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ギターをモジュラーに“ブチ込む” SUGIZOが語るクロスオーバーなサウンド・メイク

ギターをモジュラーに“ブチ込む” SUGIZOが語るクロスオーバーなサウンド・メイク

SUGIZOとHATAKENが共作した『The Voyage to The Higher Self』。インタビュー前編では、HATAKENのモジュラー・シンセによるギター・サウンドの加工に迫ったが、本稿ではSUGIZO自身が実践した音作りをお伝えする。ギターをモジュラーに直接インプットするプロセッシングをはじめ、ギター・シンセROLAND GR-300やDPAのマイクを用いたテクニックなど、盛り沢山でお届けしよう。

インタビュー前編はこちら:

ギターとモジュラーの架け橋はAA.1

HATAKENさんは、原曲の一曲一曲に対して1つずつリコンストラクションを作ったのですか?

HATAKEN そうですね。

SUGIZO でも実は、送り返してもらった段階で、僕が別の曲の素材を組み合わせたりもしているんです。特に『愛と調和』からは、たくさん引っ張ってきたはず。HATAKENさんの音から素材を抜粋して、ほかに使うことはありませんでしたけど。で、リコンストラクションが形になってきたら、それに合わせてギターを弾いて新しいメロディを乗せました。

 

先ほど言及した“作曲”のプロセスでしょうか?

SUGIZO はい。ギターの新録は、大半をここ(ART TERROR STUDIO)で済ませました。大野君に機材のルーティングを組んでもらって、1人でコツコツと録音していました。そして今回、実機のギター・アンプを使わずに、あえてFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX IIIのみで鳴らしました。

 

4組のアナログ入出力を備えるアンプ・モデリング&エフェクターですね。

SUGIZO はい。近年の僕のソロ・ワークやセッションでは主力兵器となっている、めちゃくちゃ優秀なプロセッサーです。Axe-FX IIIでは、いつもメイン/クランチ/ディレイの3つのチャンネルで音作りして、それぞれを個別に出力します。メインはエフェクトが十分にかかっている音で、それに“音の芯”を足すのがクランチのチャンネル。ディレイを独立させているのは、定位を変えて空間を表現したいからです。各出力はAPIの4chミキサー3124MVで増幅してから録音しましたが、1ch空いていたので、そこは自身のモジュラー・シンセのために使っています。さっき触れた通り、ギターをモジュラーにブチ込んで弾いています。

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ラック最上段にあるのは、アルバムの新録ギターに活用したアンプ・モデリング&エフェクターのFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX III。その下には、ギターをPro Toolsへ取り込む際にプリアンプとして使った4chミキサーAPI 3124MVが見える

NOVONOTES 3DXなどでバイノーラル処理

ギターをモジュラー・シンセにインプットするには、どのようなモジュールが必要なのですか?

SUGIZO STRYMON AA.1を使いました。Axe-FX IIIの出力レベルをユーロラック・モジュールにマッチさせるためです。AA.1以降はPanharmoniumに送りつつROLANDのSystem-500 Complete SetでLFOをかけたりして、最終的な音をPanharmoniumから3124MV経由でPro Toolsに取り込みました。HATAKENさんも僕もPanharmoniumを多用するので、たまにどちらの音だか分からなくなることがあるんですよ(笑)。だから幾つかの曲ではリード・ギターにGR-300を使い、それが重要な役割を果たしました。

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SUGIZOのモジュラー・シンセ。写真左上に見えるのは、ギターの演奏にLFOなどをかけたというROLAND System-500 Complete Set

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中央のROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmoniumは、SUGIZOとHATAKENが特に気に入っているモジュール。入力ソースの周波数特性を解析し、その結果を内蔵オシレーターに適用することで多様なサウンドを生成する“リシンセサイザー”だ

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ラック下段左に設置されているのが、ギターとユーロラック・モジュラーのレベル・マッチングを行うモジュールSTRYMON AA.1。同じ段には、MAKE NOISE QPASやMimeophonなど、比較的最近に導入したものもマウントされている

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リボン・シンセサイザー/コントローラーのEOWAVE Ribbon2。12ビット音源を内蔵するほか、CV/GateやUSB MIDIに対応する

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DOEPFERのモジュール群。VCOのA-110やVCFのA-120、A-121、エンベロープ・ジェネレーターのA-140、LFOのA-145、A-146といった基本的なモジュールはもちろん、位相を徐々に変えたりできるA-116、電圧の変化を遅らせるスルー・リミッターA-170なども用意

「Manipura」のリードが象徴的ですね。

SUGIZO あれはもう完全に、ロバート・フリップをオマージュしたもの……自身の影響元に対する愛情の表現です。制作していた時期にキング・クリムゾンが来日公演をしていて、僕も見に行きました。素晴らしい2デイズでしたし、最後の来日ということで感慨深さもありました。そして今も現役で居てくれるフリップ先生に感動でした。「Manipura」のみならずアルバム全体に彼へのリスペクトを込めているのは、レコーディングの最終段階とクリムゾンの来日時期が重なっていたからというのも大きいです。あと、ギターの音作りで重要だったのが“生音を録って重ねる”という手法。

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GR-300。キング・クリムゾンのロバート・フリップに影響され、中学時代からあこがれていたというギター・シンセだ。アルバムの「Manipura」と「Visuddha」のリードは本機の音色

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SUGIZOのペダル群。写真下段右のMAXON PDM1は1980年代に発売されたモジュレーション・ディレイで、ユニークな質感を気に入ってデビュー前から使用しているという

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MOOG MF-102やDIGITECH WH 1などのペダル群

アンプへつながずに弾いた弦の音ということですか?

