どんなミュージシャンも経験した、音楽を作る礎となった作品との出会い。名盤を聴いて花開いた感性がやがて新たな名盤を生み、また次の世代の礎へとなっていくのです。あなたの礎となった名盤は何ですか?
Photo:Yoichi Kawamura(メイン)
草野華余子
<BIO>シンガー・ソングライター、ときどき作詞/作曲家。LiSA「紅蓮華」を作曲し、世界中から注目を集めている。自身名義初となるフル・アルバムのリード曲「それでも、まだ」が好評先行配信中
新旧が同居する名曲のオンパレード
RELEASE:2020年(ワーナーミュージック・ジャパン)
圧倒的なキャッチーさと懐かしさ、そして音色とビートのモダンさを共存させた、2020年一番聴いた名盤。1980年代をほうふつさせるダンサブルな楽曲を中心に収め、太くて芯の強いメロディがコンセプトを支えます。どれもシングル・カットOKな名曲のオンパレードに脱帽です。特に好きな楽曲はM⑤「レヴィテイティング」。“草野が好きな曲のクレジットを調べたら絶対この人”でおなじみ(?)の、マスタリング・エンジニアのクリス・ゲーリンジャー氏、そしてミックス・エンジニアのマーク・ステント氏の手腕が光ります。低音の抜けと分離感が格別です。
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SOYUZ 017TubeとCHANDLER LIMITED REDD Microphone。2020年は自分との声と合うマイクを導入できました
Pharien
<BIO>2019年夏、21歳にしてオランダのダンス・ミュージック・レーベル最大手のSpinnin' Recordsと日本人初となる専属契約を果たした、DJ/作曲家
すべてが新しく聴こえたどこか懐かしい曲
RELEASE:2019年(BITBIRD)
すべてが新しく聴こえた楽曲です。テンポは130BPMで、曲の構成やサウンド・デザイン、音数に至るまで洗練されていて、わずらわしさを感じません。昔からこういったどこか懐かしく湿気のある曲が好みで、特に僕の好みに刺さった曲でした。Duskusは今年新しいアルバムを発表したのですが、そちらも驚きました。彼は以前“僕は他人の音楽と自分のものを比べたことが無いからユニークなのかもしれない。箱の中に収まるより好きなものだけを作りたい”と言っていました。僕も型にとらわれず、好きな音だけでファンを魅了し続けたいですね。
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D16 GROUP Decimort 2。新しいモノを作りたい人にお薦め。幅広く使えます
金子ノブアキ
<BIO>ミュージシャン/俳優。RIZE、RED ORCAのバンド活動以外に、2009年よりソロ活動も。2020年にはアンビエント音楽「Zange Utopia」が、iTunesエレクトロニック・チャートで1位を獲得した
パンクを感じるエレクトロ・ミュージック
RELEASE:2019年(ホステス)
アルバム全体を通しての流れが素晴らしい。美しいサウンド・スケープの中、時折暴発寸前まで熱を帯びるリズムが本当にかっこいい。一聴すると耳触りはとてもソフトなのだが、少しずつ奥へ進んで行くと渦巻く狂気に心をわし掴みにされる。とてもパンクな精神を感じるエレクトロ・ミュージックだ。
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ABLETON LiveのAudio to MIDI機能。世界に一つのサウンドに幾度も出会えました
GeG(変態紳士クラブ)
<BIO>音楽プロデューサー/トラック・メイカー/鍵盤奏者。ジャンルレス・ユニットの変態紳士クラブ所属。ブラック・ミュージックをベースに、メロウでスウィートな楽曲を得意とし、手掛けた楽曲の累計再生回数は1億を超える
打ち込みと生音を巧みに融合したトラック
RELEASE:2017年(ソニー)
“EDMのDJがヒップホップのアルバム!? しかもタイトルにファンクの文字が……”と、気になって聴いてみたら一発目から衝撃を受けました。打ち込みと生音の良いところが、本当にうまく融合されているんです。キーボードの音が特に好みですね。アルバムの全体のグルーブも見事。上音とリズムとベースがうまくかみ合っていて、トラックの作り方が本当にうまい。僕もいつかこんなアルバム作ってみたいです!!!
