エンジニア/クリエイター89人に聞く「私の礎となった名盤|1989年〜1980年」

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どんなミュージシャンも経験した、音楽を作る礎となった作品との出会い。名盤を聴いて花開いた感性がやがて新たな名盤を生み、また次の世代の礎へとなっていくのです。あなたの礎となった名盤は何ですか?

Photo:Yoichi Kawamura(メイン)

 

 

CHOKKAKU

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<BIO>アレンジャー/プロデューサー。SMAP、真心ブラザーズ、Sexy Zone、OKAMOTO'Sなど数々のヒット曲やサントラを手掛ける。最新作は、井上紗矢香「bloom」や、映画『シン・ゴジラ』の編曲

 

シンセ・ブラスと生ブラスの使い分けに影響 

Tony Lemans

Tony Lemans

  • アーティスト:Lemans, Tony
  • 発売日: 1989/10/10
  • メディア: CD
 

RELEASE:1989年(Paisley Park/Reprise)

 1980年代後半、スクリッティ・ポリッティのサウンドに夢中だったころ、そのサウンドの中心人物だったデヴィッド・ギャムソンが、ソロ・アーティストのプロデュース、作曲、アレンジで参加していることを知り、このアルバムを入手しました。全体的にはスクポリ・サウンドなのですが、トニー・リーマンズのソウルフルなボーカルによって一味違った極上のポップ・アルバムに仕上がっています。特にM①「HIGHER THAN HIGH」のイントロでシンセ・ブラスによる格好良いリフ、間奏から生ブラスが入ってくるという同じブラス系でもシンセと生の使い分けは、自分のアレンジにこの後大きく影響したと思います。

名盤に近付けたツール
SPL Transient Designer Plus。スクポリのようなアタック感のあるシンセ音を作るときに使用するプラグイン

 

カワムラユキ

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<BIO>DJ/プロデューサー/作家。道玄坂のウォームアップ・バー渋谷花魁を拠点とするミュージック・ブランド“OIRAN MUSIC”を運営。オープン・ワールドRPG『サイバーパンク2077』にて3曲をプロデュース

 

あらゆる人生や発想のルールを取り払ってくれた

Waltz Darling

Waltz Darling

  • Malcolm McLaren & The Bootzilla Orchestra
  • R&B/ソウル
  • ¥1833

RELEASE:1989年(Epic)

 小学生のときにテレビで流れていたマドンナ「ヴォーグ」をキッカケに、ハウス・ミュージックやヴォーギング、その背景や周辺のカルチャーに興味が湧き、雑誌やラジオの特集で「ディープ・イン・ヴォーグ」(『ワルツ・ダーリン』に収録の一曲)にたどり着きました。このアルバムは、ウィリー・ニンジャとクラシック音楽がマッシュアップするレコードで、あらゆる人生や発想のルールを取り払ってくれた作品でした。「美しき青きドナウ」とダンス・ミュージックを掛け合わせた「ルーフトップ・ワルツ」(House of Blue Danube)など、ソングライティングや音楽理論から音楽の骨子を作るというよりは、発想やイメージをコラージュして作品を創作していく感じに引かれました。その後にリリースされた『パリ』での、バレアリックやチルアウトとポエムコアがミックスされた展開もツボです。

名盤に近付けたツール
OIRAN MUSICから昨年にリリースした私のプロデュース作品、まこみなみん「Ice Ice Baby」は、マルコム的なハイとエレガンスの融合を追求できたかなと。一緒に制作をしているトラック・メイカーのICHI TAKIGUCHI君はAPPLE Logic Proを使用しております。私的にはコラージュ的な感覚と脳内で同期しやすいソフトだなと

 

石毛輝(the telephones/Yap!!!)

