皆様こんにちは。“世界中の毎日を踊らせる”をテーマに活動するLucky Kilimanjaroでボーカルとコンポーザーをやっています、熊木幸丸(くまきゆきまる)です。ほかのDAWからの移行を検討していた当初、ABLETON Liveの平面的なデザインにためらっていたのですが、実際に移行してみるとこのフラットさが癖になり、むしろこれじゃないとダメになってきました。今回もよろしくお願いします。
楽器を追加する感覚で保存済みトラックを呼び出す
制作をしていると、いかに少ない手数でいろいろな音を試せるか、が重要だと感じます。いろいろなアイディアを試しながらクリエイティブな作業をしていく過程で不要な工程はできるだけ無くしたいですよね。Liveはワークフロー構築にとても優れているので、私が制作で実践していることを紹介します。
Liveのブラウザ機能は整理がしやすくて助かっています。特にコレクション機能はよく使うプラグインやインストゥルメント、サンプルからトラックまで、すべて並列でカテゴリーごとに管理ができるので、自分の使う頻度やケースに合わせてすぐ呼び出せるようにしています。
一度トラックごと保存しておけば、新しいシンセ・トラックを足すときに“MIDIトラックを立ち上げて、どのシンセにするか選んで……”という手間もなくすぐ呼び出すことができます。ブラウザからドラッグ&ドロップ1回でWavetableとSpectrumとUtility×2がインサートされたトラックを追加することも簡単に行えるのです。私は制作でよく使うソフト・シンセやDrum Rackの設定などをトラックごとに保存してあり、スタジオに楽器を追加する感覚でトラックを追加しています。
また、LiveではVSTやAUプラグインの名称を変更できないので、一度Audio Effect Rackにそのプラグインを入れたものを保存して名前を付けることで名称で整理できるようにしています。加えて、外部コントローラーであるELGATO Stream Deckのマクロを使用してプラグインで特に頻度が高いものをワンボタンで呼び出せるようにしています。
Liveではキー・アサインでプラグイン・ウインドウの表示/非表示を切り替えることが可能です。私は特定のキーでマスター・トラックに挿したアナライザー・プラグインをすぐ表示できるようにしています。シンセやドラムの音作り中にステレオの広がり方や帯域情報などをすぐ確認できて便利です。
リハで録音したドラム・フィルをSimplerでスライス
Drum Rackはドラム構築フローにおいて素晴らしいデバイス。私の制作ではXLN AUDIO XOで探したドラム・サンプルをDrum Rackに流し込んで打楽器を組み立てています。ABLETON Push 2を使えばリズム・マシンのようにシーケンスを打ち込めるので、自分でたたいても思いつかなかったドラム・パターンに出会うことができて重宝しています。Drum Rackで制作を進めながら、各パーツを別のトラックに分割したくなったときも、Drum Rackからドラッグ&ドロップするだけでMIDIごとすべて別トラックに移動するので本当に便利です。
制作中のDrum Rackの使い方として、フィル・ボックスというものがあります。Lucky Kilimanjaroは普段のライブ・リハーサルもすべての音をLiveで録音しているのですが、ドラマーの柴田昌樹がたたいたドラム・フィルのデータをSimplerでスライスし、Drum Rackに配置することでドラマー気分でフィルをたたけるのです。「週休8日」のブレイク・フィルはこのフィル・ボックスで作っています。ドラマーが生でたたくのとは違ったキレが出て、とても面白いフィルになります。
Drum Rack内にサンプルを読み込んだときのSimplerも非常に高機能で便利ですが、右クリック・メニューでより高機能のSamplerに変換できるので、エンベロープを細かく攻めたいときによく使用します。
Volume EnvelopeでAttackを0ms、Decayを10〜50ms、Sustainを−20dBくらいにするとサンプルのアタックが見えてくるのです。Decayでどれくらいのアタックを強調するか決めながら、好みのサウンドになるまでSustainの数字を0dBに近づけていってみてください。コンプを使わずともトランジェントやアタック感の調整ができます。ドラム・サンプルのReleaseはグルーブが結構変わってきてしまうので、最初は短めに設定しつつ徐々に長くしていくと欲しい長さのサンプルに調整しやすいです。
余談ですが、アナログ・シンセやサンプラーで使うエンベロープ(ADSR)の概念は音作りの幅が広がります。ABLETONが出している“Learning Synths”というWebプログラムは、シンセの音作りの方法やエンベロープの説明などLiveでの制作に役立つものばかりで勉強になるのでお薦めです。
リソース解放のためのフリーズ機能
制作スタイル上、どうしてもソフト・シンセやリバーブのプラグインが増えてリソースを圧迫してしまうので、リソース解放のためにフリーズ機能は欠かせません。フリーズしたトラックのクリップをコピーしてオーディオ・トラックにペーストすると、フリーズ状態のオーディオ・ファイルとして張り付けることができます。これをSimplerなどでスライスすると、MIDIで考えつかなかった処理が発見できたりして非常に面白いです。
プラグインを音楽的に操るPush 2
たびたび紹介しているPush 2は非常に便利なハードウェア・コントローラーです。制作ではセッションビュー・モードではなくアレンジメントビュー・モードばかり使用していますが、それでもPush 2は欠かせない存在になっています。ドラム・パッドやシーケンサーとして常に使っていますが、一番使用しているのはロータリー・エンコーダーによるデバイスの操作。EchoやHybrid Reverbをはじめ、純正プラグインであればすべてPush 2でコントロールしてハードウェア感覚で使うことができます。やはりつまみを回しながら音を決めるというのは非常に音楽的な結果につながりやすいと感じています。
サード・パーティ製のプラグインでも、デバイスの▼ボタンを押すと現れるConfigureボタンでパラメーターを追加すれば、Push 2上にパラメーター名と数値が表示されるようになります。FABFILTER Saturn 2など外部のプラグインも多数使用するので、それらがPush 2でハードウェアとして使用できるのは非常にクリエイティブで楽しいです。
熊木幸丸
【Profile】同じ大学の軽音サークルで出会った6人で結成したLucky Kilimanjaroのボーカル/コンポーザー。2022年3月に3rdフル・アルバム『TOUGH PLAY』を発売し、6月にはバンド史上最大動員の全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents.TOUR “TOUGH PLAY”』のファイナルをパシフィコ横浜で開催。7月13日「ファジーサマー」を発売、9月11日より全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR ”YAMAODORI 2022”』を開催中。
【Recent work】
『ファジーサマー』
Lucky Kilimanjaro
(ドリーミュージック)
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13〜12、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1プロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境