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MOOG Mimimoog。実機は最高
小森雅仁
<BIO>ミックス/レコーディング・エンジニア。米津玄師、Official髭男dism、藤井風、Yaffle、小袋成彬、iri、TENDRE、AAAMYYY、BIM、PEARL CENTERらの作品に携わっている
名作に必要なすべてを持った作品
RELEASE:2015年(ホステス)
フリーランスになって間もないころ、アコースティックな編成なのに聴いたことがない音像で、とても驚き刺激を受けました。“このキックが”とか“あのリバーブが”といった部分も魅力的ですが、何よりも特筆すべきは“楽曲とエンジニアリングの相乗効果”。このエンジニアリング無しではこの作品は成立しない、と思わせる素晴らしい仕事。新しさ、驚き、普遍性、中毒性、音の輝きなど、僕が名作に必要だと思っている要素をすべてを持っている作品です。エンジニアリングを手掛けたショーン・エヴェレット氏の仕事はいつもチェックしています!
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ATC SCM25A Pro。信頼できるモニター環境があるからこそ、音楽そのものに集中できるのだと思います
森本章之
<BIO>2008年にカプコンに入社し、コンポーザーとして数々のタイトルの開発に携わる。最新作は『モンスターハンターワールド:アイスボーン』。『深世海 Into the Depths』ではミュージック・ディレクターとして音楽制作を監修している
1秒で恐怖を植え付けるサントラ
RELEASE:2013年(La-La Land)
ホラー映画のサウンド・トラックです。『バイオハザード7』の音楽制作のときに出会って、音作りでとても影響を受けました。とにかく違和感の作り方が素晴らしい! 生楽器を元にミュージック・コンクレート的にデザインされたノイジーな音色、それらがうねうねと形を変えながら絡まり合う不響音階の層、空間に溶け込んでいるような質感……。劇中では映像に対して綿密に音楽が設計されていますが、サントラでたった1秒だけ聴いても恐怖を感じられるくらいに、強烈な音作りがされています。そして、それがとても格好良い。
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SOUNDTOYS EchoBoy、Crystallizer 、Decapitator
banvox
<BIO>東京を拠点に活動しているプロデューサー/DJ。エレクトロ・ハウスなどのクラブ・ミュージックをはじめ、ヒップホップも手掛ける
メロウでグルービーなウェスト・コーストの音
RELEASE:2012年(ビクター)
『Doggystyle』に出会ったのは、小学生のころ。岡山県にあるTSUTAYA津島モール店のヒップホップ・コーナーで出会いました。ウェスト・コーストのメロウでグルービーなスタイルがとてもかっこよく、このアルバムをきっかけにウェスト・コーストにどハマりしました。「Watch Me」や「Summer」、「Everlasting、Let Me Take You」といった楽曲で使用している"banvox Sound"と呼ばれているリード・サウンドは、ウェスト・コーストの特徴的なサウンドから影響を受けています。
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IMAGE-LINE Harmor、LENNAR DIGITAL Sylenth1
MONJOE(DATS)
<BIO>エレクトロニックな作風を経て、最近はニューウェーブをほうふつさせる個性的なロック・サウンドも展開する4人組=DATSで作曲/ボーカル/シンセを担当。幅広い楽曲センスを併せ持つ、気鋭アーティストとして注目を集める
音数の少なさに感化された作品
RELEASE:2011年(ホステス)
予備校の休憩時間にタワーレコード渋谷店へ通う日々を過ごしていた、音楽制作を始めた高校3年生のころ。ある日、バイヤーのレコメンド文に引かれて『SBTRKT』を試聴した。M①「Heatwave」のビート・インを迎えた瞬間から、とりこになった。“本当にこれだけでいいの?”と思うほどの音数の少なさ、そして、その音のすき間を生かして際立たせるボーカル。それまで聴いたことのなかった全く新しいスタイルに衝撃を受けたと同時に、“こんなにシンプルでいいなら、音楽制作初心者の自分にも作れるかもしれない”と心を踊らせたのを覚えている。
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ABLETON Live
ZENTA
<BIO>ギタリスト/作曲家。アニメの劇判やゲームの主題歌などを中心に手掛けるほか、メジャー・アーティストへの楽曲提供も行う。ギタリストとしての参加作品も多数
