ヘビー・メタルを語りつくす! 〜Hiro、RYUの礎となったメタルの名盤を紹介

f:id:rittor_snrec:20210202131405j:plain

日本のメタル・サウンドをけん引するプロデューサー/エンジニアのHiroと、メタル・バンドBLOOD STAIN CHILDのメイン・コンポーザー/ギタリストであり、エンジニアリングにも明るいRYUの対談が、2020年末にHiroの拠点であるSTUDIO PRISONERにて実現。ギタリストでありながらも、メタル・プロダクションにおける制作方法のノウハウを熟知する2人に、レコーディング・エンジニア目線でメタルの名盤を熱く語ってもらった。

Inverview:Yuki Nashimoto Photo:Hiroki Obara

 

Hiro
【BIO】METAL SAFARIのギタリストとして国内外で活動し、2010年からSTUDIO PRISONERを立ち上げ、プロデューサー/エンジニアに。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど数多くのメタル・バンドを手掛けている

RYU
【BIO】メタル・バンドBLOOD STAIN CHILDのメイン・コンポーザー/ギタリスト。自身のかかわる作品は、自らレコーディングとミックスを行う。2019年には声優、小岩井ことりとメタル・ユニットDUAL ALTER WORLDを結成。専門学校の講師も務めている

 

『ヴェノム・アンド・ティアーズ』ほど
生々しく収まったギターを聴いたことがない

お二人の礎となった名盤を教えてください。

Hiro 今回の特集でみなさん1枚を選んでいますけど、1枚に絞るのって本当に難しいですね。強いて挙げるならキマイラ『ジ・インポッシビリティ・オヴ・リーズン』(2003年)。モダン・メタル・プロダクションの完成形だと思っています。ROLANDのMTRで録音していたときから参考にしている、僕にとってのバイブルです。

 

The Impossibility of Reason

The Impossibility of Reason

  • キマイラ
  • メタル
  • ¥1630

 

RYU エンジニア的な思考が芽生えたのは、ストラトヴァリウス『エピソード』(1996年)です。それまでのメタルは高域が落ちたようなサウンドが多かったのですが、『エピソード』は周波数帯域がすごく広くて衝撃的でした。聴いているうちに“これはどうやって作っているんだろうか”という疑問が沸いてきて、レコーディングやミックスに興味を持ち始めたんです。ギター・サウンドで衝撃を受けたのはネミック『ジ・オーディオ・インジェクテッド・ソウル』(2004年)。突き抜けてくるような音圧に圧倒されました。ディストーション・ギターって普通コンプはそんなにかけないのですが、今聴き返すとギターにコンプが強めにかかっているように聴こえますね。

 

The Audio Injected Soul

The Audio Injected Soul

  • Mnemic
  • メタル
  • ¥1681

 

Hiro 意外な切り口だ。『ジ・オーディオ・インジェクテッド・ソウル』は音像に未来っぽさを感じましたね。当時、相当ぶっ飛んだサウンドでしたから。歌詞カードに載っているクレジットを見てみると“Endorsed by LINE 6”と書いてあって、この辺がサウンドの鍵なのかなと思っていました。

 

Hiroさんがギターのレコーディング/ミックスで影響を受けたのはどの作品ですか?

Hiro スローダウン『ヴェノム・アンド・ティアーズ』(2007年)。“パンテラ以降”における、ギター・サウンドの最高峰だと思っています。ブリッジ・ミュートがさく裂しているんですよ。ジューシーでかつ開放感がある。これほどキャビネットが揺れているさまがキャプチャーされている作品を聴いたことはありません。

 

Venom & Tears

Venom & Tears

  • Throwdown
  • ロック
  • ¥1528

 

確かにとどろくようなギターの低域ですね。

Hiro クレジットにはアヴェンジド・セヴンフォールドなどを手掛けたアンドリュー・マッドロック氏と、AI FUJISAKIさんという日本人の名前が書いてありました。そこでFUJISAKIさんのMyspaceに“『ヴェノム・アンド・ティアーズ』のギターはどうやって録ったんですか?”とダイレクト・メールで質問したんです。そうしたら使った機材をはじめ、マイキングの仕方まで全部教えてもらえたことがあったんですよ。そのとき教えてもらったマイクのSENNHEISER E609とHEIL SOUND PR30は、速攻で買いましたね。そのエピソードもあり、思い出深い一枚となっています。

 

キックの音作りで影響を受けた作品はありますか?

