塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|AUDIO-TECHNICA AE5400

塩塚モエカがハンドヘルド・マイクを試して語る連載、最終回!

塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|AUDIO-TECHNICA AE5400

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki Illustration:Hiromi Mizoguchi Hair & Make:kika

こいつとなら親友になれるマイク

 塩塚モエカです。ついにこの連載も最終回を迎えました。うわ〜ん。半年間、たくさんの発見をありがとうございました。少しでもマイク選びの参考になれていたらうれしいです。

 ラストを飾るのはAUDIO-TECHNICA AE5400。レコーディングで同じメーカーの別のマイクを使って気になっていたので、今回ハンドヘルド型のコンデンサー・マイクであるAE5400で歌うのを楽しみにしていました。

 今回も「マヨイガ」を歌ってみたところ、ゲインが大きく、バンドの中でもしっかり抜けそうなサウンドが印象的でした。中域が前に出てくる音の方向性はSHURE SM58と似ていますが、よりクリアな音質です。この適度に強いミドル感のおかげで、激しいサウンドのライブでもモニターのしやすさがバッチリだと思いました。パワー感がありながら、多少声を張っても暴れず、まるで音量が勝手に調節されているかのような錯覚を起こすほど。ロックでもポップでも、気持ち良く歌えそうです。また、持ち手のところには、PAD(感度の上げ下げ)とローカットの2つのスイッチが付いています。ライブ会場の規模に合わせてハウリング対策にも使えるこのスイッチですが、特にローカットのスイッチをオンにすると、スッキリした明るいサウンドに切り替わるので、宅録ではエフェクト的に使用するのもありかもしれません。

 どんな場面でも使いやすく、丈夫な設計なので、プロはもちろん、初めてのマイクとしてライブだけでなく宅録でも使えるものが欲しい、と思っている方にもお薦めしたいです! きっと長い間、お供になってくれるでしょう。そんな優しくて強いAE5400は、“こいつとなら親友になれるマイク”です。それでは皆さん、またどこかでお会いしましょう〜!

塩塚モエカ(写真右)とエンジニアの溝口紘美氏

塩塚モエカ:3人組オルタナティブ・ロック・バンド=羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲を担当。

 今回のエンジニア 
溝口紘美(ナンシー)
羊文学、シャムキャッツ、DEERHOOF、DMBQのツアーPAや、DOMMUNEやBLACK OPERA、Asian Meeting Festival、MultipleTapの音響など国内外で幅広く活動中。2020年からはオウンド・レーベルkazakami recordsをスタート!

SHURE SM58とはどう違うの?

✔ コンデンサー・マイク

✔ 周波数特性がSM58よりも広い

✔ −10dB PADスイッチを装備

✔ ローカットのオン/オフが可能

がなったり無茶してもひずまない

 最終回でSHURE SM58と歌唱比較を行うのは、AUDIO-TECHNICAのコンデンサー・マイクAE5400。歌唱後の塩塚モエカは「AE5400はSM58の進化版という感じがする。がなったりしても大丈夫そうです」と評す。エンジニアの溝口紘美氏もそれに同意した。

 「歌っていて楽しくなるマイクですし、とてもAUDIO-TECHNICAらしい、真面目さを感じます。言うなれば、歌に合わせてうまくチューニングしようと歩み寄ってくれるような、能動的なマイクだと思います。無茶なことをしてもオーバー・レベルでひずんだりしないのは、PA目線で見ても、とても扱いやすそうです」と話す。

SHURE SM58で歌唱する塩塚モエカ

SHURE SM58で歌唱する塩塚モエカ。比較には「マヨイガ」のワンコーラスを用いた。サビでダイナミクスが大きく変化する楽曲

AUDIO-TECHNICA AE5400を試している塩塚モエカ

AUDIO-TECHNICA AE5400を試している塩塚。歌い終わった直後に「AE5400はSM58よりもクリア」とコメント

SONY MDR-M1ST

モニター・ヘッドフォンは、今回もSONY MDR-M1STを使用した

 周波数特性は、SM58が50Hz〜15kHzなのに対し、AE5400は20Hz〜20kHz。溝口氏は「AE5400は周波数特性にそこまで癖が無い」と話す。ハンドヘルド・マイクのスタンダードであるSM58との違いは、果たしてどういったところにあるのだろうか。

 「SM58はフラットな音質で、AE5400もそこまで癖は無いのですが、やや中高域がキュッとした音かつ入力ゲインが大きめです。AE5400はひずんだギターや音数の多いオケと合わせても、存在感のある音像にできます。もし歌っていて、入力ゲインが大きいと感じたら、−10dB PADスイッチを入れるとさらに扱いやすくなると思います。PADスイッチが付いているメリットは、宅録用のさまざまなオーディオI/Oに問題無く対応してくれること。ローカット・スイッチも付いていて、オンにしてみると広がりを抑えられて、ナチュラルかつすっきりとした印象の音になりました」

エンジニアの溝口紘美氏

エンジニアの溝口紘美氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、溝口氏のAPPLE MacBook Proに入ったAVID Pro Toolsに録音

AE5400にはAT4050同等のダイアフラムを採用

 AE5400には、レコーディング・スタジオでも見かけることの多いAUDIO-TECHNICAのコンデンサー・マイクAT4050と同等のダイアフラムが採用されている。溝口氏は「これが一番重要なポイントだと思います」と話す。

 「スタジオ・クオリティのサウンドでありながら、ライブ現場で使える設計というのは、ポテンシャルの高さを感じます。ある意味では、AT4050がハンドヘルド型になり、外にも持ち運びしやすい設計になった製品。AE5400はAT4050よりも安いのでお買い得ではないでしょうか? 楽器もボーカルも録れますし、耐久性にも優れているので、とても便利だなと思います」

録音したボーカル・テイクを試聴する塩塚モエカとエンジニアの溝口紘美氏

録音したボーカル・テイクは、御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認

 塩塚は「AE5400はSM58よりも歌詞が聴き取りやすいので、バンドでライブに使用したときにモニターしやすそう」と話す。最後に、溝口氏はAE5400と相性がいいと思える音楽についてこう言った。

 「ポップ・ミュージックとの相性が一番良いのかな、という印象です。塩塚さんの声にも合っていましたが、比較的いろいろな人とマッチするマイクではないかと思います。値段は高いですがファースト・マイクとしてお薦めしたいです。いずれはもっと細かいニュアンスがありありと出るマイクを手にするときが来るとして、SM58を卒業して“初めてコンデンサー・マイクを使ってみたいけれど、機材のことは分からない!”といった人にお薦めです」

 

SHURE SM58(写真左)、AUDIO-TECHNICA AE5400(同右)

 SPECIFICATIONS 

SM58-LCE  14,080円(参考価格)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:50Hz~15kHz ■出力インピーダンス:300Ω(実効値) ■感度:−54.5dBV/Pa@1kHz(1.85mV) ■質量:298g

AE5400 オープン・プライス(市場予想価格:46,068円前後)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:20Hz~20kHz ■出力インピーダンス:150Ω ■感度:−40dB/Pa@1kHz ■質量:330g

製品情報