API卓で録ったドラムのパワフルさ
RELEASE:2011年(ソニー)
ドラムの音がパワフルで好きです。たまたま見たフー・ファイターズのレコーディング・ドキュメンタリーで、ボーカルのデイヴ・グロールが自宅のガレージでドラムを録音していて、API 1608を使っていることが分かりました。そのアルバムがこの『ウェイスティング・ライト』です。まだまだドラム録りは奥が深くて勉強中ですが、もう少しレベル・アップした音で録りたいと思い、API 1608を軸に550A、560、527、529、UREI 1178、EMPIRICAL LABS Distressor、DBX 160Xなどをドラムの音作りで使っています。少しずつではありますが、理想に近付いてる気がします。
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API 1608
塩塚モエカ(羊文学)
<BIO>羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲も担当している。3月14日に無観客のオンライン・ライブを開催予定。ソロでは弾き語り、劇伴制作、客演参加など、活動の幅を広げている
絶妙な震えで感情を表現しているかのような一枚
RELEASE:2012年(ビクター)
15歳のときにM①「Unluck」を初めて聴いた瞬間“この音はなんだ!”と思いました。音数は圧倒的に少ないけれど、この曲は表面張力いっぱいに水の入ったコップとか、みずみずしい果実とか、そういうたっぷりとした水分がつまっている様を連想させます。彼の特徴である繊細な歌声もそうですが、すべての音の絶妙な震えが細かな感情を表現しているような、そんな生々しさと繊細さを持った一枚だと思っています。
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ABLETON Liveとその付属プラグイン
TORIENA
<BIO>2012年に活動開始。作詞・作曲・編曲、アートワーク、ボーカルをすべてセルフ・プロデュースで手掛けている。キャッチーかつハードなサウンドが特徴。海外フェス参加やCM、ゲーム、アニメなどへの提供も多数
電子音楽なのに感じられる躍動感に影響を受けた
RELEASE:2010年(ALTEMA Records)
高校3年生の終わりくらいに初めてALTEMA Recordsのクラブ・イベントに行った際、衝撃を受けて帰宅後すぐにALTEMAのサイトでダウンロードしたアルバム。中でも「デジレ」が好きで、短いフレーズのリフレインが心地良いです。サウンド面ではエレクトロニカ、エレクトロっぽさもありながらトランスっぽさもあり、電子音楽なのに躍動感を感じるところが個人的に影響を受けているところかもしれません。
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STEINBERG Cubase、NATIVE INSTRUMENTS Analog Dreams、Razor、XFER RECORDS OTT
中土智博
<BIO>Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーを経て、作編曲家として活動中。アーティスト/声優への楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』などのゲーム音楽も手掛ける
エレクトロニックなD&Bがきっかけで環境を移行
RELEASE:2010年(ワーナーミュージック・ジャパン)
かねてからドラムンベースには親しんでおり、ロニ・サイズのような“ストイックにそぎ落とされた質感”の曲を好んでいましたが、ロブ・スワイヤー(vo、syn)が手掛けるペンデュラムの腰高でタフなドラムに、地をはうようなサブベース、EDM的なシンセとロックをほうふつさせるノイジーなギターが渾然一体になって殴りつけてくるようなドラムンベースに一瞬でノックアウトされました。フェスで初めて聴いたのですが、音を聴いた瞬間にフロア前列へダッシュしていました(笑)。当時はアナログ・サミングをしていた時期でしたが、APPLE LogicからPRESONUS Studio Oneに移行したことも手伝って、インザボックスに移行し、自分でミックスまでやろうと思うきっかけになりました。
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IK MULTIMEDIA Amplitube、KAZROG Recabinet、FRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX2(以上ギター用)、NATIVE INSTRUMENTS FM8(サブベース)、VPS Pharanx(ダンス系ドラム・ライブラリー)
特集「私の礎となった名盤」