「WARM AUDIO WA-87 R2B」製品レビュー:品質重視のパーツでビンテージ機を再現したFETコンデンサー・マイク

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 2011年の創業時から、一貫してコスト・パフォーマンスに優れたビンテージ・アウトボードやマイクのクローン機を作り続けるWARM AUDIO。UREI 1176クローン機のWA76や、NEVE 1073クローン機のWA73など、人気機種を通してご存じの方も多いのではないだろうか。今回WARM AUDIOは、NEUMANN U87のクローン機である2016年発売のFETコンデンサー・マイク=WA-87をリニューアル。シルバーのWA-87 R2とブラックのWA-87 R2Bをリリースした。手元にはWA-87 R2Bがあるが、どのような仕上がりになっているのだろうか?

CINEMAG製のカスタム出力トランスを採用
無指向/単一指向/双指向を切り替え可能

 まずは、モデルとなったNEUMANN U87についてご紹介しよう。1967年のローンチ以降、U87はスタジオ定番マイクとして君臨し、“困ったらU87”と言わしめるほどの万能コンデンサー・マイク。全帯域にわたりナチュラルな特性を持ちつつも、音の芯となる中域をしっかりとらえ、それがどんな音源にもマッチするということで重宝された。ちなみに1986年にはその後継であり現行機種のU87AIが登場するが、U87より立ち上がりが速く、明りょう度の高い音色になったため、U87とは“別物”として認識されている。

 

 WA-87 R2とWA-87 R2Bの先代であるWA-87は、U87が持つビンテージ・サウンドの再現を目標に、1960年代の回路を土台に作られたモデル。しかしWA-87の発売以降、WARM AUDIOはマイク製造についてさまざまなノウハウを蓄積したため、価格を上げることなく、より良いパーツを使用したWA-87 R2/WA-87 R2Bを開発したそうだ。

 

 WA-87 R2は、WA-87に内蔵されている1インチ・ラージ・ダイアフラムやCINEMAG製カスタム巻線出力トランスをそのまま流用しつつも若干出力レベルを高め、周波数特性の向上に成功。また、新たにFAIRCHILD製トランジスターなどの高品質なパーツを使用しているという。

 

 今回筆者がチェックするのはWA-87 R2Bで、全長241mmとU87に比べて約40mmほど長い。グリル部分はWA-87と比べてやや厚く、より丸みを付けることでサウンド・キャラクターに影響を与えているそうだ。

 

 マイク正面には同社のロゴと、3つの指向性(無指向/単一指向/双指向)を切り替えるスイッチ、背面にはローカット・フィルター・スイッチ(80Hz)と、PADスイッチ(−10dB)を採用。筐体の剛性感は高く、重さもあるためしっかりとした作りになっている。付属品は、専用木製ケースやスイベル、ショック・マウントだ。

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背面には、80Hzでのローカット・フィルター・スイッチと−10dBのPADスイッチを搭載している

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WA-87 R2Bには、専用木製ケースとマイク・スタンドに直付けするタイプのスイベル、ショック・マウントが付属する

100Hz以下のブーミーさが無く
10kHz辺りからは奇麗にロールオフ

 実際のチェックに移ろう。まずはアコースティック・ギターを録ってみたが、ゲインが若干低く、一般的なコンデンサー・マイクより6dBほど上げる必要があった。しかし、SN比は悪くない。開放弦のあるローコードのストロークを聴いた印象は、“スッキリ”の一言。アコースティック・ギターを収録した場合、200Hz以下の低域のモタつきや、5kHz以上のギラつきが気になることが往々にしてあるのだが、それらをあまり感じないのだ。アルペジオやソロ・フレーズなどを聴いてみると、100Hz以下のブーミーさが無く、10kHz辺りから奇麗にロールオフしている。全体的にナチュラルで、収まりの良い音像を確認できた。

 

 次は女性ボーカル。中域の表現力を中心にチェックしたのだが、存在感はしっかりとありつつも嫌味なピークは感じられない。特に高域の収まりが良いため、子音もそれほど気にならなかった。

 

 高域の嫌味な張り出しが無いというのは、逆に言えばやや地味とも感じられるのだが、EQすることで奇麗に持ち上がってくるため、かえって扱いやすい音とも言える。この若干ナローで素直なサウンドは、ビンテージ・マイクであるU87に通じる部分が多く、これらはすべてWARM AUDIOの“狙い通り”ということなのであろうか。

 

 残念ながら筆者は、先代であるWA-87の試聴経験が無い。そのため、これまでの各レビューを参照したところ、“高域のピーク感”を指摘しているものが多かった。しかし、今回のWA-87 R2Bではそれが感じられなかったため、その辺りが大きな変更点なのかもしれない。

 

 ただし、WA-87 R2Bは先ほどお伝えした100Hz以下の収まり具合に加えて、300Hz辺りの膨らみもやや抑えられているため、中低域の物足りなさを感じることもあるだろう。しかしながら、やはりこれらは最終的にミックスするときに整理する帯域と考えると、むしろこのくらいの方が扱いやすいのでは?とも感じる。よって、アコースティック・ギターやボーカルはもちろん、パーカッションからピアノ、木管/金管楽器まで、あらゆるパートに対応できるところが一番の魅力だろう。

 

 “U87のサウンドがこの価格で手に入る!”と言うよりも、“U87のように、どんな音源にも使える万能なマイクがこの価格で!”と言う方が、WA-87 R2Bを的確に表しているだろう。初めて所有するコンデンサー・マイクとして、WA-87 R2Bはふさわしいマイクであると感じた。

 

林憲一
【Profile】ビクタースタジオでサザンオールスターズなどの音源制作に携わった後、フリーのレコーディング・エンジニアに。近年はmiwaや石崎ひゅーい、DISH//、村松崇継らの作品を手掛けている。

 

WARM AUDIO WA-87 R2B

オープン・プライス

(市場予想価格:59,800円前後)

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SPECIFICATIONS
▪指向性:単一/双/無 ▪PAD:−10dB ▪ローカット・フィルター:80Hz ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪最大SPL:125dB@5%THD(PAD無し)、132dB ▪SN比:−117dB ▪カラー:ブラック ▪外形寸法:241(H)×約62.2(φ)mm ▪付属品:専用木製ケース、ショック・マウント・ホルダー、スイベル

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