中嶋イッキュウ(vo、g/写真手前中央)、キダ モティフォ(g、cho/同右)、ヒロミ・ヒロヒロ(b、cho/同左)、吉田雄介(ds/同奥)から成る4人組ロック・バンドtricot。コロナ禍を経てDAWを使用したデモ作りを始めたり、初めてプロデューサーを迎えて楽曲を制作するなど、新たな挑戦をし続けている。そんな彼らの最新作『上出来』は、tricotの持ち味である強靭なリズム、スリリングな展開がさらにブラッシュアップされた12曲とそのインスト・バージョンを収録。今回は作曲の中核を担うキダ モティフォ、ヒロミ・ヒロヒロに制作にまつわる話を聞いた。
Text:Yuki Komukai
フレーズの拍に合うように素材を編集します
ー過去作は対面でのセッションから作っていくことが多いと伺いましたが、『上出来』はどのように制作しましたか?
キダ 前作『10』を作っていたときがちょうどコロナ禍の始まりだったんです。そのときはほぼリモートで、メンバー間でデータをやり取りして作曲していましたが、今回はリモートと対面でのセッションが半々くらいの割合で制作しました。きっかけは私のギターであることが多いです。
ーすベて対面のセッションでやっていたときに比べて随分変わったんですね。
キダ 顔を合わせてセッションしていたのに比べるとスピード感は無いですね。でも自分で考える時間をちゃんと持てるので、そこはメリットです。
ヒロミ フレーズに悩んでスタジオの時間を無駄にしてしまうことは無くなりました。ある程度曲の雰囲気をつかめてから行けるっていうのはやっぱり違いますね。
ーデモ作りはどんなツールで?
キダ 私は普段使っているAPPLE iPhoneやMacに入っているGarageBandを使っていました。
ヒロミ 私はPRESONUS Studio Oneです。ベースを録音してみたり、音を重ねたりしています。最初はAVID Pro Toolsを教えてもらおうと思ったんですけど自分には難し過ぎて。一方でStudio Oneは操作がそんなに複雑じゃないというか。そんなに機械が得意ではないので動画を見ながら勉強しました。
ーデモはどのくらいまで形にするのですか?
キダ 私はギターを3、4本重ねることが多いです。リズムを自分で打ち込んだり、GarageBandに元から入ってるループやDrummerを使うこともありますね。自分のアイディアを広げるために入れているだけなんですけど。
ーリズムは変わる前提で入れている?
キダ そうですね。“これは無視してください”くらいの感じで渡しています。デモにのっとった感じでやってくれるときもありますけど、そこはもうお任せです。
ーセッションみたいな感じですね。tricotの曲は変拍子も多いですが、DAWは初期設定やループ素材なども4/4拍子だったりしますよね。
キダ 自分の作ったフレーズの拍に合うように編集して、無理やりはめ込んで使ったり、そのまま使って面白いリズムになるのを探したりしています。
ー曲は、オケだけ先に作ってからメロディを乗せていると聞きました。
キダ そうですね。オケだけを先に作り切るわけではないんですけど、メロディは後から乗せることが多いです。
ヒロミ オケを先に作るって決めているわけではないんですけど、もともと私とキダさんはインスト・バンドをやっていて。その後にボーカルの(中嶋)イッキュウが入ってtricotになったんです。当時インストでやっていた曲に歌をつけてもらうこともあって、多分その流れが残ってるのかなと思います。今ではワンコーラスとかざっくりしたものに歌を乗せてもらって、広げていくっていうパターンが多いですね。
ーメロディはボーカルの中嶋さんにお任せですか?
ヒロミ 気になるところがあったら言うこともあるんですけど、基本はイッキュウにお任せです。
キダ 歌モノではあるんですが、歌もセッションのうちというか、楽器と同じ立ち位置で考えているのかもしれないです。
ーメロディ・ラインはとてもキャッチーですよね。
ヒロミ そうですね。無意識的だと思うんですけど、tricotの複雑な曲でも、なんかポップな感じに聴こえるっていうのはあるかもしれないです。
ー確かに展開は目まぐるしいのに、不思議と聴きやすい曲が多い気がします。
ヒロミ 複雑な曲にしようというつもりは全く無いんです。いろんなことを詰め込み過ぎることもあるんですけど、それはそれで良しとするというか。それぞれのやってみたいことをどんどん入れていって、最後に歌も入れて聴いてみて、ここはもっとこうした方がいいかなとか、歌に譲った方がいいんじゃないか……っていう話をしながら完成させます。
キダ 対面のセッションで作っていたときは、1個のフレーズをループさせて、そこから派生させていくというやり方を結構していて。いかにフレーズを残したまま雰囲気をガラッと変えられるかを意識していました。なので曲の展開を変えていくようなアレンジは無意識的にやっているかもしれないです。
中尾憲太郎さんがモジュラー・シンセを持ってきた
ーシンセ・ベースが導入された「餌にもなれない」はtricotの新境地のように感じました。
ヒロミ 今回、新たな挑戦としてプロデューサーを立てることにしました。初めてだし、NUMBER GIRLの中尾憲太郎さんがやってくれたらすごい心強いというか、変な抵抗無くやれそうだなと思ってお願いしたんです。キダさんのデモに基づいて最初はエレキベースを弾いたりしていたんですけど、2回目のスタジオ入りのときに憲太郎さんがモジュラー・シンセを持ってきてくれたんです。結局私がそれを演奏する感じで進めていくことになりました。
ーシンセ・ベースの演奏もヒロミさんが?
ヒロミ シンセ・ベースは初めてだったんですけど、昔ピアノをやっていたので鍵盤を弾くことは初めてではなかったんです。でもリズムとしてやるのは初で、感覚は全然違いました。
ー今後もtricotの曲でシンセが登場したりすることはあるのでしょうか?
ヒロミ 特別どんどん使おうってわけではないですけど、思い付きがあればなんでもやりたいですね。気付いたらエレクトロ・バンドになっているかも(笑)。
ー中尾さんはプロデューサーとして、ほかにどんなことをアドバイスしてくださったのですか?
ヒロミ 誰よりも熱くて、“もっといけるっしょ!”みたいに盛り上げてくれるのが印象的でした。クセとかもどんどん出していこうという感じで“思うままにやろう!”って言ってくれて。今まで第三者の意見を制作中に聞くことが無かったので、すごくやりやすかったです。
ー中尾さんが助言してくれることで、気持ちが制作に集中できるようになったと?
キダ その辺りを任せられるのがありがたかったですね。
インタビュー後編(会員限定)では、『上出来』収録曲のレコーディングや音作りについて紹介。キダ モティフォ、ヒロミ・ヒロヒロの使用機材やエフェクター・ボードにも注目です。
Release
『上出来』
tricot
(エイベックス:CTCR-96061~2)
Musician:中嶋イッキュウ(vo、g)、キダ モティフォ(g、cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(b、cho)、吉田雄介(ds)
Producer:tricot、中尾憲太郎
Engineer:采原史明、三浦カオル、益子樹、大竹悠太
Studio:FLOAT、prime sound studio form、aLIVE