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<BIO>2005年にthe telephonesを結成(vo、g、syn)。2020年は5年ぶりのオリジナル・アルバム『NEW!』をリリース。ソロやYap!!!などでも活動

 

最初の一音から魂を持っていかれた

Superfuzz Bigmuff (Deluxe Edition)

Superfuzz Bigmuff (Deluxe Edition)

  • Mudhoney
  • オルタナティブ
  • ¥2139

RELEASE:1988年(Sub Pop)

 ニルヴァーナにどっぷりだったティーンエイジャーのころ、地元のディスクユニオンで探してたどり着いたマッドハニー。“次はコレを聴け”みたいのが書いてあった気がする。たまたま試聴機に入っていたんだけどM①「Touch Me I'm Sick」の最初の一音から魂を持っていかれた。すぐに当時の自分の機材ではこの音が出ないと察した。同時にアルバム・タイトルにかなりのヒントがあるとピンと来た。Super Fuzzは高かったので現行Big Muffを買いに行ったのは良い思い出です。

名盤に近付けたツール
ELECTRO-HARMONIX Big Muff

 

志村明

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<BIO>PAカンパニー、スターテック代表を務めるサウンド・デザイナー。サザンオールスターズ、Mr. Children、TM Network、EXILEなどの大会場公演に携わる

 

生音を生かした上での表現の格好良さを知る

So (Special Edition)

So (Special Edition)

  • ピーター・ガブリエル
  • ロック
  • ¥2139

RELEASE:1986年(EMIミュージック・ジャパン/Real World)

 私はビートルズで音楽が好きになり、1970年ころからのプログレッシブ・ロックが好きでした。その後もいろいろな音楽を聴いていましたが、この時代の音楽はすべてが新しく感じられ、サウンドもさまざまな新しいテクニックが生まれた時代だと思います。音響の仕事を始めた後も多くのサウンドに影響を受けてきました。その中でも1986年に出たこのアルバムはボーカルやドラム、パーカッションをはじめとする“生音”がリアルで粒立ちがあり、サウンドの中にものすごく世界観が表現されていて、楽曲のみならずそのサウンドの格好良さが際だったアルバムだと思います。生音を生かして、そこからサウンドを表現する格好良さを教えられたアルバムです。

 

福田聡

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<BIO>フリーランスのレコーディング・エンジニア。ファンクやR&Bといったグルーブを重視したサウンドを得意とし、ENDRECHERIやK、Shunské G & The Peas などを手掛ける

 

重心の低いサウンドと最高のグルーブ

In the Jungle Groove

In the Jungle Groove

  • ジェームス・ブラウン
  • ソウル
  • ¥1069

RELEASE:1986年(ユニバーサル)

 ジェームス・ブラウンのファンクが最も脂の乗っていた1970年前後の録音から、ヒップホップにも大きな影響を与えた曲ばかりを集めた編集盤。もう全編グルーブの洪水! 学生時代に狂ったように聴き、DJ活動のときにも必ずかけていた一枚です。ファンクが好きなだけで、何の知識もなくスタジオの世界に入った僕にとっては心の指針にもなっていた一枚でもあります。M⑥「トーキン・ラウド&セイイン・ナッシング」のひずんだドラムやM⑤「ファンキー・ドラマー」のキックの音は、僕のドラム・サウンドの原点になっています。あと、ベースの聴かせ方もかな。古い作品なので音響的にはスッカスカですが、音楽的な重心は低く、今聴いても最高のグルーブ。時代や機材が違うだけでUSブラック・ミュージックのリズム・メイクの本質は今も昔も変わっていないのだと思わずにはいられません。

名盤に近付けたツール
NEUMANN M49B(空気感)とTELETRONIX LA-2A (ひずみ)で作るドラム・アンビに行き着きました。もしくは、JBと長年活動していたマーサ・ハイに“アルバムの音、良かったよ”と言ってもらえたことも

 

Dub Master X

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<BIO>MUTE BEATにダブ・エンジニアとして参加して以降、日本における斯界の草分けとして活躍。プロデューサー/リミキサー/DJ、レコーディング/PAなどマルチな活動を続ける

 

リミックスの夜明けといえるサウンド・デザイン

Slave to the Rhythm

Slave to the Rhythm

  • アーティスト:Jones, Grace
  • 発売日: 1990/06/15
  • メディア: CD
 

RELEASE:1985年(ZTT)

