SUGIZOのギターをHATAKENはいかにしてモジュラーで変容させたのか?

SUGIZOのギターをHATAKENはいかにしてモジュラーで変容させたのか?

LUNA SEAやX JAPANのギタリスト&バイオリニストとしても活躍中のSUGIZO(写真中央)、モジュラー・シンセ界の雄HATAKEN(同右)が共同プロデュースし、大野順平氏(同左)のエンジニアリングで完成を見たアルバム『The Voyage to The Higher Self』。SUGIZOとシンセのかかわり、そしてアルバム制作の流れについてはインタビュー序章に詳しいが、具体的にはどのような音作りが行われたのか? ここではHATAKENによるモジュラー・シンセさばきを見ていく。

インタビュー序章はこちら:

グラニュラーとPanharmoniumが鍵

SUGIZOさんからは、HATAKENさんにどのような形で“原曲”の素材を渡したのでしょう?

SUGIZO 各トラックをある程度まとめたステムを渡しました。とりわけギターに関しては、完全にパラだと訳が分からない状態になるんです。一つのギターのサウンドを構築するのに、普通に10trくらい使ったりするので。

大野 『音』も『愛と調和』も96kHzでレコーディングしていますが、HATAKENさんには48kHzで送りました。

HATAKEN 僕はこれまでABLETON Liveを使ってきて、最近ではモジュラー・シンセだけでもいろいろなことができるようになっているんですが、今回のためにAVID Pro Toolsを導入したんですよ。

SUGIZO Pro Toolsのセッションでやり取りできるのは、非常に助かりましたね。双方でDAWが異なっていると逐一オーディオに書き出す必要があるし、せっかく設定した定位やマーカーが意味をなさなくなったりもしますから。

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AVID Pro Toolsシステムを核とするSUGIZOのプライベート・スタジオ=ART TERROR。オーディオI/OはPro Tools|HD Omni、モニター・スピーカーはGENELEC 1029 Aを使用。写真右手前には、最近導入したというBUCHLA Music Easelなどを置く

HATAKENさんは、どういった音作りをしましたか?

HATAKEN 曲ごとにキーワードとなるようなギターの音を見つけ、モジュラー・シンセに送って加工してからPro Toolsに録音していく……その繰り返しでした。一つ一つ加工してはミックスの中で聴いて取捨選択したり、違和感があれば再びモジュラーに通して違うものにしたり。いずれの場合も、まずはグラニュラー処理をすることが多かったと思います。モジュールはMUTABLE INSTRUMENTS Beadsがメインで、同じブランドのCloudsやINSTRUOのArbharも使いました。グラニュラー・シンセでは音を細かく断片化することができ、その断片を伸縮させたりリバースさせたり、ランダマイザーをかけて効果を不規則にしたりもできる。特にBeadsはランダマイザーを内蔵しているので、手でリアルタイムに調整すると非常に音楽的なタイミングでグラニュラー合成がかかるんです。例えば「Svadhisthana」冒頭の音。ぶわ~んという音がやがて“ひゃっひゃっひゃっ……”と返ってくるような様は、それだけでメロディに聴こえます。

SUGIZO あの音は、もともとシンプルな白玉でした。

HATAKEN 元の音からの変化に耳を澄ましながら“あ、来た来た”っていうところで録音して、良い部分を録り貯めてから取捨選択する流れでした。ROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmoniumもよく使いましたね。“リシンセサイザー”と銘打たれたモジュールで、素材の周波数特性を解析し、その結果からさまざまな音を生成できるんです。クロックを入力して周波数特性をなぞるようなアルペジオを鳴らしたり、好きな帯域だけを使ってパターンを変化させたりと、設定によって結果がまるで違ってくる。とは言え元の音が変調されたものなので、新しくギターをダビングしてもうまくなじみます。また、スペーシーに広がるサウンドを作るのにも向いていますね。それはグラニュラー・シンセも同様です。

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HATAKENが取材のために持ち込んでくれたモジュラー・シンセ。Panharmoniumや1010MUSIC Bitbox MK2(サンプラー)、Metron(シーケンサー)やPerformance Mixer(ミキサー)といったWMDのモジュール、4MS Ensemble Oscillator(オシレーター)などを収める

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同じくHATAKENのモジュラー・シンセ。Marbles(ランダムCV/Gate)やRings(レゾネーター)、Elements(モーダル・シンセ)、アルバムのグラニュラー合成に活用したBeads(テクスチャー・シンセ)などMUTABLE INSTRUMENTSのものが中心

シマー・リバーブのような響きも随所で聴けますね。

HATAKEN シマー・リバーブには、GBIZ DervishやMAKE NOISE Erbe-Verb、HAPPY NERDING FX Aid XLを使っています。また、Beadsの内蔵リバーブでも同様の効果が得られるので、それも数多く採用されているはず。グラニュラーやリバーブのほかは、トリガー・モジュールやシーケンサーなどを使ってリズミックな効果を加えたりもしました。そうこうするうちに新しい音の組み合わせが見つかって、初めに描いていたものとは全く違う方向へ行ったりとか(笑)。

SUGIZO 偶発的に生まれるものって、特にモジュラー・シンセではすごく良いですよね。

HATAKEN そうなんです。自分が“こうしよう”と思っていた音より全然良いものが偶然に生まれるというのは、認めざるを得ない事実としてよくあることですね(笑)。

SUGIZO 実のところ、チャクラを各曲のモチーフにしたのは、HATAKENさんから送ってもらった第2弾のリコンストラクションに触発されてのことだったんです。そもそも一曲一曲が8~9分になることは察しが付いていたので、アルバム全体で計1時間ほどとして、7曲に収めようと思っていました。で、HATAKENさんが3曲分くらいの音を送ってくださったときにチャクラというイメージが降りてきて、“7曲でちょうど7つのチャクラに対応するぞ”と。そういうコンセプトをHATAKENさんに相談して承諾を得て、以降はチャクラについての学びもしながら曲作りを進めました。

HATAKEN 2017年にリミックスをしたときは、元の音から“オーラ”を引き出すべく音作りしましたが、今回はそうじゃなくて、もっと原曲を感じさせないようなものへとバラバラに解体してほしいというオーダーだったんです。

SUGIZO 例えば“コード進行を感じさせたくない”とリクエストしたり。だからこそ、和声がはっきりと分かる素材もグラニュラー・シンセなどで加工してもらったんです。音色として素晴らしくても、コード進行を感じさせる要素が残っていたら原曲のDNAが優位になり過ぎてしまう。そこをあいまいにしたかったというのがあります。

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アルバムのモチーフとなった“チャクラ”を表す水晶

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 SUGIZO所有のモジュラー・シンセやエフェクターなどの機材を紹介しながら、ギターの音作りやエンジニア大野氏のよるミックスについて話を聞きました。

SUGIZO、HATAKENのセッションのきっかけからアルバム制作までの経緯を語るインタビュー序章はこちら:

Release

『The Voyage to The Higher Self』
SUGIZO×HATAKEN
SEPHIROT:SPTC-1010

Musician:SUGIZO(g、vln、syn)、HATAKEN(syn)
Producer:SUGIZO×HATAKEN
Engineer:SUGIZO、HATAKEN、大野順平
Studio:ART TERROR、HATA KENKYUUJYO、Sound DALI

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