「KILOHEARTS Phase Plant」モジュラー方式のソフト・シンセサイザー

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フックアップが運営するオンライン・ストアbeatcloudから、注目のソフトをピックアップ。今回レビューするKILOHEARTS Phase Plantはオシレーターやフィルター、LFOといったモジュール群を組み合わせてシンセを構築できる、Mac/Windows対応のプラグイン(AAX/AU/VST)です。あえて分類するならモジュラー・シンセということになりますから難しそうという印象を受けるかもしれませんが、実際に触ってみればそのイメージは払拭されることでしょう。敷居は低く、奥行きは無限大のソフト・シンセです。今回は最上位グレードのPhase Plant + KHS Toolbox Professionalを使います。

オシレーターは4種類
ドラッグ&ドロップで感覚的に結線できる

 Phase Plantを起動すると空のラックが出現しました(画面①)。左側にGenerator、右側にSnapin(エフェクト)、下部にModulationでエリア分けされていて、モジュールをインストールしながらシンセサイザーを構築していきます。

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画面① 起動直後の状態。左側がGenerator(GENERATORS)、下部がModulation(MODULATORS)、右側がSnapin(EFFECTS)でエリア分けされている。それ以外にマクロとキーボードも搭載。ピアノロール下部にテキスト・ボックスがあり、各つまみの機能や役割を表示してくれる

 まずは音を出すために、Generatorでオシレーターを選択しましょう。オシレーターはAnalog、Noise、Sample、Wavetableの4種類。この段階ですぐに音を出すことが可能です。例えばAnalogを選択するとエンベロープ・ジェネレーター(以下EG)付きのVCA(以下出力モジュール)も一緒に付いてきます。

 

 次に何をするかはユーザー次第ですが、ここではフィルターを選択します。この時点ではまだモジュラーで言う“結線”した状態ではないので、カットオフやレゾナンスのノブを回しても変化は起きません。結線するには、フィルターのパネルをマウスでドラッグして、接続したい場所(今回の場合はオシレーターと出力モジュールの間)にドロップすると内部的に接続されます。実に感覚的ですね。

 

 続いてこのカットオフをEGでコントロールしてみます。Modulationをクリックするとアサインできるモジュールが表示されるので、その中からEGを選択。モジュールの右下にあるオレンジの+マークをクリックすると、変調可能なパラメーターがすべてハイライトされます。ここでカットオフの+マークをクリックするとノブ・マークに変わるので、そのままアマウントを設定可能です(画面②)。シンプルですが、以上でシンセが完成しました。ちなみに画面左上のフォルダー・アイコンからアクセスできるブラウザーから、500種類以上ものプリセットを活用することも可能です(画面③)。

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画面② フィルターにあるカットオフの+マークを押したところ。LFOのマウント量を調節可能なノブ・マークに変化している

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画面③ 画面左上のフォルダー・アイコンからアクセスできるブラウザー。カテゴライズされたフォルダをクリックすると、右側に音色パッチが表示される。それらをクリックするとすぐに音を出すことができるので、音色のオーディションが可能だ。ダブル・クリックすると完全にロードされた画面になる。初心者はまずはここからパッチをロードし、分解/解析や改造をして自分の名前で保存するというのが、上達への早道となるだろう

 次はディレイもかけてみましょう。方法は簡単で、Snapinでディレイを選択するだけ。後はフィードバックやタイムなどを調整しましょう。SnapinはKILOHEARTSのプラグイン・エフェクトを使える領域で、スロットが3つ用意されています。Phase Plantはグレードが3種類ありますが、このエフェクトの収録数が異なります。基本セットのPhase Plantは6種類、Phase Plant Starterは11種類、Phase Plant Professionalは28種類(画面④)。価格差を考えるとProfessionalが断然お薦めです(画面⑤)。

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画面④ KILOHEARTSのプラグイン・エフェクトは、現在35種類をラインナップしている

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画面⑤ 最上位グレードPhase Plant Professionalに収録されているTrance Gate。任意の長さでシーケンス・ループを組んでくれるプラグインで、ADSRで音価をコントロールしたりと面白い効果を出すことができる。beatcloudで単品(4,091円)の購入も可能