 アート・オブ・ノイズやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドに代表されるZTTレーベル。スティーヴ・リプソンとトレヴァー・ホーンのタッグから生み出されたサウンドには、手法だけではなくランドスケープにも似たサウンド・デザインのすごさに当時衝撃を受けたのは間違いない。FAIRLIGHT CMIやNEW ENGLAND DIGITAL Synclavierを使用してエディットし、さまざまなバージョンを生み出すスタイルは、リミックスの夜明けと言っても過言では無い。また、どのアーティストのどの楽曲もミキシングが素晴らしく、特にリバーブ感などは非常に影響を受けている。

名盤に近付けたツール
自身の手掛けた作品が名盤と呼ばれるものに近付いたかはいまだ分からないが、LEXICON 224、480Lは偉大

 

ゴンドウトモヒコ

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<BIO>音楽家。ユーフォニアムと電子音楽を学ぶ。anonymassでアルバムを4作リリース。2000年以降YMOのサポートとして参加。蓮沼フィル、METAFIVEのメンバー。2014年にレーベル愚音堂を設立

 

プロデューサー兼ミュージシャンの存在に開眼

RELEASE:1984年(ZTT/U/M/A/A)

 カセットのピンポン録音で音が記憶されることの楽しさに目覚めた小学生だったので、ビートルズもしかりですが、楽曲の良さ、アレンジの面白さ、サウンドの素晴らしさなどどれも劣っていてはいけないのだと今でも思っています。アート・オブ・ノイズに関しては、サンプリングという概念が10代の自分に衝撃的だったので挙げました。知らずに聴いていたバグルズなど、その後トレヴァー・ホーンの楽曲、アレンジの素晴らしさにも触れ、プロデューサーでありミュージシャンでもある存在に開眼していったのかもしれません。

名盤に近付けたツール
ずっとMOTU Digital Performerを使用してます。今の時代、手足のように使える道具でさえあれば何歩でも近付けるような気がしています

 

砂原良徳

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<BIO>1991年に電気グルーヴに加入、1999年に脱退。現在まで、5枚のソロ・アルバムをリリース。2015年にはMETAFIVEを結成。昨年に最新シングル「環境と心理」を配信リリース

 

直感とセンスと意志さえあれば“音楽は作れる”

Mr.TECHIE & MISS KIPPLE

Mr.TECHIE & MISS KIPPLE

  • 立花 ハジメ
  • ロック
  • ¥2139

RELEASE:1984年(ソニー・ミュージックダイレクト)

 当時は中学3年生でした。お金はあまりありませんでしたが、この手の盤は発売日に買っていました。それまでは理論を理解しなければ音楽は作れないと思っていました。1984年はそのルールがどんどん変わっていった年であったと思います。自分も直感とセンスと意志さえあれば“音楽は作れる”という考え方に変わっていきました。

名盤に近付けたツール
CASIO CZ-5000、RZ-1、ROLAND Juno-106、YAMAHA CMX1

 

松本靖雄

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<BIO>ソニーミュージックスタジオでエンジニアとしてのキャリアをスタート。その後、電気グルーブをはじめ、国内ダンス・ミュージック・エンジニアの第一人者に。現在は全48グループをはじめ、乃木坂46、櫻坂46、日向坂46の全楽曲のミックス/マスタリングを担当している

 

アルバムを通して聴く良さが分かる傑作

Diamond Life

Diamond Life

  • Sade
  • R&B/ソウル
  • ¥1833

RELEASE:1984年(ソニー)

 14歳の私が本作を少しでも良い音で聴きたく、全財産をはたいてオーディオ・アンプ、スピーカー、レコード・プレーヤーを購入したことがレコーディング・エンジニアを目指す始まりだっただろう。楽器と歌の距離、奥行き、レンジ、臨場感、分離感、音の粒、ざら付き……そのすべてが完ぺきで、とにかく心地良い。そしてハズレ曲は一曲も無い。曲順、曲間も素晴らしく、アルバムを通して聴く良さを存分に教えてくれる作品でもある。また圧巻なのは、その後発表された3作品続けて、全曲この状況が続いたこと。今では全く重要視されていない曲順、曲間をあらためて考え直させるには十分な作品たちだ。

名盤に近付けたツール
ビンテージのNEVE 1073。後にも先にも、これ以上の機材にはまだ出会っていない

 

