeveler

255,000円

オートメーションシステム「ngLeveler」

 16chの入出力に対してレベル・コントロールが可能なアナログ・ドメインのオートメーション・システム。チャンネルごとにアナログ・サチュレーションを加えるTHD機能も搭載する。隣り合うチャンネルでのステレオ・リンク(相対/絶対)や、クロスフェードのように使える逆リンクも行える。逆リンクはステレオ・ペアでも使用可能だ。

_Titan

145,000円

電源フレーム「_Titan」

 API 500互換モジュールを10スロット分備える電源フレーム。入出力ともにXLR端子を採用している。USBとイーサーネット端子が備わっており、コンピューターと接続することでNG500対応のモジュールを専用プラグインから操作できる。

_Calypso

135,000円

AD/DAコンバーター「_Calypso」

 最高24ビット/96kHzまで対応する8chのAD/DAコンバーター。入出力にはDSub(25ピン端子)をそれぞれ1系統、ADATを各2系統搭載する。ワード・クロック入出力も装備。フレームの_Titanとつなぐことで、_Titanのch1〜8をワイヤリング無しで接続できる。

_Prometheus

180,000円

パッシブEQ[_Prometheus」

 高域と低域のブーストおよびカットが行えるPULTECスタイルのパッシブEQ。ステレオ/デュアル・モノ/M/Sで動作できる。倍音を付加するTHD機能を実装。セッティングを2種類保存してA/Bボタンで比較できるほか、トゥルー・バイパス機能も搭載している。

_Mimas

135,000円

コンプレッサー「_Mimas」

 1176スタイルのBeta76のサウンドをそのままに、API 500互換フォーマットに落とし込んだコンプレッサー。アナログ回路はCARNHILL製トランスフォーマーによるバランス入出力構成が採用されている。サイドチェイン・ハイパスフィルターを実装。レシオは通常の4つの設定に加え、すべてのボタンを押した“オール・ボタン・モード”も再現可能。2つのセッティングを瞬時に切り変えられるA/B機能も搭載されている。

 

Information

WESAUDIO 製品がセール開催中

2020年12月1日~2021年2月28日の間、ngBusCompとngLevelerを除くWESAUDIO製品の価格を20%ディスカウントするキャンペーンを実施中。各モデルの詳細な価格は、アンブレラカンパニーのWebサイトでチェック!

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WESAUDIO 製品情報

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