Part 5|バンド・サウンドをまとめるミックス 〜【特集】打ち込みでバンド・サウンドを作る!

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ギターやベース、キーボード、ドラムによるロック・バンド・サウンドは各演奏者のアンサンブルが魅力だ。しかし、狭い空間に多くの人が集まることを避ける必要がある現在、バンドでの演奏は難しくなってしまっている。そういう事情もあり、昨年から自宅の制作環境を整えた人は多くなったが、バンドマンが一人自宅で作曲をするとなったとき、“自分の担当楽器以外は演奏できない!”となるのはよくあることだろう。だが、今は高品質なソフトウェア音源がたくさんリリースされており、生楽器と比べてそん色無いサウンドを打ち込みで鳴らすことが可能な時代。あと必要なのは、どうやって打ち込めばそれを実現できるのかだ。ロックを軸にドラム/ベース/ギター/キーボードの演奏を打ち込みで表現するテクニックを紹介。ボカロP/エンジニアのかごめPに、バンド・サウンドを音源だけで作り上げるコツを伝授してもらう。

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かごめP

【Profile】ボカロPとしての活動のほか、数多くのボーカロイド楽曲のミックスやマスタリング、インターネット配信業務も手掛ける。クリエイター集団VOCALOMAKETSとしても活動
https://note.com/kagome_p / https://twitter.com/kagome_p

 

ドラムとベースの相互関係を見て処理

 最後に、打ち込みバンド・サウンドをまとめるミックス・テクニックをお伝えします。ロック系ドラムのキモは、100Hzと2kHz辺り。特にキックは100Hzが大きなポイントになるので、ここをうまく生かしてミックスするように心掛けます。

 

 また、スネアの3~5kHzは、ボーカルとケンカしやすいので、スネアの勢いを削がない程度に空けてあげるとよいでしょう。ドラムのまとめには、いわゆるSSLやAPIなどのバス・コンプをインサートするのが定番です!

 

 DRUMS 

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筆者お気に入りのCYTOMIC The Glue。SSLバス・コンプのモデリングで、ドラムをまとめるにはぴったり

 

 ベースは、ドラムの100Hzとケンカしないように注意しつつ、存在感の調整は150~200Hz辺り、低音感の調整は30~70Hz辺りをEQで動かしてみてください。

 

 コンプは、基本的には“何も考えずにフルテン!”と強めにかけ、修正は“強過ぎた!”と感じてからでOKです。また、ベースのドライブ感や存在感の強調には、テープ・シミュレーターを使うことも有効です。ベースがなじまないと感じるときは、一度試してみましょう。キックとベースはぶつかりやすいので、キックをトリガーにしてベースに軽いサイド・チェイン・コンプをかけてあげるのも有効です!

 

 BASS 

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ベースのEQではドラムとの兼ね合いが重要。ぶつかるところはカットしつつ(グラフ中③)、存在感は150〜200Hz(②)で調整する

 

打ち込みギターは低域を持ち上げることが大切

 ギターと言えばまずアンプ。DAWに付属するアンプ・シミュレーターがあれば、そのプリセットをいろいろ試してみてください。それでも納得ができないときに他社のアンプ・シミュレーターを試してみるのでも遅くはありません。

 

 EQは、2~4kHzを持ち上げたくなるのをグッと我慢。それよりも、打ち込みのギターは低域がスカスカになることが多いので、200~300Hzをしっかり強調してあげることで、“圧”のあるギターを作ることができます。コンプはアタック・タイムもリリース・タイムも速めの設定で、アタック感をつぶし過ぎないように注意します。

 

 GUITAR 

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打ち込みのギターでは低域が少なくなることが多いため、200〜300Hzを持ち上げる。画面はSOFTUBE American Class A

 

 キーボードやシンセの音源は500Hz辺りの中域が強く、ボーカルの量感を邪魔しがちなので気を付けましょう。中域を落とし気味に、低域は100~200Hz、高域は3~6kHz辺りを軸に考えると、混ざりが良くなります。加えて、キラキラさせたいときはさらに高域を強調するのも手です!

 

 コンプは、ナチュラルに仕上げたいならVCA系(バス・コンプでもOK)が定番ですが、ピアノやストリングスのように音域の広い音ならマルチバンド・コンプを使うのも有効です。

 

 KEYBOARDS 

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ピアノやストリングスの音色は音域が広いため、マルチバンド・コンプが有用。画面のSOFTUBE Drawmer S73は、インテリジェント・タイプで細かな設定が必要無く簡単に扱えるのが特徴だ

 

 ここまで、いかがでしたでしょうか? 僕はもともと“打ち込みでロックがどこまでできるか試してみよう”と思ってボカロPを始めた一面があり、その当時から蓄えていたノウハウを、一挙に駆け足で紹介させていただきました。

 

 “バンド・サウンドを打ち込みで作る”というテーマ、一見難しそうに感じますが、一昔前に比べると、音源の進化や音楽スタイルの変化もあって、“やってみたら意外とできる”というところまで来たと思います。周りのクリエイターでも、“ギター弾けるけど、もう打ち込みで十分だよ”という人も居るくらいです。

 

 自粛自粛で家に居る時間が増えたこの機会に、ぜひ挑戦していただけたら幸いです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

 

Information
DTMロック制作の入門書が登場

 BiSH / BiS / EMPiRE / GANG PARADEなどWACKアーティストの楽曲を手掛けるクリエイター=松隈ケンタがレクチャーする新感覚のDTM入門書が発売。機材選び、デモ作り、簡易ミキシングまで、“DAWでロックを作りたい!”というビギナーに最適です。付録のCD-ROMにはオリジナル曲「セミのチャーハン」のStudio One用ソング・ファイルや、BiSHらの楽曲で実際に使ったワンショット・ドラム・サンプルも収録!

 

【特集】打ち込みでバンド・サウンドを作る!

Part 1|バンドを支えるドラムを打ち込む
Part 2|生感のあるベース・ラインを作る
Part 3|打ち込みでの鬼門=ギターを表現
Part 4|ピアノ/キーボードを聴かせるワザ
Part 5|バンド・サウンドをまとめるミックス

 

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