Kuniyuki Takahashi

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<BIO>札幌を拠点とし、世界を舞台に活躍する音楽プロデューサー。国内外のレーベルよりオーガニックなハウスからアンビエントまで、多彩な作品をリリースしている

 

サンプルを元にした実験精神に影響された 

Into Battle With The Art Of Noise

Into Battle With The Art Of Noise

  • アーティスト:Art Of Noise
  • 発売日: 2011/04/04
  • メディア: CD
 

RELEASE:1983年(ZTT)

 このアルバムのサンプラー、そしてエフェクターを駆使したところに影響されました。モノラルのエフェクターにディレイをかけて擬似ステレオにしたり、いろいろな音をBOSSのデジタル・ディレイDE-200に取り込んで実験の連続でした。

名盤に近付けたツール
BOSS DE-200。Hold機能を使い、トリガーでサンプリングした音を鳴らしていました

 

小松久明

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<BIO>LUNA SEA、大黒摩季などのステージを手掛けるPAエンジニア/サウンド・デザイナー。リスナーに良い音を体験してもらうイベント“OTOwake”@新宿SUNFACEのナビゲートも

 

ドラムの音は今でも華やかでありたい

Faster Than the Speed of Night

Faster Than the Speed of Night

  • ボニー・タイラー
  • アダルトコンテンポラリー
  • ¥1833

RELEASE:1983年(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)

 僕が20歳で音響業界に入ったタイミングの作品。23歳で初めてFOHを担当したバンドのスピーカー・チューニングで使用していました。M①「雨を見たかい」の ドラムの音が華やかで、特にスネアのリバーブが気に入っていました。こんな感じの音は、EQだけでは作れなかったので、APHEX Aural Exciter Type Bをチャンネル・インサートしたりしました。あと、ドラム・リバーブについても勉強しましたね!! アーティストにもよりますが、今でも僕のライブで作るドラムの音は華やかでありたいと思っています。

名盤に近付けたツール
ライブにおけるドラム・サウンドのエフェクトにはこだわっています。かつてはSONY DPS-R7やDPS-V77、現在はUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Live RackでのAMS RMX16

 

内田直之

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<BIO>レコーディング/PAエンジニア。近作は、GEZAN『狂』、坂口恭平『永遠に頭上に』、T字路s『BRAND NEW CARAVAN』、児玉奈央『REVELATION』など

 

ズタボロのダブ×ギリギリの秩序のカタルシス

Learning To Cope With Cowardice

Learning To Cope With Cowardice

  • Mark Stewart and The Maffia
  • オルタナティブ
  • ¥1528

RELEASE:1983年(MUTE/Traffic)

 後追いですが、初めて聴いたのは21歳くらいのときだったように思う。時間、空間、ジャンル、時代、すべての壁を超えている。だからいつ聴いてもショッキング。サウンド的には一枚通して常軌を逸し続けてる、ズタボロのダブ。音はワルいよ。アレンジもバランスも完ぺきにめちゃくちゃ、でもギリギリの秩序。聴くカタルシス。録音媒体がアナログ・テープしかないスタジオで、こんなメッタ斬りエディットの音楽を延々と作っているって、一体どんなテンションなのだろう。波形なんか見ないで直感的に耳とフィジカルだけで作るから、いつまでも面白く聴こえるんだろうな。その破壊的なクリエイションにただただ圧倒されたとでも言うのでしょうか。

名盤に近付けたツール
歌は世につれ、世は歌につれ。機材やソフトが移り変わっても、まずは音楽を信じて、アイディアと工夫とバイタリティで、これからもひたすら面白いレコードを作っていきたいと思っています!