サンプリング波形も音源として使用可能
ウェーブテーブルは約200種類

 ここからはさらに細かく見ていきます。まずはGeneratorのオシレーターから。Analogはノコギリ波/矩形波/三角波/サイン波をそろえ、シンクやPWM(パルス幅の変更)にも対応(画面⑥)。周波数や位相などはつまみではなく数字で表示されていますが、しっかり変調先に指定可能なのがミソです。変調はオレンジの+マークでしたが、モジュールの右下にはグリーンの+マークがあります。こちらではオーディオ信号の接続が可能です。例えばもう一つAnalogをインストールしてFMをかけたり、さらにそのモジュールのピッチをLFOで制御するといったことが簡単に行えますね。

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画面⑥ Analogのパネル。例えばLFOでSyncをコントロールすると、計算された波形がリアルタイムで表示される

 Noiseはホワイト/ピンク/ブラウンの3種類を断続的に変化させたり、ノイズ自体のタイプを選択可能。開発者のマニア度をうかがい知れる仕様となっています。

 

 Sampleはサンプリング波形を音源として使えます。シンセの音作りはデジタル波形を使えるか否かで可能性が倍以上に広がりますから、重要な要素です。あらかじめ結構な数のサンプルが同梱されており、もちろんユーザー・サンプル波形も読み込み可能となっています(画面⑦)。

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画面⑦ オシレーターのSample。スタートやエンド、ループ・ポイントを任意に設定可能。DAW内の波形をドラッグ&ドロップしてロードすることもできる。ステレオにも対応

 Wavetableには200種類ほどのウェーブテーブルを用意。テーブルは256分割され、それぞれ2,048サンプルの長さを持つので、524,288サンプル以内ならユーザーが用意したWAVやFLACファイルの読み込みも可能です(画面⑧)。さらに波形エディターも搭載。これが優秀で、波形のドローイングや倍音単位での増減、さらにはノーマライズにDCオフセットの除去など、機能が盛りだくさん(画面⑨)。ウェーブテーブル好きには二重丸でお薦めです。

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画面⑧ デフォルトで相当な数のウェーブテーブルが用意されている。これだけあればまず困ることはないだろう

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画面⑨ ウェーブテーブルのエディターは恐ろしいほどに強力。波形の書き換えはもちろん、256のフレーム間のクロスフェードを変更したり、倍音にフィルターをかけたり、ノーマライズやDCオフセット……と、さまざまな機能を搭載している

 LFOやEGなどの変調ソースをアサインできるModulationエリアではLFOをワンショットで使ったり、波形を描くこともできるので、変わった形のEGとしても使えます(画面⑩)。モジュレーション・ソースはほかにもMIDIノートやベロシティ、プレッシャーといった項目をはじめ、MultiplyやMin、Maxと言った数字系(すごく重宝します!)なども完備。一つのソース、例えばLFO 1から複数のつまみをコントロールなんてことも当然可能ですし、“これは必要無いな”と思ったらアマウント・ノブをダブル・クリックすれば消せます。この辺りの簡便さも気に入りました。

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画面⑩ モジュレーション・スケーリング。LFOでピッチを揺らしているが、同時にエンベロープでアマウントをコントロールしている。揺らぎが段々と深くなり、ピークを超えると浅くなるというセッテイングだ

 Phase Plantはモジュラー型のシンセサイザーに属しますが、信号の流れが色分けとテキストで明示されたり、一時的にパネルをスルーさせたり、折りたたみができたりと、ソフト・シンセならではのアドバンテージが多く見られる点に好感を持てました。既にシンセで音作りをされている人はもちろん、これから始めたい初心者にも強力にプッシュできるソフトウェアです。

 

KILOHEARTS Phase Plant

価格:Phase Plant(17,673円)、Phase Plant + KHS Toolbox Starter(21,600円)、Phase Plant + KHS Toolbox Professional(36,364円)

Requirements
■Mac:OS X 10.7以降
■Windows:Windows 7以降
■共通:2GHz以上のCPU、1GB以上のRAM

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H2

音楽家/テクニカル・ライター。劇伴、CM、サントラ、ゲーム音楽などの制作に携わる。宅録、シンセ、コンピューターに草創期から接してきており、溜まった知識を武器に執筆活動も行っている。

 

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