20年以上の活動を誇る女性アーティスト支援ネットワーク、Female:Pressure主催で「反レイシズム空間としてのクラブ」がテーマのパネル・ディスカッションに、パネリストとして筆者も参加した
ドイツ統合30周年の10月3日に
『クラブ・カルチャーの日』が開催
1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌年の1990年10月3日に東西ドイツが統合された。それから30年がたった記念すべき日に、ベルリンが誇る文化であり現在困窮しているクラブ・シーンを支援しようと『Tag der Clubkultur』(クラブ・カルチャーの日)を、ベルリン市政府文化担当参事のクラウス・レーダラー氏が市内のクラブ業界団体Clubcommissionと企画。申請があった市内のクラブ、フェスティバル、イベント、コレクティブなどから選出された受賞40組には、1万ユーロ(約120万円)が授与された。選ばれた全組が10月3日に感染防止対策を遵守した上で、日中から夜にかけてそれぞれイベントを主催することが条件である。そして、賞金の残額は今後の活動資金として、自由に使用してもよいということになっている。
Tag der Clubkulturのポスター。夏季に募集と選考が行われた。開催日前後はベルリン市内のコロナ新規感染者が急増したため、保健局からはくれぐれも“安全対策を怠らぬよう”釘を刺された。現在、屋内クラブ・イベントが禁止されているベルリンでは、今回が冬を前に野外でクラブ・カルチャーを祝福できる数少ない機会となるため、それを尊重し続行された
審査基準は、これまで“どれほどベルリンのクラブ・シーン に貢献してきたか”というところに重点が置かれたため、選出されたのはベルリナーにはおなじみの名前が多かった。ただし、単に老舗であるとか、一般的な人気が高いというだけでない。選ばれたクラブは、ブラック・ミュージックのプログラムが大半を占めるYAAMやCASSIOPEIA、LGBTQコレクティブによって運営されているSchwuz、資本主義批判のスタンスで政治アクティビズムの一環として運営されている://about blankやMensch Meierなどだ。また、イベントやフェスティバルに至っては、そのほとんどがゲイ/クイア・パーティ、フェミニスト・コレクティブ、移民/難民支援イベントなどであった。ただし、これらは慈善事業のような内容ではなく、一般的な社会規範における“健全性”が評価されているわけではない。そこはあくまでクラブ・カルチャーなので、普段なら毎週末に3日間ぶっ通しで営業しているようなGolden Gate、Sisyphos、Club der Visionäreといったクラブや、GEGENのようなフェティッシュ・パーティも含まれている。そんなクラブが公共の文化助成金の対象となっているというのは、何ともベルリンらしい。
当日は、市内各所でクラブ・イベントが同時開催された。この日の共通スローガンが印象的で“クラブは親密性であり、ユートピアであり、連帯であり、セーファー・スペースであり、逃避であり、ビジョンであり、気付きであり、家であり、快楽主義であり、小宇宙であり、エクスタシーであり、機会である”というものだった。ベルリンという街ならではのクラブ・カルチャー、その社会的意義と文化的な潜在力への理解の深さが表れている。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている
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