長年、Studio One(以下S1)を愛用しているクリエイターらは、どのようなところに引かれ続けているのだろう? S1ヘビー・ユーザーの方々に登場していただき、従来バージョンからの機能などを含め、魅力の数々を語ってもらった。アップデートや新規購入の参考にしてみよう。
浅田祐介
<BIO>1995年にアーティストとしてデビューし、4枚のアルバムを発表。その後CHARAやCrystal Kay、CHEMISTRY、織田裕二、キマグレンらのプロデュースを手掛ける
MPE対応でヒューマンな打ち込みが容易に
Q. S1を使い続ける理由
動作の軽快さ。また“こうしたらこうなってほしい”というのがイメージ通りであること。曲を作っているときは、余計なことで作業を止めたくないので重要です。
Q. 旧バージョンからの機能/プラグインでお気に入りのもの
何よりソフトそのものがドングル無しで動作することがありがたい。プラグインではバージョン5でリニューアルされたPro EQ2の使用頻度が高く、Spectrum Meterも便利です。
Q.バージョン5のアップデートで良いと思う部分
シングル・ウィンドウにさまざまな編集画面が集約されているところ。例えば、MIDIデータを確認しつつCELEMONY Melodyneで作業できるのはありがたい。さらに、ROLIのコントローラーのユーザーとしては待望のMPE(MIDI Polyphonic Expression)対応。気持ちの入った管弦楽の打ち込みをS1だけで実現できます。また、PRESONUS Notionを所有しているのですが、“スコア・ビュー”は簡単なメロ譜作成の時間短縮に役立ちます。
Q.アップデートや新規購入を検討している人へのメッセージ
メジャー・アップデートにふさわしい機能強化。既存のS1ユーザーはマストだと思います。この価格でこれほど強力な制作環境を整えられるのは素晴らしい。またAudioBoxやIOStation 24Cなどとのバンドルは、ビギナーや乗り換え組にはハードウェアを含めた超強力な環境が整えられるのでお勧め。
Gonno
<BIO>アシッド&アトモスフェリックなサウンドを手掛けるハウス/テクノ・プロデューサー。名門International Feelなど各国から作品を発表し、ローラン・ガルニエなど著名DJにプレイされる。ドラマー増村和彦とのコラボも実践
録音時のモニター音と録り音が限りなく近い
Q. S1を使い続ける理由
クリアな音質ですね。僕はアナログ・レコードのデジタル化にS1を愛用していて、ほかのDAWに比べると“録音時のモニター音”と“録り音(オーディオ・ファイル)”の音質が限りなく近いという印象を持っています。というわけで、録音だけでなく生楽器のミックスやセルフ・マスタリングなど、音をじっくりと磨き上げるようなときには必ずS1を使うようになりました。
Q. 旧バージョンからの機能/プラグインでお気に入りのもの
アナログ卓のサミングを再現したConsole Shaperが独特で面白いですね。用途はミックス・オンリーですが、どんな効果が得られるだろうとついつい試してしまいます。
Q.バージョン5のアップデートで良いと思う部分
64ビット・フロート/384kHzでの録音/再生に対応したというのを見て、即アップデートしました。従来のフォーマット(32ビット・フロートや24ビット)との厳密な聴き比べはまだ行っていないのですが、以前録音した24ビットのオーディオを取り込み、書き出し直すだけでも音がクリアになる印象があります。あと、ミックス・ダウンの書き出し先として新規にフォルダーを作成する際、そのフォルダー名にテキストをペーストできるようになりました。例えば、レコードの音を録って書き出すときに、レコード販売サイトなどからコピーした“アーティスト名 – タイトル”をペーストできるわけです。これ、僕のようなレコード・デジタイズをする人にとっては結構重要なアップデートだと思います。
Q.アップデートや新規購入を検討している人へのメッセージ
ミキサーのシーン機能やブラッシュ・アップされたプラグイン・エフェクトなどが興味深い。例えばPro EQ2は、早速試してみたところ、驚くほど高品位になっていました!