SUGIZO はい。GIBSON ES-330の生音をDPAのコンタクト・マイクで録って、Axe-FX IIIの音にレイヤーしているんです。クリーン・トーンのアルペジオや白玉のフレーズに効果的で、今回は「Svadhisthana」や「Anahata」などで活躍しました。実はこの手法、1990年代から実践していて、 例えばLUNA SEAのアルバム『SHINE』で「MILLENNIUM」という曲に使ったりしています。ソリッド・ボディのギターでやってもいいんですけど、ES-330のようなフルアコとかセミアコの方が望ましい結果が得られるんですよね。

大野 アンプで鳴らすと耳に痛くなりがちな高域成分……いわば“シャリン”としたところを担えるので、アンプ・サウンドの方はすごくファットに作って、輪郭を生音で補うような音作りが行えます。

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NAVIGATORやESPのエレキギター、GIBSON ES-330のほか、ROLANDのギター・シンセサイザーGR-300を鳴らすためのG-303がスタンバイ

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ES-330の弦の生音を拾うのに使ったDPA MICROPHONESのコンタクト・マイク4099

ギターのサウンドに関しては、空間系の処理も印象的です。先ほどシマー・リバーブについて説明してもらいましたが、ミキシングの際に施されたものもあるのですか?

SUGIZO はい。ディレイはミキシングの際、僕の主力兵器であるTC ELECTRONIC TC 2290でかけています。

大野 サウンド・ダリのNEVE V1コンソールに立ち上げてディレイをかけた素材もありますが、基本的にはPro Toolsのハードウェア・インサートを使いました。また、空間作りにあたっては、プラグインでのバイノーラル処理を行いました。メインで使用したのはNOVONOTES 3DXで、PLUGIN ALLIANCE Dear Reality DearVR Proと比較しながら、どちらにするか決めることが多かったです。あとはWAVE ARTSのPanorama 6を使う場面もありました。

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アウトボード・ラック最上段に収まっている2台のディレイは、ミキシングの際に愛用しているTC ELECTRONIC TC 2290

同じバイノーラル処理でも、プラグインによってサウンドのキャラクターが違うのですか?

大野 はい。なので、実験しながら採用するものを決めています。思うような空間が得られなければ、素材全体にステレオ・イメージャーをかけてからバイノーラル・プラグインに通すとか、もしくはイメージャーだけでバイノーラルっぽい効果を作るとか、いろんなパターンがあるんです。

SUGIZO HEAD ACOUSTICS Aachener Kopfのようなダミー・ヘッド・マイクを使うこともしばしばありますが、良くも悪くも“そのマイクの音”になってしまう。曲に合っていれば最高ですけど、そうでない場合は往々にしてプラグインの方が良いと思いますね。

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大野順平|『The Voyage to The Higher Self』のレコーディング/ミキシングを手掛けたスタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。SUGIZOの諸作のほか、中田裕二、福原美穂、baroque、榊いずみ、浜端ヨウヘイ、叶和貴子といったアーティストの作品に携わってきた

SUGIZOさんとHATAKENさんのコラボレーションとしては『愛と調和』に続くアンビエント・アルバムが完成したわけですが、今後も制作を共にするのでしょうか?

SUGIZO 当面、この形態で作品を作る時間が取れないんです。LUNA SEAもあるし、SHAGというジャズ・ロック・バンドもアルバム制作中で、今年から始まるニュー・プロジェクトも進めているから体が空かなくて。でもHATAKENさんとのデュオは続けていきたい。例えばライブでは、同期モノに合わせて演奏するのではなく、あくまでHATAKENさんの音を軸にしつつリアルタイムに変容していくようなインプロバイズを大切にしたい。今回のアルバムもライブでやりたいと思いますが、絶対にアルバムのままにはならないでしょう。

HATAKEN 僕はこれまでジャズ・シーンの方々を含め、いろいろなミュージシャンとセッションしてきたものの、その場で“完成しているな”と思えることって、やっぱりなかなか無いんですよね。でもSUGIZOさんとのセッションは、音を鳴らしているそばから分かるんです……“次にやるべきことはこれだ”って。つまり、一つ一つの音に対して“良いな”と感じながら進められる。確信を持ってインプロバイズできるんです。その感覚は、ライブだけでなくアルバム制作でも同様だったんじゃないかと思っていますね。

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SUGIZO、HATAKENのセッションのきっかけからアルバム制作までの経緯を語るインタビュー序章、そして音源のやりとりやHATAKENの音作りなどにフォーカスするインタビュー前編はこちらでお読みいただけます。

Release

『The Voyage to The Higher Self』
SUGIZO×HATAKEN
SEPHIROT:SPTC-1010

Musician:SUGIZO(g、vln、syn)、HATAKEN(syn)
Producer:SUGIZO×HATAKEN
Engineer:SUGIZO、HATAKEN、大野順平
Studio:ART TERROR、HATA KENKYUUJYO、Sound DALI

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