Hiro チルドレン・オブ・ボドム『ヘイトブリーダー』(1999年)です。キックが従来よりクッキリしていて、当時粒立ちが完ぺきでしたね。抜群の完成度を誇っていた。

RYU 『ヘイトブリーダー』は最高ですよね。アレキシ・ライホからは多大な影響を受けていて、BLOOD STAIN CHILDを始めるきっかけにもなった人物です。

 

f:id:rittor_snrec:20210202140633j:plain

 

ヒットの裏に名エンジニアあり
エンジニアを信じてCDを買う人も居る 

メタルと言えば、エンジニアによる音の違いを楽しむのも一興だと感じます。

RYU その通り。メタルは“ヒットの裏に名エンジニアあり”という風潮が強くて、エンジニアが注目されるジャンルなんです。2000年辺りからエンジニアについての話題が多くなった気がします。同時期にAVID Pro Toolsが浸透してできることが増えたことで、エンジニアの個性が出てきたんじゃないでしょうか? このころから音もクリアになって、ドラムにグリッド感が出てきたように思います。

Hiro CDの帯に誰がプロデュースしたか書かれることがよくあります。背面にある曲名の下にもクレジットされていたりしますね。リスナーはそれを見て“あのエンジニアが手掛けているのなら間違い無いな”と思って買うんですよ。僕は世代的にフレドリック・ノルドストローム氏が好きです。彼が作った音がスウェーデンのイェテボリ・サウンドを確立しましたから。

RYU 僕もフレドリック・ノルドストローム氏が手掛けるサウンドは大好きです。ヨーロッパはコリン・リチャードソン氏やアンディ・スニープ氏など、著名なエンジニアが多く居ます。

Hiro アンディ・スニープ氏は、アーチ・エネミー『ウェイジズ・オブ・シン』(2001年)で名声を得ましたよね。アメリカならズース氏。タフガイなハードコアを得意としていて、シーンがズース・サウンド一色になった時代もありました。

 

f:id:rittor_snrec:20210202140826j:plain

 

“俺も家でメタルが作れるんじゃないか”
と多くの人に思わせたペリフェリーの1st

2010年以降で注目すべき作品はありますか?

Hiro ベッドルーム・プロデューサーが勃興するきっかけとなった、ペリフェリーの1stアルバム『ペリフェリー』(2010年)。ギタリストのミーシャ・マンソーが、ドラムとベースはソフト音源、ギターはアンプ・シミュレーターで次世代のメタルを作ってしまいましたから。“俺も家で作れるんじゃないか”って夢を与えたということにおいて、かなり貢献したと思います。実際はそんなに甘いものではないんですけどね。

 

Periphery

Periphery

  • Periphery
  • メタル
  • ¥1630

 

技術あってのものなんだと痛感しました。

Hiro メタルをデジタルであそこまで再現するのは、すごい技能なんです。ソフトや機材があればできる、という問題ではない。アーティストの演奏や感性がエクストリームだから、格好良いサウンドになるのは、DAWやプラグインが進化した今の時代も変わりません。

RYU 今は“ドラムは打ち込みで良いんだ”というアーティストが増えましたよね。悲しく思います。

Hiro 2019年に出たKORN『ザ・ナッシング』も良かった。ドラムの音像がワイドで、キックはほかのメタルと比べものにならないくらい大きいんです。もちろんサンプルがレイヤーされているのですが、絶妙な生感が素晴らしい。

 

The Nothing

The Nothing

  • コーン
  • ハードロック
  • ¥1630

 

えい智の結集と言うべくサウンドに
僕らはずっと魅了されてきた

Hiro デス・メタルを多く紹介しましたが、原来のデス・メタルは呪われた劣悪なサウンドだったので、オーディオ的に楽しめる音楽じゃなかった。メタルをあまり知らない人は、その印象を持っている人も居ると思うんです。それがプロデューサー/エンジニアの技術で、オーディオ的に楽しめるものに変わった。僕はカーカス『ハートワーク』(1993年)を聴いて驚いた世代ですね。コリン・リチャードソン氏は偉大です。

 

Heartwork (Full Dynamic Range Edition)

Heartwork (Full Dynamic Range Edition)

  • Carcass
  • メタル
  • ¥1528

 

確かに伝統的なデス・メタルはブルータルな雰囲気が強い反面、くぐもったサウンドの印象があります。

Hiro 僕が言いたいのは、今のメタルは本当に音が良くて、それを楽しんでいる人が多いということ。メタルってF1マシンに通じるものを感じるんです。パーツの進化に伴って性能が良くなっていくさまが、デジタルの恩恵を受けてヘビーになっていくメタルに似ているなと。えい智の結集とも言うべくメタルという音楽に、僕らはずっと魅了されてきたんです。

 

メタルを制作する若者に一言ください。

Hiro メタルは歴史の長い音楽なので、名盤はサウンド・プロダクションの教科書です。歴史も分からなかったら、何に向けてつまみを回しているんだってことになるじゃないですか。全部聴けと言いたいです。

RYU 泣いても良いテイクが録れるまでやれ!

 

特集「私の礎となった名盤」

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

 

 

関連記事 

www.snrec.jp