ベルリンの公共文化施設、世界文化の家が配信したポッドキャスト「Politics of the Dance Floor」シリーズの第1弾。Solidarity(連帯)」をテーマに、筆者と南アフリカ出身の黒人でレズビアンのDJ、トルコ系イギリス人のクイア・プロモーター、ロンドン出身の黒人ヴォーグ・ダンサーでディスカッションを行った
Black Lives Matter運動の波及
欧州でも変わり始めたクラブ産業
欧州のクラブ産業は、現在激震中だ。アメリカの黒人差別抗議運動のBlack Lives Matter(以下BLM)は、確実に欧州のクラブ・ミュージック産業も変え始めている。世界的にも欧州の業界に注目が集まっているのは、市場として最大であることと、トレンドの発信地として依然ロンドンとベルリンの影響力が大きいからだ。この2都市で人気を集めるものが、欧州のほかの都市や世界に広まり、特にアーティストやDJの“市場価値”を大きく左右してきた。
中でもクラブ・ミュージック業界が揺さぶられているのは、文化的なルーツはブラック・ミュージックであるのに対し、近年の“ホワイトウォッシュ”が著しいからだ。ホワイトウォッシュとは“白人による乗っ取り”を意味する。ジャズやレゲエ、ヒップホップなどは一般的にも広くブラック・ミュージックとして認知されているのに対し、ハウスやテクノはいつしかブラック・カルチャーとしてのコンテクストから切り離され、商業化されて、白人を中心に生産/消費されるようになった。これは筆者も実感として分かる。
テクノ/ハウス系のクラブの出演者を決めるブッカー、イベントやフェスティバルの主催者であるプロモーター、媒体のコンテンツを決める編集者やライターといったポジションは、女性の数は増えたものの中流階級で高学歴な白人が占めている。そして、それらの消費者であるオーディエンスも白人が大半である。この問題は以前からずっと指摘されてきたことだが、BLM運動の広がりを機に、あらためて重要視されるようになった。業界の構造として根深い白人中心構造を見直し、黒人やそのほかのPOC(People of Color=有色人種)にとっても安全なクラブ環境と、機会の平等を実現するためにはどうすべきかという議論がSNSなどのオンライン・プラットフォームで非常に活発に行われている。
ポーランドのフェスティバル「Unsound」がオンライン・ディスカッション「Black Techno Futures」を主催した。NY、ベルリン、アムステルダム、サンパウロ、カンパラから黒人でジェンダー差別に詳しいアーティストと音楽関係者が参加。当事者同士の意見交換が行われた
こうした声の高まりを受けて、クラブ・ミュージック専門の音楽媒体であるResident Advisor(ベルリン/ロンドン)、Telekom Electronic Beats(ベルリン)、Mixmag(ロンドン)、DJ Mag(ロンドン)は、既に大幅に黒人とPOCのコンテンツを増やしている。それだけでなく、POCのライターを起用することによって“白人目線”への偏りも解消する努力をしているのだ。
このような変化は大きく歓迎すべきことだが、新型コロナの影響でほとんどの活動の場や仕事が奪われてしまっているだけに“現場”にどう反映されるか、“市場”がどう応えるか、その持続可能性についてはまだ見えていない。
Text by 浅沼優子/Yuko Asanuma
2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている
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