パンデミック時代の音楽家・音楽産業のサバイバル
前回は、コロナ・ウィルス問題に対する初期的なベルリンでの反応や対策を紹介した。しかし、あれから1カ月が経過し、状況は一段と深刻になってしまったと言わざるを得ない。5月1週目の執筆時現在、ベルリンは既に段階的なロックダウンの緩和を始めたが、それに伴って感染者数が増えている。そしてこれまで1以下に抑えられていた基本再生産数が、ドイツ国内の医療崩壊の可能性を示唆する1.1に上昇したと報道された。日本は極端な検査数の少なさから、感染状況の実態が全くつかめない上に、科学的根拠に基づいた指標となる数字も一切示されていないので、効果的な対策は何も打てていないように見える。
欧米では夏の大型音楽イベントはすべて中止されており、楽観的な見通しの主催者は今年9月以降に延期している。数千人以上の規模のものは、内容をそのままに2021年の同時期にスライドするところが多い。スペインでは800人以下の屋外イベントが6月半ばから許可されることが話題になっているが、実際の開催にはリスクと複雑な対策が求められる。
ベルリンでは現在のところ、7月末までは規模にかかわらずすべての劇場や音楽会場、クラブなどに休業が命じられている。市内のクラブ事業者団体であるClubcommissionは、多くの事業者の経営が困窮して施設の存続が危ぶまれる中、妥協案として夏季の屋外イベント開催の許可を行政に求めている。マスクの着用や、事前にオンライン・チケットを購入して来場の際にスキャンし、万が一集団感染が起こった場合には後で追跡できるようにするなど、具体的な開催ルールも提示した。一方でウィルスの封じ込めにいち早く成功したとされ、クラブの営業を再開していた韓国のソウルでは、クラスター感染が発生し、再度クラブの営業は禁止となった。
現在、文化施設などを救済するためのさまざまなクラウドファンディングや寄付、あるいは有料のライブ・ストリーミングやTシャツなどの物販が盛んに行われている。しかし、これらはあくまで応急処置であり、夏以降も継続していけるモデルではない。また実際に会場に足を運び、生でパフォーマンスを鑑賞したり、喜びを共有したりする体験の代替にはならない。現実的に、以前のように安心してこのような体験が再び可能になるのは治療薬とワクチンが普及するまで難しいだろう。筆者は1年半~2年はかかると見ている。その間、どのように(特にインディペンデントの)アーティストや文化施設、その関係者の活動と事業存続を維持していくのか。継続的な方法と仕組みを真剣に考えていかなければならない。
Text by 浅沼優子/Yuko Asanuma
2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている