クラブ業界からバッシングを受けた
レイブ・カルチャー・デモ
6月1週目現在、ベルリンではホテルやバー、映画館などの営業も再開され、かなり日常生活が戻ってきた印象だ。毎年天気が良くて日照時間も長い今の時期は、ベルリナーが最も解放されて活動的になる。しかしウィルス感染防止のため、クラブでの音楽イベントの開催はまだ許されていない。他国に比べれば手厚い給付金が出たものの、音楽イベント業界の従事者にとっては経済的にも厳しい状況が続いている。その閉塞感からの解放とレイブ(クラブ)・カルチャーの保護を訴えることを目的とした水上デモが、Rebellion der Träumer(夢想家たちの反逆)と名乗る主催者によって5月31日(日)にベルリンの市内の運河で行われた。
普段はベルリンのクラブにまつわる下らない笑いネタを掲載しているSNSアカウント=Berlin Club Memesが、大真面目な批判とともにInstagramに投稿した水上デモの様子。クラブ関係者やファンを震撼させたため“恥さらし!”など多くのコメントが寄せられた
晴天に恵まれた当日、船上のDJブースからは音楽が流れ、運河を埋め尽くすゴム・ボートに乗った水着姿の参加者がパーティを楽しんでいた。筆者も偶然通りかかったが、多数の通行人は足を止めてその様子を見ているようだった。だがその後、SNSに投稿された写真を見て仰天した。船に張られた粗末な布には、数日前にミネアポリスで警官に殺害されたジョージ・フロイドの最後の言葉“I can’t breath(e)”と書かれており、それを白人ばかりの参加者のボートが取り囲んで“パーティ”をしている光景だった。同日の同時間には、そこから徒歩5分ほどの地区で人種差別を反対するBlack Lives Matterのデモも行われていた。
しかもこの船上“デモ”隊の終着地点は病院の前だったことを、その後の報道で知った。地元の新聞Berliner Zeitungによれば、全体で1,500人にものぼった参加者の中には、病院内のトイレを勝手に使用した者も複数居たという。これには市内のクラブ業界団体、Clubcommissionも激怒。これまで同団体がコロナ対策のためにしてきた努力を踏みにじり、クラブ・カルチャーにとって重要な路上デモの邪魔をした上に感染拡大の危険を招いたとFacebookの投稿で痛烈に批判した。電子音楽専門のWebサイト『Groove』も“全面的な失敗”と題して、黒人文化と差別問題への配慮に欠けている点や、主催者と参加者が自己中心的で無責任であった点などを、徹底的に批判する記事を掲載している。
主催にかかわっていた市内のクラブであり、2月には店内での感染者も出していたKater Blauは、謝罪のコメントを出した。それによれば、主催側の想定を上回る参加があったせいで感染リスクを高めてしまったとのことだった。完全に当初の意図とは真逆の大ひんしゅくを招いた結果、クラブ・イベントの再開すらも遠のけてしまったようだ。
Text by 浅沼優子/Yuko Asanuma
2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている