本日2月3日にアルバム『TO THE FOREST TO LIVE A TRUER LIFE』をリリースした、YoshimiOと和泉希洋志の2人によるYoshimiOizumikiYoshiduO。インタビュー後編では、和泉が所有するモジュラー・シンセ群の写真と共に、素材の加工/編集方法を具体的に聞いている。後半には、ハプニングすら音楽の一部というライブの取り組みについても語ってもらった。
Text:Satoshi Torii
インタビュー前編はこちら:
核となる機材はPanharmonium
ー素材の編集はどのように行っていったのですか?
和泉 PRESONUS Studio Oneを立ち上げて、まずは録音した声とピアノの素材をWAVES L2、V-EQ4、SSL E-Channel、Kramer Master Tape、DBX 160、IZOTOPE RX 8などを使ってクリーニングしました。それから、INTELLIJEL Audio I/O 1Uへ出力してオーディオ・レベルをモジュラー・シンセに最適化し、Buffered Multiple in 1Uで4系統に分岐して、音を加工していきます。加工したピアノの音は、オーディオI/OモジュールEXPERT SLEEPERS ES-8を通してStudio Oneに戻しました。さらに加工が必要なときは、ES-8からモジュラー・シンセに戻して処理してまたStudio Oneへという作業を繰り返しています。
ーDAWからモジュラー・シンセに出力して加工し、またDAWに戻すと。多用したモジュールはありますか?
和泉 核となっているのは、ROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmoniumです。入力した音をスペクトル・データに変換し、ピアノをシンセ化してハーモニック生成もできます。ピッチも安定していて、ここを起点にいろいろ加工しています。2人でやろうと決めてから購入したのですが、これが無かったら活動できなかったと言える機材ですね。
ー確かにピアノの生音とシンセの音が、すごく自然に同期しているように感じました。
和泉 最初のライブの前に入ったスタジオで、音を出してみた1音目に2人ともびっくりしましたね。
YoshimiO すごく良い音でした。結構今までモジュラー・シンセの人と一緒にやってきたんですが、楽器から出る実音の方が大きかったりして、もやがかかっているというか……それはそれで面白かったんですけど、ここまで楽器の生音にうまくかかるっていうのは今まで無かったです。モジュラー・シンセ奏者の方とセッションしているのではなく、モジュラー・シンセが無いと成り立たない。和泉君自体が一つのモジュールになっているような感じです。
和泉 僕はこのユニットでは一切演奏をしていないんです。音を加工するのみに徹していて、声とピアノだけを素材にするという一線は引いています。その方がすごく幅が広がっていると感じます。安易に音を足そうと思えばできるけれど、2人がやりたいことはそういうことではないので。
生音と加工した音が共存している
ー音の加工方法について、具体的に教えてください。
和泉 毎回ゼロからパッチをして実験を繰り返しています。例えば「yO Me」中盤の蓄音機風のピアノは、ORTHOGONAL DEVICES ER-301に入力して、ピッチをバイオ・フィードバック・ジェネレーターのINSTRUO Scionで揺らして、フィルターのINDUSTRIAL MUSIC ELECTRONICS Bionic Lester MKIIIでバンドパス・モードを中心にこれもScionでモーフィングし、ディストーションのSCHLAPPI ENGINEERING 100 Gritでノイズを薄く足して作っています。
ーかなり大きく手を加えているのですね。確かに元がピアノと声だけとは思えないほど音色が豊かです。
和泉 「mull」の管楽器のような音は、MUTABLE INSTRUMENTS ElementsのEXT INに入力して作りました。低音のベースはPanharmoniumで作成しています。
ーリバーブなど、エフェクトにプラグインも使用?
和泉 エフェクトにプラグインはほとんど使っていないです。リバーブでよく使ったのはTIPTOP AUDIO Z-DSP。ピアノはサステインに限界があるので、ローパス・フィルターでアタックを抑えてZ-DSPをロング・ディケイでかけ、Bionic Lester MKIIIのコム・フィルターで輪郭を出し、XAOCDEVICES Sewastopolで生成したトリガーでエンベロープを調節。さらにGRAYSCALE Microcellなどでロング・ディケイのリバーブをかけパッドのような音を作りました。
ーボーカルも積極的に加工している印象です。
和泉 声は歯擦音などのノイズ処理は行わずに、楽器と同じような感覚で収録した音はすべて効果的に使用しています。1010MUSIC FX BoxやINTELLIJEL Rainmakerなどを使ってエフェクト処理し、ピアノ素材と一体化するようにミックスします。FX Boxは、シーケンスのステップごとにエフェクトが切り替わるのですが、さらに手動でプログラムを変えていきました。Rainmakerは、トリガーごとにパラメーターがランダムになるように使用しています。まとめたバスにIZOTOPE Neutron 3をかけてレベルを持ち上げました。
ー「sun19」ではアルバムの中で唯一歌の中に言葉のフレーズが出てきて、聴いていてハッとしました。アルバムのタイトルの一部が歌詞になっています。
YoshimiO あの歌は、ある程度全体のミックスが出来上がった上で、一言だけ言いたいと思って後から重ねています。“より本当の人生を、より真実の人生を生きるために森に入って行く”というイメージですね。ほかにトランペットのロング・トーンを重ねたくなるかなと思って持って行ったけれど結局歌しか歌えなくて。その辺りは何も余計に考えず、自分に忠実にやれていると思います。
ーアルバム全体を通して細かく編集を行っていて、すごく時間をかけているように感じました。
和泉 コロナ禍で時間はたっぷりあったのでいろいろと試しました。ライブでは生音のトラックを含め、各トラックをフェーダーで出し入れしてミックスしていくのですが、アルバムでも同様に各トラックが交互に出てくるように編集しています。生音のトラックは処理せず、ドライな音で前に出る感じにして立体感を強調しました。生音と加工した音がどちらかを打ち消すのではなく、両方が成立しているようになっています。
YoshimiO 急にモジュールが外れた瞬間とか、たまに生音が出てくるのもすごく良いです。そこに楽器の音があるという安心感があります。
未知の音に触れられることが喜び
ーマスタリングも和泉さんによるものですね。
和泉 IZOTOPE Ozone 9を使いました。音圧を上げるとマイクが拾ったエアのノイズがかなり浮き出てくるのですが、どれだけ残して気配を感じさせるかというバランス取りに苦労しました。レコード、CD、配信など、再生メディアが変わっても音の変化が少なくなるようなバランスも心掛けています。
ーリリース後はライブなど、積極的に活動を?
YoshimiO どういう場所や環境に、どんな人が集まって、という中で演奏したときに、自分から何が出てくるのかを調べつつ、それをモジュラー・シンセで具体化していきたいですね。ライブももっとやりたいですが、ピアノがある場所となると限られるので。ライブだと、ピアノの蓋を開けたときにマイクが全部の音を拾って何がなんやら分からんくなるような現象が起きて、そのときに和泉君が黙々と作業している姿なのにテンパっているような感じが生々しくて面白いです。私としては弦を触りたいし、蓋が開いていたらすごくワクワクするんです。
和泉 ボーカルとピアノで別系統の処理をしているのに、混ざってしまうんです。でも後で聴いたら良かったりします。
ーハプニングも音楽の一部なのだと。
和泉 最近はハウリングすらも演奏に変えています。普通は焦ると思うんですけど、ちゃんとそれに乗ってきてくれる。
YoshimiO ハウリングにハモるのがめちゃくちゃ楽しいです。予期せぬぐらい大きくなるし、特に低音とかすごく音程も出ます。ハウったらナイス!みたいな(笑)。
ーその手法は初めて聞きました(笑)。
YoshimiO そういう自分でも全く聴いたことのない音の感覚や衝動を見つけられるというのが、やっていて喜びでもあり、醍醐味でもありますね。
インタビュー前編では、 YoshimiOが人前でピアノを弾くことを解禁したというアルバム制作のきっかけやレコーディングについて話を聞きました。
Release
『TO THE FOREST TO LIVE A TRUER LIFE』
YoshimiOizumikiYoshiduO
SHOCHY:BTSM-24
Musician:YoshimiO(voice、p)、和泉希洋志(modular synth)
Producer:YoshimiOizumikiYoshiduO
Engineer:和泉希洋志、KABAMIX
Studio:maho-roba、LMD