個人最適化してヘッドホンで「Grand symphony」を聴くと
スタジオが私についてくるような感覚でした
佐咲紗花が歌う劇場用アニメ『ガールズアンドパンツァー最終章』(3月から第3話が公開)の第1話〜第3話オープニング・テーマ曲「Grand symphony」。音にこだわる“ガルパン”のファンからも支持されてきたこの楽曲は、プロデューサー/エンジニアの佐藤純之介氏(Precious tone)の手によって360 Reality Audio化された。
【Profile】2010年、TVアニメ『戦う司書 The Book of Bantorra』第2期OP主題歌『星彩のRipieno』でデビュー。以来数多くのTVアニメ・ゲームの主題歌や挿入歌を担当し、国内外の大舞台で活躍。2017年発売の「Grand symphony」は『ガールズ&パンツァー 最終章』の主題歌として人気に
ハイレゾの立体感とはまた異なる音場
自身のハイレゾ作品を通じてオーディオやスタジオ環境にも造詣の深い佐咲。まずはスタジオのモニター・スピーカーで、続いて個人最適化してヘッドホンで「Grand symphony」を聴いてもらった。
「今までもさまざまな試聴機会があって、例えばハイレゾ音源では解像度だけでなく、CDよりも立体的というか各音色の位置感が見えるような音だと感じていました。でも、360 Reality Audioは、それとも全く別……もっと大きな球の中心にいる中で聴こえている感じがします。それと、音像に立体的な動きがあることに面白さがありました」
特に佐咲を驚かせたのは、ヘッドホンでの試聴だ。
「ヘッドホンで耳がふさがっている感覚はあるのに、ヘッドホンからではなくその外側にあるスピーカーから音が鳴っているように感じられました。そのまま歩いてみると自分の動きと一緒に、スタジオの部屋ごとずっとついてきているような……自分が常にその真ん中にいて、最高の音環境システムが一緒に移動してる感じがして。本当に不思議な感覚でした」
佐咲自身、さまざまなイヤホンやヘッドホンを聴き比べたり、レコーディング・スタジオと再生環境を比較する経験をしてきた。しかし、360 Reality Audioはそうした機器の差と異なる次元のものだと彼女は受け取ったようだ。
「これだけ位置や動きが分かるのなら、歌詞に合うこういう効果音を足してみたいとか、この瞬間にこういうふうに聴こえたらとか、曲の表現がより広がっていくと思います」
コロナ禍において、オンライン・ライブなどの活動も増えている中、新しい可能性が感じられるとも語ってくれた。
「画面=視覚としては会場に居るときより近い表情が見えるかもしれませんが、音が身体に感じられないと思ってる方も、多いと思うんですね。それが360 Reality Audioでライブならではの生々しい音の動きなどがちゃんと表現できるなら、自宅でもライブをもっと深く体感できるようになるでしょうね。リアルでも遠隔でもライブ音を身体で楽しめるようになるのはすごく良いと思います」
インタビュー・ムービーはこちらから
イメージしておけば配置通りに音が鳴る
【佐藤純之介 Profile】 バンダイナムコアーツのチーフ・プロデューサーを経て2020年にPrecious toneを設立。多くのア ニメ・ソングの制作に携わり、自身でエンジニアリングをすることも多い。今回の360 Reality Audioミックスは自社とSYNC LIVE JAPANが共同運営するSYNCLIVE Studio Mで実施。360 Reality Audioに対応すべく、2021年3月に改装を行った。13.1chのモニター・スピーカーはGENELEC The Onesシリーズをメインに用いている
「Grand symphony」の360 Reality Audioミックスを手掛けた佐藤氏。もっと感動できる音体験をリスナーへ提供できるフォーマットだと確信を持ち、発表段階から360 Reality Audioに興味を持っていたそう。
「ポイントは、360°の音をヘッドホンで聴けるテクノロジーだということ。僕たち制作側がどれだけ苦労してもいいから、リスナーには手軽に感動してもらいたいんです。360 Reality Audioの真髄は、自然の音像や音響環境をヘッドホンを通じて再現できるところにあると思います」
今回の「Grand symphony」360 Reality Audioミックスで意識したのも、既発のステレオ・ミックスに思い入れを持つファンに楽しんでもらえることだったそう。ステレオ・ミックス版のステムを元に作業を進めたと佐藤氏は語る。
「ライブ・ハウスで聴いているようなバンド感の要素は大きくは動かさず、その代わりにシーケンスやストリングスで奏でる装飾音に動きも付けました。今までの2ミックスだと、ちょっとフェーダーを突いたり、エフェクトでエコーを飛ばしたりとかしていたところを、ぐる〜っと音を回してみるようなアプローチに変更した感じですね」
音の動きだけでなく、曲のパートごとに音像がガラっと変わることもこの360 Reality Audioミックスの聴きどころだ。
「アニソンはもともと、Aメロ/Bメロ/サビでのメリハリが大きく付いているので。ステレオだとSEを上げたり、シンバルの一発目を上げることで耳を向かせたりしますが、360 Reality Audioでそれを立体的かつドラマチックに聴こえたらいいなと思って試しました。仕込みの段階では、ヘッドホンで確認もしましたが、頭の中だけでステムを作って、“最終的にこれが後ろに行ったらいいな、前に行ったらいいな”というイメージで作業を進めました。その準備さえしてしまえば、目で見た通りの配置で音が鳴ってくれるので、すごく分かりやすかったですね。このミックスをやった直後、別案件のステレオ・ミックスを自宅で作業していたときにも、つい“……これ、後ろに行かないんだったっけ?”と思ってしまいました(笑)」
インタビュー・ムービーはこちらから
360 Reality Audio公式情報