 

冨田ラボ

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<BIO>音楽家/プロデューサー、冨田恵一のソロ・プロジェクト。これまでに6枚のアルバムを発表。プロデュースしたRyohu「The Moment」がAPPLE App Store CM曲に

 

エッジと太さのマッセンバーグ・ミックス 

アウトサイド・インサイド (生産限定盤)

アウトサイド・インサイド (生産限定盤)

  • アーティスト:チューブス
  • 発売日: 2020/12/09
  • メディア: CD
 

RELEASE:1982年(ユニバーサル)

 レコードの時代(1983年)に聴き、B面M①「ワイルド・ウイメン・オブ・ウォンゴ」、M②「ティップ・オブ・マイ・タン」に衝撃を受けた。”良い音”という感想が”良いアレンジ”に先んじたのは初めてだった。デヴィッド・フォスターのアレンジはアルバム通して素晴らしかったが、この2曲を含む数曲のみジョージ・マッセンバーグ氏がミックス。他曲担当のウンベルト・ガティーカ氏同様、ハイファイで丁寧なミックスではあるが、よりリズムを押し出し、エッジと太さを両立させた処理を格別に感じた。それまでは作品を音楽的な観点でのみとらえていたが、この経験をきっかけに、ミックスの重要性を認識するようになった。

名盤に近付けたツール
AKAI PROFESSSIONAL S1000。16ビット、ステレオ・サンプリング、メモリー増設、記録メディアのSCSI接続など、これがあったから生ドラム・シミュレート音源製作を思いついた。当時はこのスペックだけで興奮した

 

Yoshi Horino

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<BIO>DJ。2010年よりディープ・ハウスを中心に、デジタル/アナログ/CDをリリースするレーベルUNKNOWN seasonを主宰。2020年に10周年を迎え、6種のコンピレーションをリリース

 

音の情報量の豊かさに感動した12インチ

マスター・ブラスター

マスター・ブラスター

  • 発売日: 2014/02/20
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

RELEASE:1980年(MOTOWN/ユニバーサル)

 十数年前、その当時一緒に“Tokyo Balearic”というパーティを制作しDJをしていたDJ Marbo所有の個人スタジオで、深夜ダンス・ミュージックを中心に新旧12インチの聴き比べをするというシンプルなことを毎晩のように行っていました。僕が持参したこのレコードに針を落とした瞬間に、今まで持っていた価値観を吹っ飛ばされました。ほかの録音物より音の情報量が豊かで、音質はもちろん、レンジが広くて良く、エモくてリッチな印象でした。とにかく圧倒され、とても感動したのを今でもよく覚えています。素晴らしいと感じる音源は、最初に行う演奏のレコーディング、ミックス・ダウン、マスタリング、カッティングまで、どれか一つ取っても一流の仕事を感じます。

名盤に近付けたツール
ミックス・ダウン、マスタリング後の音源を聴き慣れている3種のヘッドフォン、SONY MZR-Z1000、MDR-7506、AIAIAI TMA-2 DJで聴いてチェックします

 

山寺紀康

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<BIO>新谷祥子、井上苑子、武藤彩未、磯貝サイモン、楠瀬誠志郎などのアーティストのPAや配信に携わる。尚美学園大学芸術情報学部情報表現学科准教授として音響の指導を担当

 

新鮮な野菜をそのまま置いたような音作り

Hold Out

Hold Out

  • JACKSON BROWNE
  • ポップ
  • ¥1426

RELEASE:1980年(ワーナーミュージック・ジャパン)

 自身が放送局のスタッフからコンサートのライブPAへ移る時期、当時回っていたツアーでも皆が好きで目指していたサウンドだった。ジャクソン・ブラウン自身のストーリーにも引かれたし、過去の名盤があってのこの作品というところにも感銘を受けた。当時来日した武道館ライブは、今でも私自身の中ではベスト・ライブと言える素晴らしいものだった。新鮮な野菜をそのまま置いたようなプロデューサー/エンジニア=グレッグ・ラダニーによるサウンドが、その後の自身の音作りの基本となっているのは言うまでもない。すべての音が聴こえて、調和していて、恐らくミュージシャンのやりたいことがきちんと反映されているように感じる。そこに内省的な詩の世界感が訴えかけてくる。

名盤に近付けたツール
NEVE製品のMARINAIRトランスの持つサウンドの温かみや、LEXICON 224のカリフォルニアの風を感じるようなさわやかで深みがあってほかと調和できるリバーブ、自然なリミッティングが可能なUREI 1176などをPAで活用していた

 


特集「私の礎となった名盤」

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