in the blue shirt
<BIO>有村崚のソロ・プロジェクト。ボーカル・エディットを駆使した独特の作風が高く評価されている。Maltine RecordsやSecond Royalからのリリースを経て、2016年と2019年にはアルバムを発表。劇伴や広告音楽も手掛ける
自身の作風はS1による恩恵が大きい
Q. S1を使い続ける理由
ボーカルをエディットしまくる私の作風は、S1でシームレスにCELEMONY Melodyneが動くおかげで成り立っていると言っても過言ではありません。
Q. 旧バージョンからの機能/プラグインでお気に入りのもの
エフェクトで真っ先に思い付くのはAnalog Delay。私はピンポン・ディレイを多用するのですが、出音にアナログ感があり、Widthパラメーターを備えていて、かつ軽快に動作するという私にとっての必要事項をすべて満たした素晴らしいディレイです。音源はMojito。“初の有料DAWがS1”という私にとっては最も長い時間を共に過ごしたシンセです。フィルターの効き方がかなり好きで、ほかでは代えのきかない音が出ます。
Q.バージョン5のアップデートで良いと思う部分
ぶっちぎりでクリップ・ゲイン・エンベロープ。オーディオのカットアップを多用するスタイルにおいて、イベントの最初と最後のフェードだけでなく、途中のゲイン・カーブを気軽にいじれるのは本当に助かります。意図されているであろうボーカル・トリートメントなどにも良いですが、私は気軽に触れることを生かして、もっと極端な使い方をしてみようかなと思っています。
Q.アップデートや新規購入を検討している人へのメッセージ
旧バージョンのユーザーで、オーディオ編集を多用するスタイルの方は、クリップ・ゲイン・エンベロープのためだけにアップデートしてもいいんじゃないかとすら思ってしまいます。
毛蟹(LIVE LAB.)
<BIO>LIVE LAB.所属の作曲/編曲/作詞家/マルチ奏者。スマホ用RPGゲーム『Fate/Grand Order』のテレビCMテーマ・ソングや『ソードアート・オンライン』の原作小説刊行10周年テーマ・ソング、アニメ・ゲームの主題歌なども手掛ける
“ちゃんとした音”を約束してくれる
Q. S1を使い続ける理由
一にも二にもまず音、です。バージョン2のころに別のDAWからスイッチしたのですが、当時そのDAWで作ったマルチトラックをS1に読み込んで再生したとき、帯域が整理されていないブヨブヨな音で“なんじゃこれは……”と声に出してしまうほど、ひどく聴こえたことを覚えています。つまり、ほかのDAWでは気付けなかった“粗”がS1では如実に見えるのです。S1でうまく帯域整理されたアレンジ/ミックスができたとき、それは本当に奇麗に音が鳴ります。アレンジ中に細かいところが気になって作業自体が進まない、という罠もありますが、そうした苦労を超えた先にある“ちゃんとした音”を約束してくれるのが、S1の最も素晴らしいところ。もうそれだけで、音楽や音を作る人間(蟹)としてS1を選ばない理由は無いと思っています。
Q. 旧バージョンからの機能/プラグインでお気に入りのもの
筆者は自分で多くの楽器を演奏/録音するので、プリアンプやコンプ、EQやリバーブまで多様なハードウェアを使います。そこで重要なのがPipeline XTというプラグイン。レイテンシー補正、ルーティング、ほかのプラグインとの共存も容易で非常に重宝しています。
Q.バージョン5のアップデートで良いと思う部分
クリップ・ゲイン・エンベロープ。いわば“音量表現の拡張”ですね。細かいコントロールが可能で、イベント単位での大きなゲイン調整やフェーダー・オートメーションとは異なる選択肢。歌の“レベル書き”に最適です。
Q.アップデートや新規購入を検討している人へのメッセージ
実はS1にも、クオンタイズなどのMIDI系機能が発展途上だったりといった部分はあります(どのDAWを選んでも得手不得手がありますが)。しかしそれを補ってあまりあるオーディオの扱いやすさ、音の良さがあります。僕のように、自ら楽器を演奏して録音するタイプの音楽家は導入して損は無いでしょう。
製品情報
PRESONUS Studio One 5
Professional(38,909円前後)、Artist(9,637円前後)、Prime(無償)
※記載の価格はオープン・プライス:市場予想価格
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサー
Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3またはAMD A10プロセッサー以上
共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ空き容量、1,366×768pix解像度のディスプレイ(高DPI推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)
特別企画「制作&ライブを革新するDAW〜 Studio One 5の深淵」
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