美濃隆章のプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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DIYでルーム・チューニングを施し理想の音響を追求
ドラム録りからミックスまでフォローする新たな拠点

 ポストロック・バンドtoeのギタリストでありながら、エンジニアとしても手腕を振るう美濃隆章氏。彼が2020年に構えた新拠点は、自宅の地下に位置する防音仕様のスタジオだ。部屋造りについてはDIYで行った部分が多いというが、どのような空間となっているのだろう?

Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki

メジャーだけでなくインディーズの制作にも配慮
1Hz刻みでブーミングを探すこともあった

 スタジオのエントランスには大量のペダル・エフェクトを収納したケース、そして楽器用のアンプなどが置かれている。「ここでベース・アンプなどを鳴らしてマイク録りすることもあるんですよ。もちろんミュージシャンはブースで演奏するわけですが」と言われ案内されたのが、そのブース。広さ10畳ほどで、なんとドラム録りにも対応する。ブースを抜けるとAVID Pro Tools|HDXシステムを核とするコントロール・ルームだ。メジャー・アーティストのプロダクションに対応できる設備を持ちながら、ドラムのレコーディングからミキシングまでワンストップで行える環境作りにインディー・バンドへの配慮もうかがえる。詳しく聞いてみよう。

 「自分がエンジニアリングを始めたのって、toeのレコーディングをやりたかったり、友達のバンドを手伝うためだったりしたんです。でも頼まれたときに“スタジオを押さえないと……”ってなると、バンド側にスタジオ代+僕のエンジニアリング代というコストがかかってきます。だからと言って後者をディスカウントし続けたら僕も身が持たないので、メジャーのバンドが使うような広いコントロール・ルームはあえて造らずに、ドラムも録れてミックスまで行えるようなレイアウトにしたんです。ここは自宅の一部なので、スタジオ代に関しては外ほどかからないはずだし、バンド側の予算とマッチさせやすいのではないかと思っています」

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AVID Pro Tools|Ultimateを映すディスプレイのほか、CRANE SONG Avocetのリモート・コントローラーやGRADO RS1E、MATRIX Mini-Iなどを置く

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メインのモニター・スピーカーはADAM A7X

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低域の再現性などが気に入っているというSONY MDR-CD900ST(UMBRELLA COMPANY Modified)

 部屋はもともと30畳ほどの一間であったが、壁を設けて間仕切りすることで、ブースとコントロール・ルームに分割したそう。各エリアはコンパクトになったものの、スタジオ全体としては幅広いプロダクションに向けた機能性を実現しており、既に幾つかの作品制作に使用されている。そして、内装の仕上げやルーム・チューニングなどを美濃氏自身が手掛けたのもユニークだ。

 「防音工事は静岡の幸昭という会社にお任せしましたが、床材を張ったりグラスウールの壁をジャージ・ネットで覆ったり、はたまた定在波を取り除いたりといった作業はほぼ単独で進めました。チューニングはコントロール・ルームから着手し、基礎を学んだ上で臨んだものの、いざやってみると試行錯誤の繰り返しでしたね。吸音材で反射を抑えた後も130Hz辺りにブーミングがあったので、その帯域のサイン波をスピーカーから鳴らしつつ、吸音材を持って室内を歩いて“ここに設置したら止まる”という場所を探ったりして……そうやって嫌な周波数を1Hz刻みで探して取り除いた結果、ある程度フラットな特性が得られました」

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デスク右側のラックには、ANTELOPE AUDIO Isochrone OCXやAVID HD I/O、WAVES MaxxBCL、CRANE SONG Hedd 192、SMART RESEARCH C2、TELEFUNKEN V672、V72などをマウント

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所有ペダルの一部。歴代のELECTRO-HARMONIX Big Muffをはじめ、オリジナルのHot TubesやROGER MAYER Voodoo-Vibe、UNIVOX Super-Fuzz U-1095などのレア機も。ギターだけでなくシンセなどに使うこともあるそう

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toeのギタリストとしてのトレードマークとも言えるFENDER Jazzmaster

天井高を取るために床を躯体にじか張り
チューンアップ済みのアウトボードが絶好調

 居住スペースの地下という条件を生かしてか、防音のための空気層を含んだ“浮き床”にはせず、鉄筋コンクリートの躯体(くたい)に直接、床をしつらえている。

 「高性能アスファルト・マットやゴム、ラーチ合板をじかに張って、15mm厚のオーク材で仕上げています。床下には厚さ50cm以上のコンクリートが打ってあるので、そこと一体化させることで、床鳴りの無い引き締まった音になっていますね。そもそも、天井高を目いっぱい取りたかったから浮かさないことにしたんです。天井が高い方が音の抜けが良くなると思うし、ライブになり過ぎたら吸音すればいい。元から低くて飽和してしまっている状況を改善するよりは格段にコントロールしやすいですから」

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常設マイクの一部。左からCOLES 4038×2、MICROTECH GEFELL CMV563、NEUMANN U47 FET(ビンテージ)×2、M149(佐藤俊雄氏が製作したオリジナルの電源ユニットを使用)、KM84×2、SCHOEPS M221A、AUDIO-TECHNICA AT4081、SENNHEISER MD421

