【コラム】自宅スタジオで作るワンランク上のモニター環境 〜ペア10万円以下!サイズで比べるビギナー向けモニター・スピーカー

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 せっかく良いモニター・スピーカーを導入しても、設置の仕方や室内音響が悪いと、その性能が十分に発揮されない場合があります。ここでは、自宅スタジオにおけるモニター・スピーカーの設置方法や簡単なルーム・チューニングについて、お話ししていきましょう。

方法❶ 壁との距離は最低30cm開く

 モニター・スピーカーの設置場所についてですが、一般的な自宅スタジオの場合、部屋の形は長方形で、床から天井までの高さは2m50cm前後かと思います。大体は壁に向かって正対してスピーカーを配置するレイアウトになると思いますが、この際なるべく前後左右の壁や、床と天井の平行面を少なくし、定在波をどう処理していくかが大きなポイントです。定在波とは、元の波とその反射した波がぶつかり合って発生する波のことで、低域が膨らんで聴こえたり、フラッター・エコーの原因となったりします。特にスピーカーの背面にバスレフが備えられている場合は要注意。スピーカーとその背面の壁との距離は、最低でも30~50cmの間隔があるとよいでしょう。また、左右の壁とスピーカーの距離もできるだけ近付け過ぎないのが望ましいです。

 

 一番良いのは、部屋の角に対して斜めに配置すること。これだと、スピーカーからの音はまっすぐはね返らずに乱反射するので、より定在波を防ぐことが可能です。ただし、これはスタジオ・レイアウトを大幅に変える必要性があるので、少しハードルが高いかもしれません。

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スピーカーを部屋の角に対して斜めに配置したときの模式図。スピーカーの音は乱反射するため、定在波を抑えることができる

 次はモニター・スピーカーの設置方法です。まずはL/Rのスピーカー間の距離と、L/Rのスピーカーからリスナーまでの距離はすべて等間隔、つまり正三角形になるようにセッティングします。これを基本に、リスナーの場所を調整してみるといいでしょう。筆者はいつもボーカルやキック/スネアなど、センターに定位しているものがきちんと真ん中に聴こえるか、左右のステレオ感が均等に感じられるかどうかをまず確認します。その後、リスニング・ポジションを若干前後に移動したり、スピーカーの角度を内向きにしたりして、ボーカルやギター、ドラムのスネアやハイハットなど、エッジのある音が一番鮮明に聴こえるポイントを見つけ、そこをスウィート・スポットとしています

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スピーカーは、左右のスピーカーからリスナーまでの距離とスピーカー間の距離が等間隔=正三角形になるように配置する。この状態を基本として、リスナーはスウィート・スポットを探してみるのがお勧めだ。なお、スピーカーと壁との距離は最低30cm間隔を開けるのが望ましい

方法❷ スピーカー・スタンドを設置する

 スピーカー・スタンドの活用も挙げられます。振動を抑えて音像がぼやけないようにするため、スピーカー・スタンドはなるべく重みがあり、支柱が空洞になっていないものが好ましいでしょう。筆者はスタンドの支柱の中に砂袋を入れて振動を抑えています。

 

 制振という意味では、インシュレーターも効果的。良いインシュレーターを使うと音像の解像度が上がり、今まで聴こえていなかったディレイやリバーブのテイルなども奇麗に聴こえてくるのでお薦めです。まずは試しに、スピーカーの底面の4隅にゴム板を置いてみてはいかがでしょうか。簡単にできるので、効果を感じたらぜひ採用してみてください。

 

 メイン・デスクは、反射音を少なくするため可能な限り面積の小さいものを選ぶことをお勧めします。デスクの表面に布を敷くなどすれば、軽い吸音効果もあるのでよいでしょう。音像のぼやけ防止につながります。

方法❸ 吸音材や調音パネルをDIY

 室内音響の調整では、吸音材の使用も考えられます。しかし過度な吸音は厳禁です。吸音し過ぎてしまうと高域が減衰し、無音室のような不自然な音響になってしまいます。この環境で作業すると、いつの間にか高域がブーストされたようなサウンドに仕上がってしまうでしょう。ある程度の反射音は大目に見るくらいがちょうど良いです。簡単な吸音対策としては、一番音が溜まる部屋のコーナーに物を置くこと。家具や観葉植物でも構いません。

 

 実は一般住宅の部屋によく使われている壁紙は、音響的に良くないと言われています。そのため、スピーカーの後方には調音パネルを設置するのが理想的。スピーカーから出た音がリスナー後方の壁に反射して一往復した後、さらにスピーカー後方の壁に反射し、時間差でリスナーの耳に入ってくるのを抑えることが目的です。とはいえ、ビギナーが高価な調音パネルを大量購入するのは予算がかかります。

 

 ここでの一番お手軽な方法はカーテンです。スピーカーの後方につっぱり棒を設置し、そこにカーテンや布を垂らせばOK。リスナー後方の壁には、本棚やレコード棚などを拡散材として設置するくらいがよいでしょう。

 

 音を拡散させたい面には、OSBボードを使ってみるのも手。これは木片をプレスしてできた合板で、表面がザラザラしているので簡単な拡散剤として使えます。ホーム・センターで2~3千円から購入することが可能です。

 

 また、写真にあるような青い調音パネルも筆者が自作したものです。青い布はサランネットという生地で、スピーカーの正面にも用いられており、その整音効果は十分良いでしょう。このように、DIYで気軽にモニター環境改善にトライできるのも個人スタジオの楽しいところです。

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筆者が自作した調音パネル。木枠に青いサランネットが貼り付けてある。その下に見えるのは、拡散材として使用しているOSBボードだ

方法❹ 内蔵DSP補正機能を活用する

 最後にモニター・スピーカーのDSP補正機能についても簡単に触れておきましょう。スピーカーの裏側には、EQの操作パネルが付いているモデルが多いかと思います。使い方としては、まずすべてフラットの状態から始め、必要だと感じるEQパラメーターのみを調整します。シンプル・イズ・ザ・ベストです。また低域の膨らみが気になるときには、ローカット・フィルターがとても使えますので試してみてください。また、近年はSONARWORKS Reference 4というキャリブレーション機能を行うDSP補正ソフトウェアもあります。位相感が良くなり解像度も上がるので、一度試してみる価値はあるでしょう。

 

 モニター・スピーカーの設置や室内音響の調整は明確な答えがない分、やり過ぎると迷宮入りしやすい作業でもあります。楽しみながら自分が直感的に良いと感じたものを採用し、積み重ねていくとよいでしょう。機会があれば、一度大型コンソールのある商業スタジオの音も体験してみるのもお勧めです!

 

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福田聡

[Profile]フリーランスで活動するレコーディング/ミックス・エンジニア。ファンクやヒップホップなどのグルーブを重視したサウンドを中心に、堂本剛やSANABAGUN.、福耳などの作品を手掛けている。
Photo:Hiroki Obara

 

※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2020年5月号より転載しています

 

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