ボアダムスやOOIOOをはじめ、世界中を舞台に音楽活動を行ってきたYoshimiOと、アーティストとして制作を行い、音楽家としても数々の作品をリリースしてきた和泉希洋志の2人によるYoshimiOizumikiYoshiduOが、本日2月3日にアルバム『TO THE FOREST TO LIVE A TRUER LIFE』をリリース。YoshimiOの声とピアノの即興演奏を録音した素材を、和泉がモジュラー・シンセで編集/加工した作品は、生音と電子音が奇麗に共存し、これまでに体験したことが無いような美しい音響世界を作り上げている。前編ではデュオ結成のきっかけや、アルバムのレコーディングなどについて2人に伺った。
Text:Satoshi Torii
人前でピアノを弾くことを解禁
ーお二人はいつごろから知り合いなのですか?
YoshimiO 和泉君は、ボアダムスの『Vision Creation Newsun』くらいのころにシンセで参加してくれていました。それよりずっと前、もともとアートをやっていた和泉君が、ボアダムスのライブのときに巨大なジャガイモみたいなオブジェをドラムの間に置かないかという話をしてきて(笑)。それからの付き合いだと思います。
ー付き合いとしてはかなり長いのですね。デュオの結成は2019年10月とのことですが、一緒に活動するきっかけは何だったのでしょうか?
YoshimiO 私がやっているファッション・ブランド、emeraldthirteenのアトリエが、和泉君が運営しているSOMAというカレー屋さんと近くて、よく服も見に来てくれるんです。
和泉 そこでライブをやらないかと誘われたときに、誰かと2人でやってほしいという依頼をされて。そのときに僕はピアノの人と一緒にやりたいという話をしていました。
YoshimiO 和泉君がモジュラー・シンセを生ピアノにかけてみたいという話を聞きつけて、私が弾くピアノをモジュール化してほしいと思ってお願いしたんです。
ー今作を聴いてまず、YoshimiOさんがピアノを弾くというイメージが無かったのですごく驚きました。
YoshimiO ボアダムスの『Seadrum/House of Sun』とか、本田ゆかさんとのアルバム『Flower With No Color』とか、レコーディングで結構ピアノを弾いているんですけど、自分がピアノを人前で弾くということはずっと避けていました。
ーそれはどうしてなのでしょうか?
YoshimiO 抵抗があったんです。今までずっとドラムとか、OOIOOでは弾けないギターを無理やり弾くとか、ボーカルは発声するっていうように、どの演奏も自分より先の衝動があるからできる。ピアノは普通に教育を受けていて、4、5歳で聴音とか採譜の訓練みたいなことをゲーム感覚でやっていました。嫌では無かったけれど“わあ、上手”って言われることが、何かしら自分の中でストレスだったと思う。小6まで習って、教則本とかも終えていたけど全然興味が湧かずに、ピアノの上に立って足で黒鍵だけを弾くのが唯一の楽しみでした(笑)。教育を受けたもので人前に出ることがずっと苦手だったんですが、最近やっとそこを自分の素材にするのが面白いんじゃないかと思い始めています。
ーでは、ちょうどお二人のやりたいことが合致するタイミングだったのですね。
YoshimiO でも、ただピアノだけを弾くよりもモジュール化はしてほしかったんです。ピアノを弾くことも衝動があって自然現象的なものだけど、モジュラー・シンセを通してデータとして数値に変えることで、より自分のことが伝わるんじゃないか、よりリアルになるんじゃないかと思いました。
和泉 最初は本気とは思っていなかったんですが、会うたびにその話になってきたんで、ちゃんとシステムを作らなあかんなと。その前に『小杉武久の2019』のコンサートで、高橋悠治さんと演奏した小杉さんの作品「Piano-Wave-Mix」でピアノと声の変調をしたことはあったんですが、それとは全く別物のシステムを試行錯誤しながら作りました。
ーデュオとして初めて音を合わせたのはいつですか?
YoshimiO ライブの2日前にリハーサルを実験的にやってみたんです。そのときはグランド・ピアノだったんですけど、和泉君のシステムのこともあるし合わせてみました。
和泉 システムだけは決めて、内容は始めてから展開していきました。思ったよりモジュールがうまく反応したので、これはいけるなと。そこさえ決まれば、あとは演奏するだけでしたね。
YoshimiO 私は何がどうなっているのかとかを考えずに、自分のことができて楽しかったです(笑)。
森の中でレコーディング
ーレコーディングを行ったのはいつですか?
YoshimiO 2020年の10月です。私の家の近くの森の中に、知り合いが営んでいるカフェ・レストランにピアノがあって、そこで録っています。周りは木しか無いような森の中にあるお店で、その自然の中でできたらいいなと前から目を付けていて今回録音しました。録音の途中もどんぐりがポコンポコンと落ちてくるような場所です。
ー部屋鳴りなども独特なものがありそうですね。
YoshimiO 響きというよりは、誰も見ていないところで自分をあるがままに出せるという環境が大事でした。設備がすごく整ったスタジオでも、周りに人がワーッといたら絶対に自分のあるがままの姿は出せないですね。
ーレコーディングの際は、モジュラー・シンセを使わず録音のみだったのですか?
和泉 録音のみで、持ち帰って後から加工しています。
YoshimiO その場の現象をありのままに録音したものを、和泉君がモジュラー・シンセで編集してくれました。
和泉 録音機材は、ボーカル・マイクにSHURE SM58、ピアノにはMARANTZ PROFESSIONAL MPM-1000で、ミキサー/オーディオI/OとしてALLEN&HEATH ZED-10を使いました。ピアノを録るのは初めてでしたが、思ったより奇麗に録れましたね。あとは保険として、ZOOMのICレコーダーでエアを録音しています。
ーピアノと声は別録りですか?
和泉 初めはピアノだけ録音しようと言っていたんですが、やっぱり声が。
YoshimiO 自分でもいつ声が出るのか分からないので。結局ずっと歌っていましたね。
ーライブと異なりモジュラー・シンセの無い中での演奏は、YoshimiOさん的に気持ちの変化などはありましたか?
YoshimiO レコーディングでピアノを弾いて歌う、みたいなことは今まで無かったのでどういう心境になるのかなと。モロに自分を目の当たりしないとダメでしたから。森の中で一人、という環境がものすごく良い方向に作用して、完全に真実だけを演奏したという感じです。
インタビュー後編(会員限定)では、本作での具体的な音素材の編集手法について、和泉が所有するモジュラー・シンセ群とともに解説いただきます。
Release
『TO THE FOREST TO LIVE A TRUER LIFE』
YoshimiOizumikiYoshiduO
SHOCHY:BTSM-24
Musician:YoshimiO(voice、p)、和泉希洋志(modular synth)
Producer:YoshimiOizumikiYoshiduO
Engineer:和泉希洋志、KABAMIX
Studio:maho-roba、LMD