Berlin Calling〜第61回 新型コロナ・ウィルス被害に対する ベルリン/ドイツ音楽界の動き

新型コロナ・ウィルス被害に対する
ベルリン/ドイツ音楽界の動き

 4月初頭の本コラム執筆時、筆者はベルリンの自宅での“自己隔離”生活が4週目に突入。日本でも公式発表される新型コロナ・ウィルスの感染者数が急増し始めており、全世界が先の見えない不安に包まれている。本号が発売されるころに世界の状況はどうなっているのだろうか……。

 

 日本でも少し話題になったように、ドイツは(音楽を含む)文化セクターの重要性と脆弱性を早い段階から認識し、3月中に補助金の支払いを始めた。私のような外国人のフリーランスにも、簡単なオンライン申請をした翌日に返却義務の無い給付金5,000ユーロ(約60万円)が支払われる。その対応の速さには驚いた。これによって直近の経済的な不安はかなり払拭された。それでも収束のめどが立たない社会的に不安定な状況で、仕事がほぼゼロになってしまった音楽、特にイベント業界の関係者やアーティストにはショックが大きい。

 

 悲観的にならざるを得ない状況ではあるが、まさに今我々のクリエイティビティが試されているとも言える。そこに希望を託すしかない。日本では音楽関係者による#SaveOurSpaceという署名活動が大きな世論の動きを作った。個人や企業による救済活動も始まっている。ベルリンでは、ClubCommissionというクラブ事業者団体が、3月18日に『United We Stream』という市内のさまざまなクラブからDJのストリーミング配信をする企画を開始。それでもクラブは存続の危機にあり、個別でクラウド・ファンディングを行うところも多い。

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3月18日に発足したUnited We Streamでは、100万ユーロ(約1億2,000万円)を目標額として寄付を募っており、執筆時で35%集まっている。さらに、そのうちの8%は難民援助に寄付される

 べルリンには政治意識の高いクラブ・イベントやアーティスト・コレクティブがたくさんあり、彼らの連名でBerlin Collective Action: Nightlife Emergency Fund(ベルリン集団アクション:ナイトライフ緊急基金)として募金を集めている。最も必要とされる移民やLGBTQなど社会的に弱い立場のクラブ関係者に分配するという。ドイツの著作権団体であるGEMAも迅速な対応で、3月19日に登録メンバーの作曲家や作詞家の援助を発表した。これまでクラブなどに対して楽曲使用料を厳しく徴収していたが、クラブの事業の存続を優先し、当面は“柔軟に対応していく”という。こうした結束と行動の速さには感心だ。その後、機材メーカーやオンラインの音楽プラットフォームも支援策を打ち出しており、パンデミック収束後も前向きな協力関係を維持できれば、この業界のあり方も良い方向に変わっていけるかもしれない。それを願いながら、今は家でじっとしていましょう!

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GEMAは4,000万ユーロ(約50億円)の予算を確保し、登録メンバーの出演イベントのキャンセルなどによる損害補填に充てると発表

 

 

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Text by 浅沼優子/Yuko Asanuma

2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている