Black Lives Matter 以降の
音楽産業に求められていること
前号のコラム執筆時からまた世界は大きく変わった。ミネアポリスで警官に殺害されたジョージ・フロイドさんの事件を経て、構造的人種差別に対する抗議運動Black Lives Matter(以下BLM)が、アメリカのみならず世界規模で広がっている。特に欧米では白人優位の社会構造が問題視され始め、ブラック・ミュージックの恩恵を受けてきた音楽産業にも厳しい目が向けられている。6月2日には、アメリカの音楽業界で働く女性の呼びかけを発端に、宣伝や放送などの“ 通常業務”を一日休むことで差別問題について考える時間を取ろうとする“Blackout Tuesday”というキャンペーンを実施。音楽産業を超えた多くの人々がそれに賛同を示す黒い画像をSNSに投稿する動きがあった。しかし、このような手軽な支持表明に対する批判も高まり始めている。
一つの事例がベルリンのNATIVE INSTRUMENTSだ。この日、黒い背景に黒人コミュニティへの連帯のメッセージを投稿した同社は、SNSのLinkedIn 上で非白人の元社員に、社内では有色人種の社員の意見が聞き入れられない実情や重役ポストは白人で占められていることを公に批判された。それを受けてCEOが出した一度目の声明は、複数の元社員から“ 不十分”とさらに批判され、多数の音楽系媒体にも報道されるに至った。最終的な声明文が同社のオフィシャル・ブログに掲載されたのは6月22日のこと。そこには謝罪のみならず、社内体制の改革のため専門家を招くことや研修の強化に10 万ユーロ(約1,200 万円)の予算を確保することなど、実に具体的なコミットメントが示されている。
こちらが論争の引き金となったNATIVE INSTRUMENTSのInstagram 投稿。同社の元社員からの批判をきっかけに、差別撤廃と多様性の実現に真剣に取り組む姿勢を見せたことは評価すべきだろう
警察暴力の犠牲になった黒人の名前とともに入口を真っ黒に塗装した写真をWebサイトに掲載したベルリンのクラブBerghainや、黒人アーティストの写真を投稿してBLM 支援団体への寄付を理由にWebショップでグッズ購入をうながしたアムステルダムのフェス=Dekmantel Festivalなど、実働が伴なっていない表面的なBLM 連帯表明への批判は音楽メディアやイベント主催者などにも向けられ“Performative Allyship”と呼ばれている。今回明らかになったのは、反人種差別の抗議運動は支持表明だけでは不十分ということだ。差別問題を受けて、具体的にどのようなアクションを起こすのかが問われている。ますますグローバル化する音楽シーン/産業において、日本の企業やアーティストも決して部外者ではないことを意識していくべきだろう。
Text by 浅沼優子/Yuko Asanuma
2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている