湯原聡史が使うStudio One 第2回〜テイク選びとコンピングの効率を上げる“トラック&レイヤー”活用術

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 こんにちは、湯原聡史です。今月もPRESONUS Studio One(以下S1)について書いていきます。前回は、ほかのDAWからの移行やショートカット・キーの活用法、MIDI編集やオーディオのベンド機能などを紹介しました。今回は歌録り〜コンピングに役立つTipsをメインに、標準搭載プラグインやミキサーにも言及したいと思います。

 

ざっと選んでつないだデータを
レイヤーに追加しておくメリット

 まずは、僕が歌録りを担当したシンガー・ソングライターの方のテイクをお見せしたいと思います。画面最上段が良く録れたテイクをつないだデータで、下にレイヤー(各テイクを格納したレーン)が続きます。つないだデータ上で、特定の部分をほかのテイクに差し替えたいと思ったら、そこを選択した状態で好きなレイヤーをダブル・クリックすればリプレースされます。またレイヤーのヘッダーにあるソロ・ボタンを入れると、そのレイヤーだけを再生可能。ブレスなどのつなぎ目は慎重にクロス・フェードさせたいので、別のテイクも聴きながら最終的に採用するものを吟味できるのは本当に助かります。

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ボーカルの録り音。最上段がテイクをつないだトラックで、その下にずらっと並んでいるのが各テイクを収めるレイヤーというレーン

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選択中のテイクは、ほかのテイク(レイヤー)をダブル・クリックすることで差し替え可能。左の画面では下から2つ目のレイヤー(緑枠)が選択されているが、右の画面のように上から2つ目のレイヤー(黄枠)をダブル・クリックするとトラックに反映される(赤枠)

 波形を大きくしないとブレスや小さい音などを視認するのが難しい場合は、ソング画面の右下に拡大/縮小用のスライダー(データズーム)がありますので、それをドラッグして上下させてみましょう。僕はレコーディング後にひずみの有無を確認したら、常に拡大して編集作業を行っています。見落としてしまわないための対策ですね。

 

 テイクのセレクトがいったん済んだらイベントを結合して、“選択をバウンス”のメニューを選び1本のオーディオ・イベントにします。それを選択した上で“レイヤーを追加”メニューを選ぶと、イベントが新しくできたレイヤーに移動。このときトラックは空っぽになってしまうのですが、レイヤー内のイベントをドラッグで全選択すればすぐに復活します。こうしておくと“やっぱりほかのテイクの方が良かったかも”と思ってトラックを編集した後でも初めに選んだものを見失わずに済みますし、当初の状態に戻すのも容易です。

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“選択をバウンス”メニューで1本のオーディオになったイベント。このイベントをトラックとレイヤーの両方に入れておくと、トラックの方を幾らエディットしても編集前に戻るのが容易だ

 この後、トラックにCELEMONY Melodyneを立ち上げてピッチやタイミングの補正をするのですが、しばしばリップ・ノイズやひずみなどに気付かないまま作業していることがあります。良くないことですが、万一そうしてしまった場合にレイヤー内の別テイクが生きてきます。前回触れた“編集状態が維持されたまま別テイクを選べる機能”の活躍です。補正済みのテイクからリップ・ノイズなどが見付かったとしても、その部分を別のテイクに差し替えれば、補正の内容を保ったままクリーンな音にできるのです。

 

 ちなみに、別テイクへ差し替えた後に誤って元のテイクをダブル・クリックすると、その部分が補正前の状態に戻ってしまいます。ですが、戻ってしまった部分(イベント)を削除して、前もしくは後ろのイベントをドラッグすれば補正済みだった状態が出てきてくれます。これはS1のトラックが非破壊編集に対応しているからで、あとはもう一度クリーンなテイクに差し替えをすればよいということです。

 

軽快動作で歌録り時にも便利な
標準搭載のエフェクト

 現在、非常に音の良いサード・パーティ製プラグインが数多く存在し、僕も愛用していますが、歌録りの際のエフェクトはなるべくシンプルにしたいので、S1標準搭載のプラグインを使っています。例えばインサートで使用するプラグインなら、ボーカル・トラックに挿しておくだけでモニター/プレイバックの両方でエフェクト処理済みの音が聴けます。リバーブなどのセンド&リターンで使いたいプラグインも同様ですね。

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歌録り時のミキサー。画面中央にあるボーカル/ハーモニー・トラックにはProEQやCompressorが挿さっているほか、MixverbやAnalog Delayへのセンドもある。歌はプリアンプやハードウェア・コンプを通して録るので、これらのプラグインは積極的な音作りを目的にしていない

 標準搭載プラグインで特に便利なのがPro EQ。そのほかCompressorやMixverb、Analog Delayなども使用しています。どれも基本的にCPU負荷が低く動作が軽快なので、バッファー・サイズを小さく設定しても問題なく動いてくれます。パソコンのスペックにもよると思いますが、32サンプルなどでも僕の環境では全く問題ありません。低レイテンシーでモニタリングできるため違和感なく録音に臨めます。

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ボーカルへのProEQ。低域を抑えた上で、言葉を聴き取りやすくする設定にしている。ProEQはバンド数が多く味付け控えめで、とにかく分かりやすい。筆者は迷ったら大体これを使っており、ほかにサウンド・デザイン目的で他社製アナログ・モデリングEQなどをインサートしている

トラック整理&バス・アサインが
瞬時に行えるフォルダー機能

 多くのDAWでは、増え過ぎたトラックをまとめるためにフォルダー機能が付いていたり、バス・チャンネル(DAWによってはグループ・トラックなどとも言います)にアサインできたりしますが、S1を使っていて本当に助かるのは、そうした一連の作業が流れるように行える点です。フォルダー機能については、まとめたいトラックを選択後、右クリック・メニューからパックすることが可能。フォルダー作成後はプルダウン・メニューよりバス・チャンネルを追加でき、まとめたトラックを一括して割り当てられます。このプロセスがストレスフリーで、とてもありがたいのです。

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画面最上段のトラック×2を選択し、右クリック・メニューで“フォルダーにパック”を選んでいるところ。これだけで複数のトラックをフォルダーにまとめられる

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フォルダーのプルダウン・メニューの“バスチャンネルを追加”を選ぶと、くくっているトラックをすべて新規バス・チャンネルへアサインすることが可能。ドラム・パーツなどを一括処理したいときに便利&迅速なメニューだ

 バス・チャンネルにまとめると、何個も同じエフェクトをインサートせずに済んだり、リバーブやディレイへのセンド量を一括して変えることができます。また、まとまっていることで個別に処理するのとは違うかけ方も可能。例えば生ドラム系の音源は、ドラムだけのバス・チャンネルにくくってからコンプレッションすることで、独特のまとまり感が出せます。ドラムへのサチュレーションなども、まとめてからかける方が良い結果を得られることがありますよね。

 

 フォルダー機能は、単にトラックをまとめるだけでなくバス・アサインもスピーディなので“レコーディング資料”の作成にも大活躍します。歌録り時のバッキングには、パラデータのほか楽器パートごとに分類して書き出したステムも活用します。このステムの作成にバス・チャンネルが便利で、“ステムをエクスポート”メニューからバス・チャンネルだけを選択すれば、必要なデータを束ねて書き出すことができるのです。もちろん“ステムをエクスポート”メニューはパラデータの書き出しにも対応していますので(というか、こっちがメイン!)、データをエンジニアの方に渡したい場合は活用してみましょう。

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“ステムをエクスポート”の画面。画面のようにバス・チャンネルのみを選択して書き出せば、速攻でステムを作成することができる。トラックごとにソロにして書き出していた時代では考えられないスピード感!

 さて、先ごろS1がバージョン5に進化を遂げましたね。来月は、その新機能にも触れつつ書いてみたいと思っています。今回もありがとうございました。

 

湯原聡史

ANYTHING GOESに所属するプロデューサー/コンポーザー/アレンジャー。耳なじみの良いメロディと安定感のあるアレンジを持ち味とし、JUJUやJ☆Dee’Z、Girls2などに楽曲提供を行っている。テレビ朝日系『musicるTV コライトバトル』にて優勝。ギターやベースの演奏も得意としている。

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※収録曲「STAYIN' ALIVE」を作曲

 

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