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ギター/ベース・アンプ。AMPEG B-15N Portaflexや1965年以前のFENDER Deluxe Reverb Amp、MILES PLATTING V50など珍しいモデルも所有している。FENDER Bassmanはギター・アンプとして活用

 音響機器に目を移すと、アウトボードが存在感を放っている。「基本的には録音用です。よく使うものを選んだ結果、今のセレクションになりました」と話す。

 「だから全部、気に入っているんです。中でもTONEFLAKEの佐藤俊雄さんがノックダウンしたNEVE 33115は、すごく調子が良くて。33115自体は外のスタジオにもありますが、比べてみると音の立ち上がりの速さなどが全然違います。そのほかUREI 1176LNも佐藤さんに手入れしていただきました。“用途は?”と聞かれたので“バスドラが格好良くなればOKです”と答えたところ手早く味付けしてくださって、ものすごくパンチのある音に変わったんです。スピード感が増した上、リリース・タイムを速くしてもひずまなくなりました。面白いですよね」

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アウトボード・ラック。最上段には、佐藤俊雄氏がバス・ドラム向けの手入れを施したコンプ/リミッターのUREI 1176LNが見える。その下にはコンプのRETRO 176やTELEFUNKEN V76、SIEMENS V276、TELEFUNKEN V672といったプリアンプをマウント

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一番上のラックには佐藤氏がノックダウンしたプリアンプ&EQのNEVE 33115を2台収納している。ADGEAR UR-76Sを挟み、佐藤氏による電源ユニットを使ったAURORA AUDIO GTP8もスタンバイ

 ミキシングに関しては「近ごろ専らプラグイン」と言う。

 「以前はUNIVERSAL AUDIOのUAD-2を多用していましたが、PLUGIN ALLIANCEのサブスクリプション・バンドルが便利で、最近はそればかり。Pro Tools|HDXのDSPでも駆動するため、ミックスだけでなくレコーディングにも活用しています。例えばドラム・バスをコンプでまとめておきたいときなどに使えるんですよ」

 録音からミキシングに至るまで、商業スタジオとは違ったユニークなプロダクションを楽しめるであろう美濃氏のスタジオ。「実のところ、コントロール・ルームは再構築しようと思っているんです」と、こだわりを見せる。

 「機密性を高め過ぎた気もするので、鉄筋コンクリートの内側に立てている強化石膏ボードの壁を取り除いて、防音や遮音をもう少し甘くしてもいいのかなと。躯体に直接、吸音材などを配してチューニングしていった方が、より好みの音に近付くような気がしています」

Close up
インディーズ・バンドにも頼もしい防音ブース

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 ドラム録りにも対応するブース。マイク・ケーブルはOYAIDEやKLOTZのものを用意し、コントロール・ルームのオーディオI/Oに直接入力できるので、鮮度の高い音が得られる。こうしたブースを備えることでバンドのプロダクションを録音からミックスまで一貫して行え、予算に限りのあるプロジェクトにも対応しやすい。なお、ドラム・セットは要持ち込みで、演奏は22時までが目処。

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools|HDX
Audio I/O:AVID HD I/O
AD/DA Converter:CRANE SONG Hedd 192、MATRIX Mini-I
Clock Generator:ANTELOPE AUDIO Isochrone OCX

[Recording & Monitoring]
Monitor Speaker:ADAM A7X
Headphone:GRADO RS1E、SONY MDR-CD900ST(UMBRELLA COMPANY Modified)
Monitor Controller:CRANE SONG Avocet
Microphone:AUDIO-TECHNICA AT4081、COLES 4038、NEUMANN U47 FET、M149、KM84、MICROTECH GEFELL CMV563、SCHOEPS M221A、SENNHEISER MD421、etc

[Outboard & Effects]
Preamp & EQ:NEVE 33115
Preamp:AURORA AUDIO GTP8、CHANDLER LIMITED Germanium、G_2 SYSTEMS M.P.A.1VPR、SIEMENS V276、SYTEK AUDIO-SYSTEMS MPX-4A、TELEFUNKEN V672、V76
Compressor:ADGEAR UR-76S、CHANDLER LIMITED Germanium Compressor、EMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、RETRO 176、UREI 1176LN
Dynamics:WAVES MaxxBCL
Pedal Effects:ELECTRO-HARMONIX Big Muff、Hot Tubes、EVENTIDE H9、HOLOGRAM Infinite Jets Resynthesizer、LIGHTFOOT LABS Goatkeeper、MXR Stereo Chorus、ROGER MAYER Voodoo-Vibe、UNIVOX Super-Fuzz U-1095、etc

[Instruments]
Guitar:FENDER Jazzmaster、etc
Guitar Amps:FENDER Deluxe Reverb Amp、MILES PLATTING V50、etc
Bass Amps:AMPEG B-15N Portaflex、FENDER Bassman

 

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美濃隆章

【BIO】国内外で根強い人気を誇るポストロック・バンド、toeのギタリスト。エンジニアとしても活動し、toeはもちろんクラムボン、mouse on the keys、ゲスの極み乙女。、Chara、bonobos、LUCKEY TAPES、sohaなど数多くのアーティストを手掛けてきた

Recent Work

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