Berlin Calling〜第66回 “ビジネス・テクノ”と“疫病レイブ” 問われるDJとイベントの社会的責任

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「疫病レイヴの話をしなければならない」と題されたロンドンのオンライン・マガジンAttack Magazineに掲載された記事

 

“ビジネス・テクノ”と“疫病レイブ”
問われるDJとイベントの社会的責任

 新型コロナ・ウィルスによる“第二波”の被害が世界的に拡大する中、特にヨーロッパでも8月のバカンス・シーズンで人の移動が増加し感染者も急増している。ドイツで少しずつ解除されてきた移動/行動制限も緩和にストップがかかり、公共空間ではマスク着用が義務付けられ、違反した場合は罰金が課されることになった。客席間の距離をおいた着席のコンサートや屋外スペースを持つ会場は人数制限と“ダンス・フロアではマスク着用”を条件にイベントを開催している。しかし、屋内クラブの営業については、2021年の再開を目指すとクラブ業界団体Clubcommissionも公言した。

 

 しかし、EU圏内や近隣諸国のコロナ対策にはバラつきがある。例えばスペインとイタリアでは、7月からクラブやイベントを再開し、フランスでもパリなどの大都市を除外して、ソーシャル・ディスタンスやマスク着用を条件に5,000人以内の屋内イベントは許容されている(執筆時)。そのため、このように規制が緩い場所ではイベントが行われており、移動も比較的自由なEU内の国からは有名DJを招へいできる状況だ。

 

 SNSではこうして開催されたイベントの様子をとらえた映像が共有されており、中にはマスクもせず密接した観客がパーティーを楽しむ姿が確認された。しかも、そんな彼らを盛り上げているのがニーナ・クラヴィッツやアメリー・レンズなど(決して生活には困っていない)高収入DJが目立ったことから、批判と疑問の声が噴出している。

 

 8月の3週目には、ブルックリンの黒人エレクトロニック・アーティストの音楽フェス=Dwellerのブログで、自身も黒人であるフランキー・ハッチンソンが「ビジネス・テクノの問題」という記事を公開したほか、UKのテクノDJデイヴ・クラークもこれらのイベントや出演者を糾弾する長文をFacebookに投稿。ザ・ブラック・マドンナから改名したばかりのザ・ブレスド・マドンナも“DJをしたい欲求は自分にもあるが、今こそDJは責任ある行動をすべき”とSNSで発信した。

 

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フランキー・ハッチンソンによる“ビジネス・テクノ批判”記事。ハッチンソンはNYのブッキング・エージェンシーDiscwomanの共同設立者。全文の和訳は筆者のnote(https://note.com/yuko_asanuma)に公開した

note.com

 

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UKのベテランDJで現在はアムステルダムを拠点にするデイヴ・クラークは、「シーンに失望した」とパンデミック下で安全対策の取られていないイベントに出演するDJたちを自身のSNSで痛烈に批判。英Mixmagらも取り上げた

 

 このころから、このような感染拡大の危険性が高いDJイベントが“Plague Rave”(伝染病/疫病レイブ)と呼ばれるようになった。最大の懸念は参加者とその周囲の人々の健康だが、伝染病/疫病レイブによってクラブやイベントの再開がさらに遠のき、小規模な店や末端のDJが大きな打撃を被ることも心配される。疫病レイブとの関連性は証明されていないが、若年層における感染者が倍増し始めたことで、スペインとイタリアでは8月の後半からクラブやイベント会場は全面封鎖されている。

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。ドイツ語の勉強に挑みつつ(苦戦中)、日独アーティストのブッキングなども行っている

 

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