サウンド・プロデューサー/ギタリストとして活動していますtasukuと申します。2001年ごろにAVID Pro Toolsを導入して以来、MIDIの作業のみほかのDAWを使用していた時期もありましたが、ここ10年間はPro Toolsのみで制作してきました。
ライブで演奏する立場でもあるので、ノンクリックでの揺れのあるグルーブも大好きですが、今回はラウド・ロック、メタル、ポップ・パンクなど、ドラム・エディットが必須なジャンルでのBeat Detectiveを使った編集やトリガーについて触れていきたいと思います。
タイミング合わせとトリガーは
ラウド・ロック・ドラムのポイント
今回は曲に合わせてレコーディングした際のドラムのエディット方法を書いていきます。ドラムのエディットやトリガー・サウンドで有名な作品と言えばグリーン・デイ「アメリカン・イディオット」でしょうか。こういった楽曲を聴くと、まず音像の大きいキックとスネアが一定のタイミングと音量で刻み、リズムを引っ張ってノリを作っています。
このようにドラムをエディットするメリットは、ダンス・ミュージックがそうであるように正確なリズムが気持ち良く鳴り、そこにほかの楽器が加わることで、心地良く乗れるサウンドが作れることだと思います。EQやコンプで各パーツを処理してミックスしていくことはもちろんですが、タイミングやノリを整理することも、こういったサウンドを作るには不可欠です。
ドラマーの中には、爆音と正確なプレイで加工したような音を鳴らせる方もいらっしゃいますが、そういったドラマーでも普通にレコーディングするだけではどうしてもマイクのカブリがあるため、意図したサウンドを作ることが難しく、エディットやトリガー作業を行ってドラムを構築していきます。今ではライブにおいてもトリガーを使用しているドラマーは珍しくありません。
では実際のレコーディングを見ていきましょう。リズム録りでは、ベーシックとなる3リズムや4リズムを同時に録音することが多いですが、ドラム・エディットをすることが決まっている場合は、まずデモに合わせてドラムのみレコーディングします。その後、テイク選択〜エディットを経て、ベースやギターのダビング、という流れになります。このドラム・エディットを、筆者は自分で行うことが多いです。
Beat Detectiveでの作業も
聴感上で気持ちの良いポイントに
さて、録音とテイク選択を終えたらエディットをしていきましょう。単に打点をグリッドに合わせるだけでは平坦なノリになってしまい、ドラマーが表現しているニュアンスを大きく壊しかねないので、なるべくノリや方向性を把握し、ハネ感やフィルインのニュアンスを生かすよう心掛けています。
ここで使うのがBeat Detectiveです。ドラムのマルチトラック・データを選択し、分析していきます。分割〜適合方法は、曲によってさまざまです。例えば4つ打ちの場合、4分音符のタイミングだけ合わせて裏拍のハイハットなどはレコーディングしたままの相対的なタイミング保持することもあれば、16分音符までハネ具合(シャッフル)を検証して適合する場合もあります。
まず、キック、スネア、ハイハットを中心に“分析→分割→適合→編集スムージング”を実行。フィル・イン以外を確認します。その後、フラムやフィル・インの部分は聴きながら微調整していきます。セクションごとにハネ具合が違ったりすることもあるので、8〜16小節単位で分割〜適合させ、その都度プレイバックして気持ち良い位置を決めます。分析では、なるべく自然なつながりにするためトリガーパッドを8〜10msに設定しています。最後にクロスフェードをかけて、ドラム単体での確認と、ほかの楽器(デモ)を合わせて全体の確認も行います。
タイミング・エディットが終わったら、たたいていないパーツのカブリ・マイクのクリップをミュートします。エンジニアによってはカブリ込みで音作りされている方もいらっしゃるので、この点は前もって確認しておきましょう。
置き換えやレイヤーに加えて
アンビエンスも有効に使うトリガー技
マルチマイクでのドラム・レコーディングではカブリがあるので、例えばスネアにコンプをかければ、そのマイクにカブっているほかの音も一緒に持ち上げられ、バランスが変わってしまい位相や定位にも影響していきます。そこで、カブリの無い単発素材をトリガーすることによって、ほかの音に影響が無い、一音一音がクリアで迫力のあるサウンドを作ることが可能になるのです。
筆者の場合、ドラムの単発素材も録音しておきSLATE AUDIO Trigger2に取り込みます。皮モノをトリガーして、カブリがあるレコーディング・トラックが良いか、トリガーしたトラックが良いか、または混ぜてレイヤーした方が良いかを判断。場合によっては、トリガー素材をアウトボードのEQやコンプで処理してからPro Toolsに戻します。
このとき、マルチトラックのドラムとトリガー素材の位相が合っていないと、音が引っ込んでしまうので、逆相スイッチを試しながら判断するのがポイントです。
こうしたオンマイク素材のトリガーも有効ですが、キックやスネアの響きを大きくしたい場合、単発素材をアンビエンス・マイクで収録した音をトリガーでレイヤーすると、ビッグな部屋鳴りを生かしたサウンドに仕上げることもできます。また、アンビエンスのトラック全体を少し遅らせて距離感を出すことで、より広いスタジオで録音したようなサウンドを得られることもあるので、試してみてください。
ここまでエディットしたところで注意したいのは、誰が聴いても、より気持ちの良いノリとサウンドになっていて、楽曲の向かっている方向とマッチしていること。レコーディングしたままの生々しい演奏の方が良かったという場合もあるので、常にその点を意識してエディット具合を判断していただきたいです。生ドラムの良い意味でのあいまいさとBeat Detectiveなどの正確さを融合することで、ほかの楽器や歌の聴こえ方も大きく変わって、結果クオリティにもつながってくると思っています。気になった方はぜひ試してみてください。
tasuku
プロデューサー/作編曲家/ギタリストとして活動。ロックからダンス・ミュージックまで垣根無く扱う。ポルノグラフィティ、SPYAIRのアレンジ&サポート・ギタリストとしてライブにも帯同するほか、Sexy Zone、浜崎あゆみ、広瀬香美、島谷ひとみなどのアレンジ、映画音楽の制作なども行っている。prime sound studio form所属。
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