PADを入れれば最大音圧133dBに
CINEMAG製のトランスを採用
WA84は、スモール・ダイアフラムを搭載したペンシル型コンデンサー・マイク。そのため使用時には、48Vファンタム電源供給が必要です。指向性はカーディオイドで、トランスには、米国の伝統あるオーディオ・トランス・メーカーCINEMAG製のものを採用。最大音圧は123dB SPLですが、本体正面に搭載された−10dBのPADを用いれば133dB SPLとなるため、ドラムなど大音量の楽器にも対応可能です。SN比は78dB、外形寸法は実測値で20(φ)×130(H)mm、重量は122gとなっています。
さらにWA84には、取っ手のある黒い専用ハード・ケースが付いてきます。頑丈なので持ち運びに便利でしょう。それ以外にはショック・マウントやマイク・クリップ、そしてWA84の先端にかぶせて装着するウィンドスクリーンが、それぞれ2つずつ付属しています。マイク・クリップは、コンパクトなため狭いスペースでのセッティングにも活用できそうです。ただし地面からの振動が気になる場合は、ショック・マウントを使った方がベターでしょう。
アタック感がありつつ滑らかな高域
原音忠実でナチュラルな印象
今回は、WA84をアップライト・ピアノ/アコギ/バイオリンの3種類で試してみました。それぞれのインプレッションを以下にまとめてみたいと思います。
まずアップライト・ピアノでは、細かい鍵盤タッチまでしっかり収音することが可能です。鍵盤が指で押しこまれる音、鍵盤同士がこすれる音、中のハンマーがきしむ音、それらがWA84を通しモニターからリアルに伝わってきます。
また、WA84でキャプチャーした音と録音現場で実際に聴く音はほぼ同じです。1kHz辺りの立ち上がりが素直で、150~250Hz辺りの楽器のボトム感をよく収音するので、落ち着いた印象を受ける人も多いでしょう。
4万円前後のクラスのコンデンサー・マイクは、あらかじめ派手気味にチューニングされていることが多いのですが、WA84はそうではありません。ミックス時においていろいろと処理しやすい素直なサウンドだと思います。またノイズ・フロアが低いため、EQやコンプなどを積極的にかけても、あとからノイズが目立ってくる心配も無いでしょう。
次はアコギでトライ。録り音は“カリッ”としたアタック感がしっかりありつつも、高域は滑らかな印象です。ステレオ・ペアで録っても音質/音量のバランスは良く、いずれもミックスにおいて非常にEQ処理しやすいサウンドだと思います。小気味良いストロークを強調するために1~8kHzをEQでブーストしたのですが、耳に痛く感じることはありませんでした。
最後はバイオリンでテストしてみます。中高域は明りょうながらもキンキンせず、バイオリンらしいサウンドを素直に収音することができました。アップライト・ピアノのときと同様、WA84は150~250Hz辺りをしっかり収音する傾向にあるため、スカスカした印象もなく、楽器の芯をうまくとらえているイメージ。クリアな録り音は、解像度が高い近年の音楽にもミックスしやすいことでしょう。
WA84は、どの楽器においても“クリアで色付けが無い”、または“原音忠実でナチュラル”という傾向が感じられました。積極的なEQ/コンプ処理をしやすい素直な音のため、ポップスやロックなどで活躍するのはもちろん、その自然な録り音は、繊細な響きが求められるアンビエントやポストクラシカルといった音楽ジャンルでも活躍するでしょう。WA84だけで幅広く対応することができるので、非常に魅力的です。
唯一ネガティブな意見を挙げるとすれば、WA84の持つクリアさは逆に“無機質”ともとらえられやすいです。そのため、弾き語りやソロといった少数の楽器編成の曲だと、どうしてもサウンド自体に音質的な物足りなさを感じてしまう人も居るかもしれません。より説得力のあるサウンドを求める人は、味付けのためのプリアンプなどを用意するといいと思います。または、お気に入りのプラグインで処理してもいいでしょう。
この価格で、これほどバランス良い音質のステレオ・ペア・マイクが手に入ることにもびっくり。コスト・パフォーマンスに優れていることもWA84のポイントでしょう。従って、多く予算はかけられないけれども、プロ・クオリティの音質を求める人にもWA84はお薦めできるマイクだと言えます。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)