ブルーノート東京のPA/配信で活躍するソニー製マイク「C-100」の実力

ブルーノート東京のPA/配信で活躍するソニー製マイク「C-100」の実力

1988年のオープン以来、国内屈指のジャズ・クラブとして誉れ高いブルーノート東京。ソニー製のコンデンサー・マイクをライブPAや配信に活用しているそうで、現場での有用性を明らかにすべく取材へ向かった。ハウス・エンジニアの福原淳人氏(写真)にインタビューを行い、指向性可変のモデルC-100を中心に語ってもらったので、コメントを交えながらレポートしていこう。

Photo:Hiroki Obara、Yuka Yamaji(ライブ/except*) Movie:Kazuki Kumagai

【動画】福原淳人氏が語るソニー製マイク「C-100」の実力

Featured Microphone:C-100

Sony C-100

 ソニー製の指向性可変コンデンサー・マイク、C-100(オープン・プライス:市場予想価格172,568円前後/税込)。本体スイッチで無/単一/双指向性を選択できるほか、-10dBのPADやローカットをオンにできる。高域用/低域用の2つのカプセルを備え、20Hz~50kHzという周波数特性を実現。ハイレートでのデジタル録音/処理に向く。

Sony C-100 無/単一/双指向性を選択できる
Sony C-100 -10dBのPADやローカットをオンにできる

かぶりを計算に入れたミックスも容易に

 一般的に、ライブPAではステージ上のプレイヤーたちをセパレートしないため、各マイクへの“かぶり”が付き物である。とりわけコンデンサー・マイクにはかぶりやすく、それをどう処理するか、またはいかに利用するかがミキシングの肝になるわけだが、福原氏はどのような方法を採っているのだろう? 「マイクを設置した後に指向性を変えてみることが多いですね」と切り出す。

 「入力音量をしっかりと上げたいときには単一指向に、横からのかぶりを低減するなら双指向にするとか、低音同士をなじませたければ無指向にしてみたり。指向性を変えたときに音のニュアンスが大きく変わってしまうマイクもある中、C-100ならどの指向性でもリアルに収音できるというか、“こういう楽器だな”というソース本来の印象が保たれるんです。スペック・シートを見てみたところ、指向性によって周波数特性がまちまちだったりするんですが、実際の音はそんな感じではなくて、とても自然に切り替えられます。なので“横からかぶる低音を削りたいから双指向にしよう”といった方向転換が難なく行えるし、インプットで最終的なバランスに近付けられると、後からプロセッサーで補正するよりも良い結果を得られることが多いんです」

 指向性に左右されることなく、目的のソースを“聴いたまま”収音できるというC-100。その特性は、かぶりの音にも反映されるようだ。ピアノに立てたC-100へかぶるドラムを例に、福原氏はこう語る。

 「ドラムのサウンドであればオンマイクだけでミキシングせず、ドラムのかぶりが多いピアノやボーカルなどのマイクをブレンドしながら調整します。かぶりがアンビエンスとなり、距離感だけでなく周波数のバランスも作れるわけですね。しかし、例えばピアノに立てたマイクの高域に癖があると、そこにかぶったドラムも高域成分に特徴が出て、バランスを取り直すときにピアノを下げればドラムがこもったりする。そうなると、ドラムのオンマイクのEQに手が伸びるわけですが、C-100だとかぶりの音もナチュラルなので、ピアノの上げ下げで一緒にドラムのカラーが変わってしまうようなことがないんです。音量感が変わった分、EQせずにオンマイクのバランスを取るだけで済む場合もあります」

 かぶりの音に癖が感じられず、フェーダーの上げ下げなどのシンプルなオペレーションでバランス取りが行えるのは、ショウ全体を通してもメリットだそう。

 「たくさんのコンデンサー・マイクの上げ下げが必要な公演だと、各マイクのかぶりの音量も変わり、そのたびにミックス全体のバランスや印象が大きく変化してきます。そこがライブ・ミキシングの難しいところなのですが、C-100を使っていると“かぶりを勘定に入れたミキシング”がスムーズに行えるので助かっていますね。また、ハウリング・マージンをしっかり稼げるのもありがたい。これまで苦労していたことが一気に解決できるような感じで、ライブそのものだけでなく、配信用コンテンツのミキシングなどにも生きています」

BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO

2月15日に開催されたBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO “New Year Greetings”の様子

2月15日に開催されたBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO “New Year Greetings”の様子。グランド・ピアノの収音にC-100のペアが用いられた

2月15日に開催されたBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO “New Year Greetings”の様子

グランド・ピアノの収音にC-100のペアが用いられた

アコースティックなライブでも威力を発揮

 指向性に左右されにくいという特性やかぶりの音はエンジニアの領域だが、客席に向けてはどのようなサウンドを聴かせてくれるのか? 「マイクの音量を上げていくと、大抵は音が楽器本体からスピーカーに移っていくような感じがするんですが、C-100の場合は楽器の出音がそのまま広がる、大きくなる印象です」と福原氏。

 「チーフ・エンジニアの山内(俊治)は“空間をそのまま持ってくることができる”と表現しています。“ある程度スピーカーからPAしていっても飽和して滲(にじ)むことがなく、収音された細部まで、その空間ごと広げていける”と。ジャズ・ピアニストの上原ひろみさんとストリングス・カルテット(上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット)のコンサートで、上原さんとカルテットのお一方がデュオで演奏するというコーナーがあり、山内が無指向のC-100×1本だけで収音していたんです。それがとても良い結果で。フロアの後方で聴いていても、離れたステージで鳴っていることは分かるけど、前方で聴くのと同じような音量感が得られたんです。目の前で聴こえるように拡声された音ではなく、席とステージの距離感はそのままに、見た目通りの音でなおかつ音量感もあるという印象でした」

録音後にも存在感をキープし続ける音

 C-100で収めたサウンドは、レコーディングしたときにも確かな存在感を放つという。

 「例えばサックス。ライブ収録をしたとき、ベルにクリップ・マイク、ボディの横にコンデンサー・マイク、演奏者の手前にオフでC-100を準備していたんですが、C-100だけで十分なレベルと豊かな音色が得られたので、結局それ一本で進めることになりました。C-100の音は、ミキシングの最終段階まできちんと残ってくれるんです。マイクによっては、もう一押し欲しくなってコンプなどをかけることがよくあるんですけど、C-100ならそういう処理をせずとも存在感をキープしやすい。録音後の倍音付加を見越して使うようなマイクではなく、“聴いた感じ”に極めて近い音をとらえるからかもしれません。だから、生音そのものが魅力的なソースに最も力を発揮すると思いますね」

 配信用コンテンツなどのオーディエンス・マイクとしてもユニークな働きを見せるC-100。「位相ズレや飽和などが感じられないんです」と福原氏は続ける。

 「2ミックスにオーディエンス・マイクをブレンドするときの感覚が大きく変わりました。アナライザーで確認してみると、位相ズレなどによる特性の変化は認められるものの、音を聴く限りは嫌な感じがせず幾らブレンドしても平気なんです。ごくナチュラルにアンビエンス感を足せる印象で、ミックスし終えたものを聴くと、あたかもライブの現場に身を置いているような臨場感を覚えます」

 近ごろは、C-100を専ら楽器収音に使用し、オーディエンス・マイクとしてはソニーの無指向性コンデンサー・マイクECM-100Nを2本、吊っている。「乗り込みのエンジニアの方々にも“本当に奇麗な音ですね”と好評です。2ミックスへスムーズに混ざるのは、C-100とECM-100Nに共通する特徴だと思います」と福原氏。

 「ソニー製の単一指向性コンデンサー・マイクECM-100Uも楽器収音に活用していて、リアルな音にC-100との共通性を感じます。かなりオフで立てても音の輪郭がきちんととらえられるので、かぶりとのベストなバランスを探りながら距離を決められるのが、ほかに無い魅力ですね。とにかく気に入っています」

 C-100をはじめとするソニー製のコンデンサー・マイクは、楽器の響きや演奏を生々しくキャプチャーするようだ。その特性が、ミュージシャンの表現を鮮度高く伝えるのに一役買っているのだろう。

ソニー製の単一指向性コンデンサー・マイクECM-100Uと無指向性コンデンサー・マイクECM-100N

ソニー製の単一指向性コンデンサー・マイクECM-100U(オープン・プライス:市場予想価格109,868円前後/税込|写真上)と無指向性コンデンサー・マイクECM-100N(オープン・プライス:市場予想価格123,068円前後/税込|同下)。これらもブルーノート東京で使われている。「ECM-100Uは、オンマイクでピークが出てもわずかなEQでイコールに戻せるので扱いやすい」と福原氏。ECM-100Nはオーディエンス・マイクなどとして活躍している

ECM-100UとECM-100Nの-10dB PAD、
ローカットのスイッチ

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