Phew インタビュー【前編】〜曲作りにあらかじめ構想はなく、最初の音に導かれた音を重ねていく

Phew インタビュー【前編】〜曲作りにあらかじめ構想はなく、最初の音に導かれた音を重ねていく

Phewの最新アルバム『ニュー・ディケイド』がリリースされた。このアルバムはPhewにとって、約30年ぶりにイギリスのレーベルMuteからの発売となった作品。2010年代からは、自身の演奏によるアナログ・シンセやリズム・ボックスなどの電子楽器と声を組み合わせた作品を発表しており、今作ではギターの音色が加わるなど新しい試みも加わっている。大半がコロナ禍で制作されたという本作。詳しく話を聞いた。

Text:Satoshi Torii

決めごとのある録音はつまらない

アルバムの制作はいつごろから始めたのでしょうか?

Phew 作りたいっていう気持ちと、録り貯めたものがずっとあって、今作に関しては『Voice Hardcore』の辺り……2017年くらいから次のアルバムっていうのが頭にありました。実際、折を見て録ってはいたんです。アルバム一枚にするくらいのものは貯まったんですけど、ちょっと聴いてみてこれはアルバムにならないなと思って、2019年にいったん全部白紙に戻しました。その年はツアーとかいろいろと忙しかったのでなかなかまとまった時間が取れなくて、またアルバムの録音を考え出したのが12月くらい。実際録音し始めた翌2020年の1月とか2月ごろに「Into the Stream」っていう曲ができて、それからパンデミックになって。次にできたのが「Snow and Pollen」で、3月ですね。ほかの曲はパンデミック以降に録音した曲ばかりです。

 

「Snow and Pollen」は、モジュラー・シンセらしいノイズ・サウンドと、さまざまにエフェクトがかかった声との絡み方が印象的な曲だと感じました。

Phew 「Snow and Pollen」のシンセは、EMS Synthi Aを使っています。イメージとしては昔の短波ラジオで流れていた天気予報の放送ですね。Synthi Aから出る音が、ラジオから聴こえてくるノイズのイメージにピッタリでした。

 

機材などは、普段から音を鳴らせるようにセッティングしているのですか?

Phew ぐちゃぐちゃです(笑)。とてもスタジオって呼べるものじゃないんですが、目に入ったものから使うようにしているってことが大きいですね。

 

所有機材の数もかなりの量なのでしょうか?

Phew 人と比べたことはないですが、小さいものとか仕舞い込んであるものとか、何を持っているのかを忘れてしまっているみたいなところはあります。

 

プラグインのソフト・シンセなどは使わず、アナログ機材が中心なのですか?

Phew そうですね。デジタルってあらかじめ構築していないと音が作れないじゃないですか。別にアナログにこだわっているわけじゃないんですけど、いじり回していて“ここ!”っていうポイントがアナログにはありますよね。特にアナログ信仰みたいなのは無くて、デジタルでも構わないと言えば構わない。使い方ですかね。

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FOLKTEK Euphonos Field。アメリカ製で独自のタッチ・パネルや、シーケンサー、エフェクトを備えるポリフォニック・シンセ。「Into the Stream」、「Feedback Tuning」で使用しており、Phewいわく「繊細な音が出るシンセ」とのこと

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イギリスのシンセ・メーカー、BUGBRANDのModular。デュアル・エンベロープ、VCO×3、デュアル・フィルターなどがセットになっているモデルだ

曲作りの方法について伺います。Phewさんの楽曲は、いわゆる通常のAメロやサビがあるような形式の音楽とは異なりますが、どのように制作しているのでしょう?

Phew 構想を元に作っていくようなスタイルではなくて、初めはあまり何も考えていないんです。例えば6分なら6分録りっぱなしでベーシックを作っていて、使う機材も何となくこれを触りたいみたいな感じで決めています。

 

録音することから曲作りが始まるのですね。

Phew 最初に入れた音で次が決まってくるんです。導かれた音っていうのかな。音を重ねていくうちに、だんだんとイメージが出来上がってきて曲になったっていうものがほとんどですね。

 

どのパートから、というのも決めていないのですか?

Phew 特に決まっていないです。通常の作り方だとリズム・トラックからとかだと思うんですけど、昔そういうふうにやってみてすごくつまらなかったんですよ。

 

「Snow and Pollen」のミニマルなベースや「Days Nights」の16分音符を刻むリズム・ボックスなど、各曲に基本となるリズムがあった上で制作しているのかと思っていました。

Phew 「Snow and Pollen」のベースは、ミキシングを手掛けたDOWSERの長嶌寛幸さんが入れてくれたんです。最初は、ルーパーで作ったようなフレーズとノイズみたいなものしか入っていなかったから、ベースが加わったことで曲が聴きやすくなったのではないでしょうか。「Days Nights」はリズム・ボックスのWHIPPANY Rhythm Master RM-10から録音を始めています。ロックとかマンボとかジャンルごとで10個に分かれているボタンを押すと、そのジャンルに合ったリズム・パターンが再生されるんですが、途中でボタンを押しまくったりしていろんなパターンを混在させています。一定のリズムだけど揺れている、という感じですね。

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「Days Nights」で使用しているリズム・ボックス、WHIPPANY Rhythm Master RM-10。1970年代に製造されたもので、Phewは「特にキックの音が気に入っています」と語る

リズムという点では、「Into The Stream」の後半から挿入されるパーカッションが、左右から迫ってくるような強烈なサウンドでとても印象的でした。

Phew あのパーカッションは、長嶌さんに作ってもらった打ち込みなんです。音を重ねていく中で、ハイチの音楽っぽいリズム、ブードゥーの太鼓のようなイメージが頭の中に出てきたので、イメージを打ち込みで再現してもらっています。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 今作での新たな要素となったギター・サウンドを取り入れた理由や録音作業の裏側に迫ります。「Snow and Pollen」のDAWプロジェクト画面も公開!

Release

『ニュー・ディケイド』
Phew
Traffic/Mute:TRCP-294

Musician:Phew(voice、syn、g、rhythm box)、長嶌寛幸(syn、他)、山本精一(g)
Producer:Phew
Engineer:長嶌寛幸
Studio:プライベート

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